独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)、生物機能工学研究部門【部門長 巖倉 正寛】は、環境エンジニアリング株式会社【代表取締役社長 後藤 英生】との共同研究により、新規な遺伝子定量・解析技術を開発した。
これまで、微生物や動植物に含まれる遺伝子の定量や、食用動物の疾病や品質の判定、テーラーメイド医療に欠かせないSNP(一塩基多型)の解析には、知財に防衛された国外技術の利用が不可欠で、事業に用いる場合には多額の特許使用料が必要となるため、純国産のSNP解析技術の確立が切望されていた。このような中で、上記共同研究を元にして、シンプルな蛍光消光プローブを利用した純国産の遺伝子定量技術、SNP解析技術等の開発に成功した。本開発技術は、研究目的のみならず、環境分野・農業畜産分野・医療分野等における利用も可能な技術であり、更に、研究の進展によるわが国のポストゲノムの推進に大きな寄与ができるものと期待される。
産総研 ベンチャー開発戦略研究センター【センター長 吉川 弘之】では、これらの成果を活用したベンチャー創業が有望と判断し、スタートアップ・アドバイザー主導のもと、スタートアップ開発戦略タスクフォースを編成し、実用化に向けた追加研究開発の助言、市場調査に基づくビジネスモデルの策定、事業計画の作成、そして会社設立に至る一連の創業準備等の総合的支援を行ってきた。
クエンチングプライマー/プローブ(QP)法の適用拡大に関する研究は、平成14年度に採択された文部科学省 科学技術振興調整費 「戦略的研究拠点育成」事業であるベンチャー開発戦略研究センターのタスクフォース案件として採択され、同センターの支援を受けて実施した。
今回、このような総合的支援を背景に、本成果を広く普及させることを目的として、環境エンジニアリング株式会社に加え、医療検査機器・試薬メーカーであるアークレイ株式会社【代表取締役社長 土井 茂】の参画も得て、株式会社J-Bio 21【代表取締役社長 児玉 俊史】を平成16年12月1日に設立した。その後、生物機能工学研究部門 副研究部門長 中村 和憲が役員に就任し、AISTベンチャー企業の認定を受けた上で2月1日から事業を開始している。株式会社J-Bio 21は、既に蛍光消光オリゴヌクレオチドの合成受託事業を実施するとともに、和牛の疾病や品質の判定に係わるSNPの解析システム開発にも成功し、事業展開を進めている。将来は、遺伝子解析商品や機器の販売の他、これまでに蓄積した研究のノウハウを生かし受託分析事業やコンサルタント事業で遺伝子解析、研究分野の技術提供・提案も行う、提案型ソリューション企業としての成長を目指す予定である。
遺伝子解析関連研究分野においては、試験管内での遺伝子増幅法であるPCR 法が開発された後、増幅遺伝子を利用した各種の遺伝子定量・解析手法が開発、利用されている。しかし、利用されている技術のほとんどが国外で開発された技術であり、その産業利用には多額の特許使用料を支払っているのが現状である。このような中で、国産の遺伝子解析技術の開発が今後のわが国のバイオテクノロジーの推進、ポストゲノム研究の推進に欠かせない状況となっている。
平成9年度から13年度までの5年間にわたり、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】の産業科学技術研究開発事業の一環として「複合生物系等生物資源利用技術開発」事業が実施された。本事業は、産総研(旧工業技術院生命工学工業技術研究所)を中核として、民間企業等との共同研究によって推進された。
本事業において、産総研と環境エンジニアリング株式会社は、複合生物系解析技術の開発について共同研究を実施し、新規な遺伝子解析技術を開発したものである。また、本事業終了後も更なる研究を共同で進め、新技術の開発を行ってきた。
本共同研究開発によって得られた基本技術は、蛍光消光現象を利用した遺伝子検出法(QP法)とFRET(蛍光共鳴エネルギー転移)を利用したSNP検出法(SNaPpy法)であるが、両技術を用いたSNP解析の特徴と実施例について、以下に概説する。
特定SNP解析技術
QP(Quenching Probe:Q-プローブ)法は、化学合成した遺伝子断片にある種の蛍光色素を付けておくことで、この断片が標的核酸に結合した際、標的中のグアニン(G)の作用で蛍光が消光し、解離すると一旦消光した蛍光が発蛍光する現象を利用する遺伝子検出・解析法である。このようなQ-プローブの性質の内、一旦消光した蛍光が発蛍光する現象を利用することにより、温度解離曲線からSNP(一塩基多型)と呼ばれる塩基のわずかな違いを検出することができる。蛍光色素は遺伝子断片に一つ付加すれば良く、二種類の蛍光色素を付加しなければならない従来のTaqMan法(現在最も広く利用されている方法)に比べて設計が容易になることから、使いやすさの点で優れている。
