独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 光技術研究部門【部門長 渡辺 正信】は、 慶應義塾大学【塾長 安西 祐一郎】(以下「慶應大」という)理工学部システムデザイン工学科 内山 太郎研究室、株式会社バートン【代表取締役 木村 秀尉】(以下「(株)バートン」という)と共同で、空気以外なにも存在しない空間にドットアレイからなる“リアルな3次元(3D)映像”を表示する装置の試作に成功した。
これまでに報告されている多くの3次元ディスプレイ技術は、人間の両眼視差を利用する3次元表示方法であり、視野制限や虚像の誤認識による生理的不快感などがあった。
本装置は集光レーザー光で焦点近傍の空気をプラズマ化し発光させるものであり、レーザー光の焦点位置を3次元空間中に自由に制御することで空中(3次元空間)に実像としてのドットアレイからなる3次元映像の表示を実現したものである。
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図1 3次元像空間描画装置を用いて表示した3次元画像
(露光時間3秒 F=4.5)
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我々は3次元(3D)空間に住んでおり、誰もが画像情報の理解促進のために3次元で画像情報を描写してもらいたいと考える。この要望を受けて、3次元的に立体視できる映像技術の開発が盛んに進められている。しかし、ほとんどの方法は人間の視差(図2参照)のみを利用した擬似的な3次元表示技術を使っており、視野制限、疑似感覚による生理的不快感などの問題があるため、長時間の鑑賞には適していなかった。大空間に描かれた3次元映像を、多くの人が映画のように同時に鑑賞できれば、従来の3次元映像が抱える問題を全て解決できる。このような要望から、直接3次元空間に映像を描画できる技術の実現が求められていた。
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図2 立体視の生理的要因
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空気中の3次元空間に輝点を作る技術として、レーザー光を空間中の1点に強く集光させ焦点近傍の空気をプラズマ化して発光させる技術がある。慶應大と(株)バートンは、この技術を使って、ドットアレイからなる空気中の2次元像表示にも成功している。
(株)バートンは、更にこの技術を発展させるため「川崎市産学共同研究開発プロジェクト助成事業」の支援の下、3次元で表示できる立体広告灯の実現を目指し、産総研および慶應大と共同研究を進めてきた。
これまでの空気中の2次元像描画技術は、レーザー光源とガルバノミラーを組み合わせることで実現しているが、3次元映像を描画するには焦点の位置も3次元的に正確に制御しなければならず、レーザーの品質および焦点可変方法などに大幅な改良が必要であり実現できないでいた。
今回、産総研、慶應大、(株)バートンは共同で、従来の2次元描画装置を改良し、焦点位置を制御するリニアモーターシステムと、高品質・高輝度赤外パルスレーザーを組み合わせて、ドットアレイではあるが“リアルな三次元(3D)映像”の空間表示に成功した。
開発した装置は、レーザー光の焦点位置を焦点位置調整用レンズ位置によって自在に、かつ正確に制御し、従来の2次元位置を制御するガルバノミラーに、この焦点位置調整用レンズを高速で位置制御できるリニアシステムを開発することで3次元映像描画に成功した(図3参照)。
使用したレーザー光源には、高品質・高輝度の赤外パルスレーザー(パルス繰り返し周波数 ~100Hz、パルス発光時間はナノ秒(10億分の1秒)オーダー、)を用い、プラズマ生成をより高精度に制御することに成功した。また、高輝度・高コントラストな描画を行うために、1ドットにつき2パルスを用いて人間の目に強く残像を残す方法を採用した。さらには、描画装置から描画ポイントまでの距離も数メーターと大幅に延ばすことに成功し、3次元広告用装置としても使用できるようになった(図4参照)。
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図3 三次元空間描画装置の概略図
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図4 本装置で描画した各種2D,3Dオブジェクト
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今回開発した装置は次世代の広告媒体として業界より注目されており、早期に製品化を予定している。また、今回の3次元画像描画は、レーザー装置の限界により100ドット/秒の表示であるが、更にドット数を増やして滑らかな映像を描画させたい。