株式会社バートン【代表取締役 木村 秀尉】(以下「(株)バートン」という)、独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 光技術研究部門【部門長 渡辺 正信】、浜松ホトニクス株式会社【代表取締役会長兼社長 晝馬 輝夫】(以下「浜松ホトニクス(株)」という)は共同で「空間立体描画(3Dディスプレー)」技術の高性能化実験に成功した。
本技術は、空間に発光したドット(点)をつくるもので、レーザー光の焦点で空気中の酸素や窒素の分子をプラズマ発光させる仕組み。(昨年2月開発記者発表)空間の任意の位置に自在に発光させることにより、立体画像の動画を実現する。今回の実験では、1秒間に1000個の発光点ができるため、スムーズな描画が可能になった。「テレビの父」高柳健次郎博士らが、世界で初めてブラウン管に「イ」の字を映し出したのが大正15年。テレビ誕生から80年を経て、同じ浜松の地で「イ」の字が3次元空間に映し出されることになった。
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空間に描画した「イ」の字(大きさ約40cm)
(Nikon D70 18-70mmF3.5-4.5G ISO200 F5.6 露出時間1/8秒) |
現在、3次元的に立体視できる映像技術の開発が盛んに進められている。しかしながら、ほとんどは人間の視差のみを利用した擬似的な3次元表示技術で、視野制限や疑似感覚による生理的不快感などの問題があり、長時間の鑑賞には適していなかった。これらの問題を全て解決するため、直接3次元空間に自由に描画できる技術が求められていた。
(株)バートン、産総研、慶應義塾大学は、昨年2月に、世界に先駆けて、集光レーザー光で焦点近傍の空気をプラズマ化し発光させることにより、空気以外に何も存在しない空間に、ドットからなる“3次元映像”を実像として描画する「空間立体描画」技術を開発発表した。
「空間立体描画」技術は、史上初めて映像にスクリーンという束縛がなくなった革新的な技術。3次元スキャニングシステムを用いて自在に、かつ正確にレーザー光の焦点位置を決め、空間の任意の位置に光のドットをつくることができる。また、1ドットあたりのパルス数を制御することで、発生するプラズマの輝度、コントラストを制御する。
一方、浜松ホトニクス(株)は、一昨年11月に、独立行政法人 科学技術振興機構(以下「JST」という)の委託を受け、財団法人 光科学技術振興財団が実施した静岡県地域結集型共同研究事業「超高密度フォトン産業基盤技術開発」に参画し、高繰り返しで高ピーク出力の「高強度フェムト秒全固体レーザーシステム」を開発していた。
このレーザーシステムは、繰り返し周波数1キロヘルツ、ピーク出力0.1テラワット、パルス幅100フェムト秒を実現した、世界に例のない小型で高強度な全固体フェムト秒レーザーシステム。レーザー光は、0.1兆ワットの光パルスを10兆分の1秒間、超高密度にして照射される。国内唯一の自社生産する高出力半導体レーザーを用いて全固体にしたことで、産業用に必須の高繰り返しと小型化を実現して、産業への応用が促進されると期待されている。
(株)バートン、産総研、浜松ホトニクス(株)は、三者の持つ技術を合わせ「空間立体描画」技術の高性能化を実現するために共同研究を開始した。
実験装置には、レーザー光源部分に浜松ホトニクス(株)が「高強度フェムト秒全固体レーザーシステム」をベースにして、本技術のために開発した高繰り返し(1000ヘルツ)で高平均出力(200ワット)のレーザーを導入した。走査系には、川崎市産学共同研究開発プロジェクト助成事業の支援の下に開発した3次元スキャニングシステムを使用した。
レーザーの繰り返し性能の向上に併せて、光学系の調整も同時に行うことにより、3次元映像をスムーズに描画することに成功した。本技術では、毎秒最高で1000ドットを描画することが可能である。
1秒当りの発光数が大幅に向上したことにより、従来に比べ3次元の描画がスムーズになり、動画表現の自由度も大きく広がった。これにより、“空間立体表示”の実用化に向けて一歩前進した。80年前にブラウン管に映し出された画像が「イ」の字だったのが、現在ハイビジョンテレビになっているように、技術革新によって、これまで概念でしかなかった“立体テレビ”など新世代の描画装置の実現につながることが期待される。
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(上) 昨年発表の描画装置による映像
(Finepix4900Z ISO200 F6.3 露出時間2.8秒)
(左) 今回の描画装置による映像
(Nikon D70 18-70mmF3.5-4.5G ISO200 F6.3 露出時間1/8秒) |
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新世代“立体テレビ”の想像図
(写真部分:Nikon D70 18-70mmF3.5-4.5G ISO200 F9.0 露出時間1/8秒) |
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新世代“空間立体表示”(信号機)の想像図
夜間に横断する人がいた場合に、空中に明るい人物像を表示することで交通事故を未然に防ぐといった利用法が考えられる。
(写真部分:Nikon D70 18-70mmF3.5-4.5G ISO200 F9.0 露出時間1/8秒) |
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「テレビの父」高柳健次郎博士とテレビ受像器に映し出された「イ」の字 |
今後、(株)バートン、産総研、浜松ホトニクス(株)は、共同で空間立体表示装置の高性能化を進めていく予定である。さらに、JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)研究領域「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」(研究総括 原島 博 東京大学教授)、研究課題「自由空間に3次元コンテンツを描き出す技術」(チームリーダー 斎藤 英雄 慶應義塾大学教授)において、慶應義塾大学、株式会社 エリオ、産総研、東京大学、株式会社 電通の共同研究として、「空間立体描画」技術のハードウェア技術とコンテンツ技術の開発、および市場化研究を推進していく。