独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【部門長 大和田野 芳郎】武内 洋 副研究部門長らは、札幌市【市長 上田 文雄】、東京理科大学【学長 竹内 伸】理工学部機械工学科 川口 靖夫 教授、財団法人 周南地域地場産業振興センター【理事長 河村 和登】および株式会社 藤原環境科学研究所【代表取締役社長 藤原 陽三】と共同で、地下2階地上19階の札幌市役所本庁舎の暖房用循環水に界面活性剤を注入し流動抵抗を低減させることによって、65%のポンプ動力削減に成功した。
今回実証研究の対象にしたのは、定格出力37kWのポンプと保有水量約32トンの貯水槽を含む温水循環システムである。このシステムが一日10時間、一年で240日運転され、電力単価を11円/kWhとして試算すると、年間の節電量は58,000kWhで、63万円の経費削減となる。また、二酸化炭素排出係数を0.555kg/kWhとすると年間32トンの二酸化炭素排出量削減となる。
地球温暖化問題の解決策として二酸化炭素排出削減についての議論が世界規模で議論されている。省エネルギー技術はこの問題の解決策の代表である。近年、省エネルギーのサービスを顧客に提供し、回収されたエネルギーの一部を報酬として得るESCO事業や建物内の快適性を保ちながら省エネルギーを計るBEMS事業の一項目として、建物内の冷暖房用水搬送の動力削減技術があげられている。界面活性剤注入による流動抵抗低減技術は主にヨーロッパを中心に研究がなされ実際に地域冷暖房で用いられているが、日本では研究所や大学での研究はあるものの、実際の空調設備・地域冷暖房等への適用は未だ一般化していない。その理由としては、複雑な配管システムを有する空調設備等において省エネルギー効率を予想するのが難しいことや、システムの維持管理の方法が設備ごとに異なること等が挙げられる。例えば、積雪寒冷地での適用は今回が初めてであるが、冬期は外気温が氷点下になるが外調機の凍結は絶対に避けなければならない。また、暖房期間が長く冷房期間が短いなどの条件下で一定の効率が維持できるのか等、技術が普及するためには実証研究などを介してのデータの蓄積と公表が不可欠である。
産総研では多くの省エネルギー関連技術の要素研究を行ってきたが、実際に社会で使われる技術に育てる本格研究において実証研究は有用な手段と考えている。一方で札幌市も地方自治体として省エネルギーに取組み、その成果を市民に示すために種々の活動を行っている。このような中で、2004年12月にエネルギーの有効利用を目的に、産総研と札幌市が研究協力に係る基本協定を締結し、札幌市の施設や用地内において産総研が札幌市と協力し実証研究を行い、データを示すことによって札幌市民に積極的に省エネルギー技術をアピールしてゆくことになった。
冷暖房の熱媒体である水に界面活性剤を注入し流れを層流化することで流体(界面活性剤を含む水)と配管内壁との摩擦を低減できる。これにより各部屋の冷暖房器に水(冷水や温水)を供給しているポンプの動力を削減し省エネルギー化をはかる。界面活性剤の注入によって水の循環流量が増加するが、定格流量に戻すために、インバータを用いて供給電気の周波数を落しポンプの回転数を下げる。この際ポンプ動力の減った分が電力の削減となる。
実証研究に先立ち界面活性剤の効果を左右する因子として、配管径、流速、水温、水質(防錆剤の共存)などについて事前に基礎的検討を加えた。その結果、界面活性剤はLSP-01A(エルエスピー協同組合製)を用い、濃度は約0.5%にすることとした。市役所本庁舎施設での実証研究では周波数35ヘルツで定格流量が維持できたので、これまでの50ヘルツ運転に比べ実測値で65%の電力量の削減となった(消費電力は周波数の3乗に比例する。)。二月下旬から五月中旬までこの条件で暖房運転を行いシステムの安定性、暖房性能などを中心にデータを取得してきたが特に問題は起きなかった。
冷房時もほぼ同じ循環配管系を用いるので、暖房時に用いた界面活性剤が冷房時にも有用であることを今年の夏に実証する。通年の実証研究で初期コストやランニングコストの試算、および界面活性剤を用いることでシステム維持管理が複雑にならないか等についても検討を行う。本研究が特定の一施設での実証に止まらず、いろいろな建物で用いられ実効ある省エネルギー技術として普及するよう取組み、近い将来、新設の設備には本技術が採用されることを期待する。