2004年スマトラ島沖地震による地殻変動は、スマトラ島から1000 km以上離れたアンダマン諸島北部まで達していることが、現地調査によって確認された。同諸島北西部では断層運動により陸地が1 m以上隆起し、サンゴが海水面上に持ち上げられて死滅した。アンダマン諸島では、地震波や津波の解析からは断層のすべりは小さいと推定されていた。本調査によって、大きな破壊領域はアンダマンまで延びたが、地殻変動は比較的ゆっくりとしたすべりによることが明らかになった。住民の証言によると、地震時に低下した海面はその後の約2ヶ月間で3割程度回復した。これは、本震後さらにプレート境界が浅部にゆっくりとすべったことを示唆する。この研究は科学技術振興調整費「スマトラ型巨大地震・津波被害の軽減策」研究代表者 加藤照之地震研究所教授)によるものである。
2004年12月26日スマトラ島沖地震はマグニチュード9クラスの超巨大地震であり、その津波によってインド洋周辺諸国に大きな被害をもたらした。地震波や津波の解析からは、スマトラ島周辺での断層面上のすべりは30 mにも及んだことがわかっている。しかしながら、スマトラ島付近で始まった断層の破壊がどこまで達しており、どのようにして終了したのかはよくわかっていなかった(図1)。地震波や津波の解析によると、アンダマン諸島での断層すべり量はスマトラ島沖に比べて非常に小さいとされる。一方、GPS解析や衛星写真の解析はアンダマン諸島でも大きな地殻変動が発生したことを示していたが、現地調査は行われていなかった。東京大学と産業技術総合研究所は、2005年3月と2006年3月にアンダマン諸島において、インド地質調査所、インド科学技術研究所と共同で現地調査を行い、スマトラ島沖地震にともなう地殻変動がアンダマン島諸島まで達していたことを確認した(図2、3)。アンダマン諸島北西部では、海面下でしか生息しないサンゴが地震による地殻変動で海面上に隆起し死滅した(図2)。一方、アンダマン諸島南部では地震の際に沈降したため、満潮時には陸地まで浸水するようになった。隆起した地域の住民証言によると、地震当日に下がった海面は、その後の約2ヶ月間で3割程度回復した(図4A)。これらの観測事実は、地震時に比較的ゆっくりしたすべりによって隆起し、その後2ヶ月ですべりがゆっくりと浅い方にのびて沈降したことによって説明される(図4B、C)。
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図1 2004年スマトラ島沖地震の震源域。黄色い星が震源。青は津波の波源域、赤は断層面上のすべりが発生したと推定される領域。アンダマン諸島(□で囲まれた地域)は津波波源域には含まれていないが、今回確認された海面変動からはゆっくりとすべったと考えられる。
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図2 アンダマン諸島北西部のノースリーフ島で発見された隆起サンゴのマイクロアトール(2005年3月撮影) 。2004年スマトラ島沖地震による地殻変動で隆起したため海面上に姿を出し、死滅した。
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図3 アンダマン諸島における2004年スマトラ島沖地震の地殻変動量。図中の数字と等高線で、正負の数字がそれぞれ隆起・沈降量(単位メートル)にあたる。2005年3月までの余効変動も含む。北西部では最大1.3 m隆起し、南東部では最大1 m程度沈降した。
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図4 (A) 住民の証言に基づく地震後の海面変化。 (B) アンダマン諸島を横断する断面沿いの、地震時・地震後の地殻変動を説明するモデル。地震時、下図の青い部分がすべって上図の青い曲線のような隆起・沈降が起こった。地震後にさらに赤い部分がすべり、隆起域が前進するとともに、その背後に沈降域が生じた。
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※ この結果は米国地球物理学連合の速報誌Geophysical Research Lettersに1月13日に刊行され、1月19日にEditor’s Highlightsに選ばれた。
雑誌
Geophysical Research Letters
著者
Hajime Kayanne, Yasukata Ikeda, Tomoo Echig, Masanobu Shishikura, Takanobu Kamataki, Kenji Satake, Javed N. Malik, Shaikh R. Basir, Gautam K. Chakrabortty and Ashish K. Gosh Roy
タイトル
Coseismic and postseismic creep in the Andaman Islands associated with the 2004 Sumatra-Andaman earthquake