独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)電子光技術研究部門【研究部門長 原市 聡】酸化物デバイスグループ 相浦 義弘 研究グループ長、阪東 寛 上級主任研究員は、理工貿易株式会社【代表取締役 宮田 耕進】(以下「理工貿易」という)と共同で、最高加熱温度900 ℃の温度可変薄型試料台を組み込んだ小型超高真空プローバ装置を開発した。
昨今、新材料や新原理による革新的電子素子開発などの研究分野では、超高真空、極低温、高温などの極端環境条件下での電気特性評価のニーズが高まりつつある。今回開発した試料温度可変小型超高真空プローバ装置の試料温度範囲は-123 ℃~900 ℃で、10-8 Pa台の超高真空下で測定できるため、これらの分野への貢献が期待される。
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今回開発した試料温度可変小型超高真空プローバ装置の特徴 |
情報処理機器は小型化、高速化、高機能化、省エネルギー化を求められている。必然的に高集積化が進んで発熱が増え、熱的動作条件が厳しくなる。また、高効率のエネルギー変換技術開発や、自動車のエンジン付近、原子力発電所内部、宇宙空間など過酷条件でも確実に動作する高信頼性素子の開発も求められている。これらのニーズに対応できる電子素子、とりわけ炭化ケイ素、ダイヤモンドなどワイドギャップ半導体の素子の開発には、高温条件下での動作試験が欠かせない。一方、従来にない新機能を持つ素子の開発では、印刷薄膜回路、有機分子薄膜、機能性酸化物薄膜、金属量子細線、超伝導体など、従来のシリコン材料とは異なる新材料を用いた素子が検討されている。これらの素子の動作評価では、しばしば、試作後大気中に出さずに超高真空中やガス雰囲気下、高温や極低温などを複合させた極端環境条件下で動作試験を行う必要がある。
しかし、従来のプローバ装置では温度-20 ℃から150 ℃、10-5 Pa程度の高真空まででの評価が一般的であった。そのため、近年の電子素子研究開発現場で求められている500 ℃以上の高温、10-5 Paを上回る超高真空のような極端環境条件下での特性評価ができるプローバ装置が求められている。
産総研では、これまでに、超高真空中(到達真空度3×10-8 Pa)、高温加熱・極低温冷却下(最低10 K、最高900 ℃)で電気的特性を測定できる小型プローバ装置を開発した。この装置では金属フィラメントによる傍熱式加熱機構を用いたが、薄型にするには信頼性に難がある上、フィラメントからの熱電子放出が微小電流測定を妨げるという深刻な問題があった。今回、高温対応のセラミックヒーターを採用し、十分な熱接触、均熱性と熱膨張の自由度を両立させつつ昇温する手法を確立し、最高加熱温度900 ℃の薄型試料台を開発した。
従来のプローバ装置では、ステージ位置を3次元的に制御するXYZ機構に探針保持棒を固定して平行移動させる。冷却・加熱試料台を追加し、断熱のために装置内を高真空にできる試料温度可変プローバ装置でも、探針保持棒を動かしながら気密を保つ蛇腹を追加しただけで、同じ探針移動機構を用いている。その結果、探針の横手方向(保持棒の長さに直交する方向)の移動量よりも内径が太い蛇腹が必要となり、蛇腹の断面積にかかる真空引き込み力に対応するためプローバ装置は大型(700 mm角)で大重量(数百kg)であった。
今回の試料温度可変小型プローバ装置技術では、探針保持棒の位置制御には、真空槽入口部に球軸受けを置きXYZ機構との接続部にユニバーサルジョイントを配したウォブルスティック型てこ機構を用いている。この場合、真空槽の気密を保つための蛇腹の内径は球軸受けの球と同程度で、真空引き込み力も弱い。結果として、大幅に小型軽量化(300 mm角、十数kg)、低コスト化しつつ、従来の装置以上の性能が得られた(図1)。小型軽量化により、既設の試料作成装置の枝部に付加して、作製した試料を大気中に曝すことなく搬送して「その場」評価を行うことも可能となった。加えて、探針保持棒の途中に支点が加わるため、保持棒の剛性(棒の長さの3乗に反比例する)が大幅に高まり、探針位置の耐振性が向上した。
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図1 ウォブルスティック型探針保持棒によるプローバ装置の小型軽量化・低コスト化 |
図2に示すように、試料台を装置の中心から放射状に配置した低熱伝導度の薄肉ステンレス管部材によって保持して、冷却・加熱による試料台位置の温度変化を抑制した。これにより、素子特性の温度依存性を、探針位置を補正せずに連続的に評価できる。また、試料台を極低温冷却、高温加熱する場合は、黒体輻射による周囲部材との熱のやり取りが問題になる。今回、室温部と試料台との輻射バランスを考慮して試料台を囲むシールド板の温度と形状を設計し、試料冷却加熱性能と観察し易さを両立させた。
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図2 対称構造で温度変化を抑制し、温度依存性の連続測定を可能にした試料台保持機構 |
今回、高温用のセラミックヒーターを組み込んだ900 ℃加熱機構を開発したが、このヒーターは大気中での加熱用であるため、真空中での使用には、均熱性や試料台との密着性、熱膨張差などの課題があった。これらの課題を、ヒーターに高融点金属膜をコーティングするとともにバネ性を持たせた保持機構でヒーターと試料台との密着性を保つことによって解決し、有効面積25 mm角、厚さ13 mm、最高加熱温度900 ℃の薄型試料台加熱機構を開発した。
今後は、試料台を水平方向に移動する機構を加えて大面積ウェハ試料に対応する他、高周波帯での測定、超高真空中ホール測定を可能とするなど、小型超高真空プローバ技術のさらなる高度化を進める予定である。