独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】地質リモートセンシング研究グループ浦井稔主任研究員は、NASAのTerra衛星に搭載された経済産業省開発の高性能光学センサ(ASTER)を使って、インドネシア、メラピ火山の噴火に伴う山頂部の温度上昇を確認した。
メラピ火山等溶岩ドームを形成する火山では温度上昇域の面積がマグマ供給量と相関が強いことから、温度上昇域の面積を監視することは火山防災上重要である。産総研は、夜間のASTER画像を用いてメラピ火山の温度監視を行っているが、5月5日の観測で著しい温度上昇域を検出した。これは最近活発化している溶岩ドームの活動によるものと考えられる。
産総研は、ASTERを使って世界の火山の観測およびその解析研究を実施しており、その衛星画像をデータベース化して公開している。https://gbank.gsj.jp/vsidb/image/
また、財団法人 資源・環境観測解析センターは、資源探査の効率化に資する地質情報を取得するために、ASTERデータの画像処理を行っている。
メラピ火山は、インドネシアで最も活動的な火山の一つで、人口35万人のジョグジャカルタ市の北30kmにある。1930年の噴火では約1400人が死亡した。 最近では、1994年に噴火、約70人が死亡した。
インドネシア、ジャワ島のメラピ火山(南緯7度32分、東経110度26分、標高2968m)は、4月からその活動を活発化しており、溶岩ドームの成長や火山性地震が観測されていた。財団法人 資源・環境観測解析センターは、ASTERの打ち上げ以来メラピ火山の観測を継続しているが、 産総研は観測された画像を基に、メラピ火山の温度上昇域を解析した。5月5日には昼間の観測も実施し、メラピ火山から噴煙が上がっていることを確認した。
【図1】はASTER画像から計算したメラピ火山の温度分布である。標高に伴って温度は低下するが、山頂は火山活動のため温度が高くなっている。5月5日以前の観測では山頂は20℃以下であったが、5月5日には20℃以上に上昇し最高29℃を観測した。地表に露出したマグマの温度は数100℃であるが、ASTERは90m×90mを単位として観測しているためマグマが露出している割合が小さい場合、観測される温度はマグマ温度より低くなる。温度は気象状況や季節等によって変化するが、5月5日の観測では山頂以外の地域では温度が低下しているにもかかわらず、山頂の温度が著しく上昇していることから、この温度上昇は火山活動によるものと考えられる。
【図2】は5月5日の昼間に観測したメラピ火山のASTER画像である。山頂から東北東に流れる噴煙が、雲の合い間から見える。南西側に見える黒い筋は過去の火砕流や土石流の跡である。
産総研は、財団法人資源・環境観測解析センターにより取得されるASTER衛星画像について、引き続き火山観測およびその解析研究を継続する予定である。