独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 光技術研究部門【部門長 渡辺 正信】の 新納 弘之 研究グループ長、川口 喜三 主任研究員らは、レーザー光化学加工を用いて石英ガラスなどの表面に微細加工するレーザー加工装置を開発した。
石英ガラスなどの透明材料表面を微細加工する技術は、フォトニクス(光技術)研究開発のキーテクノロジーの1つである。しかし、フォトニクス材料は一般に硬質で加工が難しく、また、大面積での加工が求められている。今回開発した装置は、産総研が独自に開発したレーザー背面湿式加工法(LIBWE法:Laser-induced backside wet etching、以下「LIBWE法」という)という保護膜層が不要な高品位表面加工法を用いたもので、寸法精度の高い露光マスク縮小型と、試作品が簡単にできるレーザー走査照射型の二種類である。これらの装置により、従来のリソグラフィー加工では不可欠であった保護膜層が不要で、かつ高品位に石英ガラスの大面積ラピッド・プロトタイピング加工(迅速試作加工)が可能となった【図1】。今後、フォトニクス用の石英ガラス製微小デバイス等の開発への応用を進めていく予定である。
なお、インターオプト’05展示会(7/13-15幕張メッセ、財団法人 光産業技術振興協会 主催)の産総研 光技術研究部門ブースにおいて加工試作品の展示を行う。
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図1 大面積加工の一例、レーザー走査照射型装置にて作製
(着色して見えるのは透過型回折格子からの散乱光の干渉現象によるもの)
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石英ガラス等の透明材料は広く光学素子等に利用されており、微細加工による光デバイスの微細化、高集積化はフォトニクスの発展の上で必須のキーテクノロジーの1つになっている。産業界ではこれまで石英ガラスの微細加工を光リソグラフィー技術と強酸水溶液あるいはプラズマを用いたエッチングで行ってきたが、保護膜層であるフォトレジストの塗布、感光、エッチング、フォトレジスト除去等、多段階にわたる工程が煩雑であるなど大きな問題点を抱えている。このため、簡便な微細表面加工法が求められてきた。
光技術研究部門では、LIBWE法と名付けた独自のコンセプトに基づく紫外レーザーを用いた石英材料の微細加工技術を研究してきた。これは、ナノ秒パルスのエキシマレーザー照射で誘起される溶液のアブレーションによって石英基板表面を微細加工する手法である。これまでに、レーザー照射光学系の改良ならびに溶液組成の最適化を行うことで、石英ガラス母材の特性を生かしたまま、その光学特性や超微細加工特性を格段に向上させることが可能になった。本手法はレーザー間接励起加工法とも呼ぶことができ、海外においても注目されており、欧米の研究機関でLIBWE法による微細加工研究開発が活発化している。今回のプレス発表はLIBWE法の高度化技術の開発に関して、他研究機関に先行して大面積微細加工と深掘加工の開発に成功したものである。
なお、本研究の実施にあたっては、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の平成16年度産業技術研究助成事業(課題名:石英ガラスのレーザー光化学加工による高機能微細デバイス作製技術の開発)、および、文部科学省の科学技術振興調整費「中核的研究拠点(COE)育成」(課題名:光反応制御・光機能材料)からの研究資金提供を受けている。
LIBWE法は、紫外レーザーをよく吸収する色素溶液を加工対象に接触させた状態で、紫外レーザーを照射し、色素溶液のアブレーションによって間接的に石英ガラス表面を微細加工する大気圧下レーザー加工法である。フォトレジスト保護膜層形成工程や除去工程、あるいは真空などが不要であるため、他手法と比較して前処理や後処理が簡便である。今回、エキシマレーザー露光マスク縮小型【図2a】と全固体紫外レーザー/走査鏡照射型【図2b】の二種類の加工装置を完成させた。
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図2a 実験装置図(エキシマレーザー露光マスク縮小型)
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図2b 実験装置図(全固体紫外レーザー/走査鏡照射型)
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露光マスク縮小型では水平分解能1µm(マイクロメートル:千分の1ミリメートル)までの高い寸法精度が得られ、さらにレーザーパルスを多数照射することで高アスペクト比深溝加工が可能である【図3、4】。図3は幅7µm、深さ420µmの深溝加工を行った試料断面の顕微鏡写真で、良好な高アスペクト比加工が達成されている。この加工には25,000パルスのレーザー照射が必要であったが、80 Hzの繰返し周波数で照射しているので、約5分間の照射時間で作製できる。従来法ではこのような良好な加工は不可能であるとともに、加工時間も数時間を要していることからも、この技術が画期的であることがわかる。
また、走査鏡照射型ではCAD加工データから直接、高速転写加工でき、パターン・マスクなどを作製せずに5cmx5cmの大面積の迅速試作加工が行える。図1は産総研ロゴの形の透過型回折格子を作製したもので、表面の微細な格子構造から散乱された可視光の干渉により色がついて見える。設計図がコンピュータ上にあるので、容易に加工パターンの修正を行うことが可能で、試作品の納期を短くできる。
本加工法は、石英ガラスだけでなく、フッ化カルシウム、サファイア、フッ素樹脂などの紫外線に透明な材料にも同様に、加工部周囲にクラックなどの損傷のない高品位な微細加工が行える汎用表面加工法である。
図3 深溝加工後の断面顕微鏡写真
(露光マスク縮小型にて作製)
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図4 回折格子構造の断面顕微鏡写真
(露光マスク縮小型にて作製)
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インターオプト’ 05展示会(7/13-15幕張メッセ、財団法人 光産業技術振興協会 主催)の産総研 光技術研究部門ブースにおいて加工試作品の展示を行う。今後、オプトエレクトロニクス用石英ガラス製微小光デバイス等の開発、ならびに、レーザー加工された石英ガラス基板表面の微細構造を鋳型として用いた樹脂材料のインプリント表面加工への応用などを進めていく予定である。