遺伝子診断のための特定SNPの解析にはTaqMan法の利用が可能であるが、本手法はロシュ社の特許技術となっており、事業に用いるには権利の取得が必須となっている。このため、既に実施されている和牛等家畜のSNP解析には、PCR 増幅産物を特異的な制限酵素で切断し、ゲル電気泳動パターンから判別しているケースがほとんどである。Q-プローブを利用した温度解離曲線解析法は、煩雑なゲル電気泳動法に代わる方法として、製品化が進められている。本手法は個人の遺伝子情報に基づいた医療(テーラーメイド医療)の提供等にも適用可能である。【解説1参照】
解説1
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特定SNP解析技術(Qプローブ法)
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■特徴
1) PCR等の遺伝子増幅法との組み合わせでゲノムDNAから1stepでSNP解析可能。
2)1プローブで1SNP解析可能→プローブ費用が大幅にダウン。
3)2色までのマルチプレックスに対応→2つのSNPを1チューブで解析可能。
■原理
QProbeと増幅産物との解離曲線解析によりSNPを判定します。
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図 QP法によるSNP検出の概要
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図 QP法によるSNP検出結果
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網羅的SNP解析技術
SNaPpy法は、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)を利用した新規なSNP検出法である。上述のQ-プローブ法、TaqMan法では、SNPごとに蛍光色素を付加した遺伝子断片を合成する必要があり、同一のSNPを多数解析する場合にはコストメリットが出てくるが、多数のSNPを少数解析(SNPの網羅的解析)する場合にはコスト高になるという欠点がある。このような用途では既にインベーダ法(サードウエイブ社)が開発されているが、SNaPpy法はインベーダ法に対抗できる手法になるものと期待される。SNaPpy法は、蛍光色素を付加した四種類の核酸塩基(遺伝子断片の構成成分)と非標識のオリゴヌクレオチドを利用することにより、すべてのSNP解析に対応できる。このため、SNPを網羅的に解析する必要がある場合には、蛍光標識遺伝子断片の合成にかかっていた費用と時間を大幅に削減することが可能となる。更に、実験条件がすべてのSNPで同一のため、SNPごとに条件を検討する必要がない。疾病原因遺伝子の特定には、数万ヶ所のSNPを解析する必要があると言われており、SNaPpy法はこのように大量のSNPを、安価・簡便に解析する必要がある場合に適している。【解説2参照】
解説2
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網羅的SNP解析技術(SNaPpy™法)
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~ 一塩基多型(SNP)を解析するための安価で簡便な新規手法 ~
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■特徴
1)蛍光標識モノヌクレオチドは種々のSNPに共通に使用可能なため経済的。
2)一塩基伸長反応条件はすべてのSNPsで同一なため、SNPごとに条件検討を行う必要がない。
3)蛍光の測定は反応終了後一度だけで、高価な蛍光測定装置を効率よく使用できる。
4)プライマーはSNP部位の一塩基手前までに相補的な配列を合成すればよく設計がシンプル。
5)操作は単純な試薬の添加と温置のみで、精製・分離操作は不要。
→他種類のSNPを解析する、網羅的なSNP解析に好適!!
■原理
SNP部位を含むRCR断片を鋳型にして、一塩基伸長プライマー、核酸結合色素(核酸に結合すると光を発す)、蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(SNPに対応する2種類のヌクレオチドを別々の標識)を用いて一塩基伸長反応を行う。一塩基伸長産物に付加した蛍光色素は、FRETにより核酸結合色素からエネルギーを受け取り対応する光のみが光る。
従って反応終了後に2色(例では、オレンジと赤)の蛍光強度を調べることでSNPの種類を同定できる。
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株式会社J-Bio 21では、今後飛躍的な伸びが予想されるバイオビジネス市場で、Q-プローブ等、遺伝子定量・解析用オリゴDNA受託合成事業を中心に、家畜疾病・品質関連遺伝子解析に適用可能な独自技術を駆使した製品(解析キット、解析システム)の販売、遺伝子解析に係わるコンサルタント事業等を行う。また、今後も引き続き次世代バイオ技術を開発し、順次、キット販売、専用装置販売等事業範囲を拡大して行く予定である。5年後には6億円/年の売り上げを目指している。