HRP-3は、NEDO技術開発機構による「実環境で働く人間型ロボット基盤技術の研究開発」(02~06年)において開発された、次世代ヒューマノイドロボットです。
HRP-3 は、身長160cm、体重68kg(バッテリを含む)、腰2軸を含む42自由度を有し、2002年に発表したHRP-2に比べて12自由度(片腕下腕部1自由度、片腕ハンド部5自由度)が追加され、より複雑な作業への対応が可能となりました。
関節軸部や電装実装部については、外部環境からの防塵・防滴性を維持するとともに、ロボットの体内で生じる熱を排出する機構を開発し、屋外の建設現場などの悪環境・苛酷環境下でも稼動できることを実証しました。
また歩行機能の向上のため、人間型ロボットの歩行に最適で高出力な高効率アクチュエータを新規に開発し、歩行時間を従来の60分から120分にまで伸ばすことに成功しました。
HRP-3では、産総研の成果として、防塵・防滴機能と滑り易い路面上の歩行を実現するとともに、脚腕協調制御と自律動作・遠隔ハイブリッド型全身操作技術による作業機能の拡大を実現し、川崎重工の成果として、ヒューマノイドロボットの操作に適した遠隔操作コックピットを開発しました。
川田工業株式会社【代表取締役社長 川田 忠裕】(以下「川田工業」)は、独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」)、川崎重工業株式会社【代表取締役社長 大橋 忠晴】(以下「川崎重工」)と共同で、実環境で働く人間型ロボット:HRP-3 Promet Mk-II(以下HRP-3)を開発いたしました。
HRP-3は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】(以下「NEDO」)が2002年から5ヵ年計画で実施した基盤技術研究促進事業「実環境で働く人間型ロボット基盤技術の研究開発」【プロジェクトリーダー 比留川 博久( 産総研 )】の一環として、川田工業への委託・産総研と川崎重工への再委託により開発された実環境で働く人間型ロボットです。
共同開発の分担は、川田工業が主担当として人間型ロボットハードウェアの実環境対応技術の開発を行い、産総研知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループが人間型ロボットソフトウェアの実環境対応技術の開発、川崎重工が人間型ロボットの実環境遠隔操作技術の開発をおこないました。
HRP-3は、以下のような新機能・特長を持つことで、実環境で働く人間型ロボットの実現に大きく前進しました。
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身長160cm、体重68kg(バッテリ含む)、腰2軸を含む42自由度を有しています。より複雑な作業への対応を考慮し、腕部は、片腕7自由度、ハンドは、片ハンド6自由度としました。(川田工業担当)
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関節軸部や電装実装部位については、外部環境からの防塵・防滴性を維持するとともに内部熱源の外部排気が可能な機構を開発し、従来のロボットでは作業が難しかった悪環境・苛酷環境下でも稼動させることが可能なハードウェアとなっています。(川田工業担当)
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滑らかな歩容生成技術とスリップ検出技術を開発することにより、滑りやすい(摩擦係数:0.1の低µ)路上歩行が実現し移動機能が拡大しています。また、ZMPの概念を支持点が同一平面上にない場合に拡張した「一般化ZMP」と呼ばれる指標を考案し、手で体を支えながらの動作を行う脚腕協調制御を実現しています。(産総研担当)
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操作者が意識して行う動作を遠隔操作で指示して、バランスをとるような無意識動作を自律制御で行う自律・遠隔ハイブリッド型全身動作制御により操作機能が向上しています。また、操作に適した遠隔操作コックピット及び簡易操作装置を開発しました。(川崎重工担当)
また、2002年12月に発表したHRP-2と同様、HRP-3の外観デザインは、「パトレイバー」等のアニメーションメカデザイナーとして著名な出渕裕氏が担当いたしました。更に、同氏により、HRP-3を「
Promet Mk-II」と命名いたしました。
経済産業省は2006年3月、「新経済成長戦略」の中間発表の中で、ロボットは日本が「世界のイノベーションセンター」となるための一翼として位置付けるとともに、同年5月にロボット政策研究会報告書を発表し、愛・地球博における成果などを踏まえ、サービスロボット市場創出の支援や安全性確保に関するガイドラインをまとめるなど、21世紀の社会・経済環境の発展のために、次世代ロボットに大きな期待を寄せています。
今回発表するHRP-3など一連の研究開発は、次世代ロボットの最終形態の一つになることが期待されている人間型ロボットの実用化を目指し、NEDO基盤技術研究促進事業「実環境で働く人間型ロボット基盤技術の研究開発」の一環としておこなわれました。
我が国は急速に高齢化社会に突入しており、現在は人間しか行えない作業を代行できるロボットの実現が21世紀初頭の急務となっています。人間が働く職場、生活する家、使用する機械等は、何れも人間の形状及び機能に合わせて作られていることから、人間型ロボットにより人間の機能を代行出来れば、環境側への再投資は原則不要となり、社会全体のコストの低減も図れます。
これに対し1998年から5ヶ年計画で、NEDOが産総研と共同で実施した「人間協調・共存型ロボットシステムプロジェクト(HRP)」では、働く人間型ロボットの例を社会に示すことに成功しました。しかしながら、実際の労働現場や生活環境等の実環境で人間型ロボットを活用するためには、稼動可能環境の拡大、稼動可能時間の延長、滑り易い路面での歩行や片腕で体を支えながらの作業の実現、遠隔操作の高度化等、さらなる人間型ロボットの基盤技術の研究開発が必要でした。
かかる社会状況を踏まえ、本研究開発では、HRPの成果を最大限に活用し、それを発展させることにより、実際の労働現場や生活環境等の実環境で働ける人間型ロボットの基盤技術の確立を目的としました。
なお、HRP-3は、HRP-2の開発技術を継承するとともに本田技研工業株式会社の特許権を実施することにより利用しています。
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写真:左からHRP-2、HRP-3、HRP-3P
2007年6月25日追加 |
NEDO基盤技術研究促進事業「実環境で働く人間型ロボット基盤技術の研究開発」は、平成18年度(2007年3月末)で終了しました。今後は、本研究開発で得た基盤技術の安定化とコストダウンを実施し、私達人間の生活空間で働き、生活を豊かにしてくれるロボットの実現を引き続き目標として掲げてまいります。