独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【研究部門長 関口 智嗣】適応型システム研究グループ【研究グループ長 樋口 哲也】河西 勇二 主任研究員らは、財団法人 北九州産業学術推進機構【理事長 阿南 惟正】(以下「FAIS」という)半導体技術センター 【センター長 丸田 秀一郎】から受託した研究により、産業機器内の多数のセンサーやアクチュエーター等と制御装置を1本のケーブルで接続するシリアルバス通信システムを開発した。
このシステムでは、実時間性と頑健性(ロバスト性)を強化したシンプルな通信プロトコルを採用し、市販の安価な電子部品のみで構成可能で、ノイズに強く、しかも高速な通信(今回のプロトタイプでは通信遅延が0.2ms以下、通信速度2Mbps)を実現できるインターフェースを開発し、実際の装置でその有効性を確認した。
本システムにより、産業機器の製造時間の大半を占める配線関連作業時間を大幅に短縮でき、生産性の向上、機器の小型軽量化、メンテナンス性の向上が期待される。
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シリアルバス通信システムの適用例
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産業用ロボットや半導体製造関連装置などの産業機器には、一般に数百以上のセンサーやアクチュエーター、モータードライバー等が用いられており、それらを接続する信号ケーブル数は数百から千を超える(図1)。このため、産業機器の組み立て時間の半分以上が、これら膨大な配線関連の作業で占められている。そこで、シリアルバスによる省配線化技術が従来から注目されている。
自動車の配線ではCANと呼ばれるシリアルバスが一部で用いられているが、半導体製造関連装置や産業用ロボットでは、必ずしもシリアルバスが普及していない。その理由としては、
(1)アクチュエーターなどのオンオフにより通信ケーブルに発生したノイズが通信異常を発生させること(ノイズ耐性不足)、
(2)信号伝達の遅れがしばしば発生するため、リアルタイムでの動作が保証されないこと、
(3)既存の通信プロトコルを用いるため、インターフェースなどのコスト高、
があげられる。
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図1 従来の配線の様子
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束ねられた数百本の配線で、コントローラー、センサー、アクチュエーターなどがそれぞれ結ばれている。
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産総研は、これまで10ギガビットイーサネットの要素技術評価用プロトタイプを開発し、また、同イーサネット(IEEE802.3an)の規格標準化に参画するなど、高速データ通信技術においても高いポテンシャルを有している。
一方、FAISは、さまざまな研究機関や企業などをつなぐ産学連携のコーディネートを通じて北九州地区の産業技術の高度化を推進している。特に、北九州市内の半導体産業機器製造関連の企業からは、機器内配線の省配線化技術へのニーズが強く、ここ数年重点的に取り組んできた課題であった。
今回、これらの課題を解決するため、産総研で本受託研究を実施することになった。
本研究では、産業機器の省配線化技術を開発する上でのポイントを、コスト、ノイズ耐性、スピード(実時間性)の3つの点とした。いずれも産業機器メーカーからのニーズである。
開発したシリアルバス通信システムによる省配線化のイメージ と適用例を図2に示す。本システムは、1本のシリアルバスケーブルで複数のインターフェースを接続し、インターフェースを介して産業機器を制御するコントローラーと多数のセンサー、アクチュエーター、モータードライバーとの間で通信する。通信プロトコルはインターフェース部分に組み込まれ、シリアルバスによる通信を統括する。シリアルバスケーブルは、2本の信号線と2本の電源線を束ねたシンプルなものである。
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図2 シリアルバス通信システムによる省配線化と適用例
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本システムの特徴は次の通りである。
(1)実時間性と頑健性に特化したシンプルな通信プロトコルを発明し、きわめてノイズに強い通信を実現した。この通信プロトコルを用いたシリアルバス通信システムでは、仮にシリアルバスの信号をかき消すような強力なノイズが入っても、瞬間的なノイズであればノイズの直後から直ちに通信が可能となり、また通信が中断するようなノイズの場合でもノイズの解消後0.3ms以内に通信が再開できる。これにより従来の課題であったシリアルバス通信のノイズに起因する通信異常の問題が解消し、高速で信頼性の高い通信が可能となった。
(2)高速で実時間性の高い通信(今回のプロトタイプでは通信遅延が0.2ms以下、通信速度2Mbps)を実現した。これは、タイムトリガー方式をベースにした独自の通信プロトコルを発明したことによる。これにより、高速動作する装置内での通信遅れの問題が解消した。
(3)安価な汎用の電子部品だけでインターフェースを構成することができ、従来のシステムに比べ、製造に係る経費を1/5から1/10に軽減できた。これは、通信プロトコルをシンプルにしたことに加え、通信用のプログラムを工夫したことによる。これにより、従来のものより安価なシステム構成となり実用性を大幅に向上させた。
(4)本シリアルバス通信システムの導入は、既存のコントロール用ソフトウェアを活かしたまま可能である。すなわち、多数の配線をこのシステムに置き換えるだけで、きわめて簡単に省配線化ができる。誤配線の防止、配線確認の省力化により、産業機器の製造時間の大半を占める配線関連作業を大幅に短縮でき、生産性の向上、機器の小型軽量化、メンテナンス性の向上が可能である。
(5)多数のセンサーやアクチュエーター、モータードライバーなどを使用する産業用機器全般、産業用ロボット、車載電装品など製造業での実用化から、ヒューマノイドロボットへの組み込みまで幅広い分野で応用の可能性がある。
北九州市内にある産業機器メーカーである株式会社 春日工作所【代表取締役社長 岡住 督】の協力を得て、半導体チップ部品出荷検査装置に組み込んでの評価実験を行なった。この装置には300個ほどのセンサーが接続されていて、半導体チップのハンドリングを高速で行うため、実時間性が特に重要である。実際にこの装置を使って出荷検査を行い、シリアルバスによる高速通信動作を確認した。その写真を図3に示す。
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図3 半導体チップ部品出荷検査装置に組み込んでの評価実験
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本システムのプロトタイプは、安価な汎用の電子部品のみで構成したが実装するプログラムを工夫することで2Mbpsのバス速度、0.2ms以下の信号遅延の高速性能が得られた。さらに、高速処理が可能なCPLDや専用LSIを用いることで、1~2桁の速度向上が可能である。
本システムの完成度を高め、技術移転先の企業を探し、1年以内の実用化を目指す。本研究成果の実用化によって、産業機器の生産性向上、機器の小型軽量化、メンテナンス性の向上が期待される。また、開発した通信プロトコルをシリアルバス通信の国内・国際標準への展開も目指す。