独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【部門長 坂上 勝彦】は、2005年3月25日から愛知県で開催される「愛・地球博」(EXPO 2005 AICHI JAPAN)のテーマ館「グローバル・ハウス」において、展示会向けの統合情報支援システムを提供します。
この統合情報支援システムは、協奏計算アーキテクチャ「CONSORTS(コンソーツ)」※を基盤ソフトウェアとし、カード型情報端末「Aimulet(アイミュレット)GH」を用いて、
(1) 来館者への自動音声ガイドサービス
(2) 来館者の入出場管理、来館者の流動解析 などを行う、展示会場の運営支援を実現します。
Aimulet GH は、音声ダウンロード機能と、東京特殊電線株式会社【取締役社長 小泉 伸太郎】(以下「東京特殊電線」という)が開発したアクティブ型無線ICタグシステム「MEGRAS(メグラス)」を用いた来館者の位置情報の取得機能を持っています。
産総研では、このシステムを実際に愛・地球博で運用することにより、マルチエージェント技術の有効性を実証し、来たるべきユビキタス情報社会において「安全・安心・利便性」の調和のとれた公共空間のデザインを実現します。
※ 2004年12月14日プレス発表 「アクティブ型無線ICタグとマルチエージェント技術による展示会統合支援システムを実用化」
「グローバル・ハウス」の音声ガイドコンテンツ
愛・地球博のテーマ館であるグローバル・ハウスには、「自然の叡智」を来館者に感じていただくために、「地球と人類の過去、現在、未来」、また、地球と人類の相互作用を不可避なものにした「人間の想像力」に焦点をあて、最新の技術を駆使した映像と世界各国からの貴重な展示品、マンモスの冷凍標本など、多彩な体験空間が用意されます。
これらの多彩な展示・演示に加えて、“もう一つの”ユニークな演示が、《「見えないもの」を「見えるもの」に》をキャッチフレーズとする、日本語、英語による音声ガイドのコンテンツです。展示品を見ながら解説を聞くことができるだけでなく、「グローバルナビゲーター」である 荒俣 宏 氏が、「人間の想像力」という観点から、来館者の想像力を刺激するメッセージを耳元でささやいてくれます。
自動音声ガイドサービスの概要
こうしたユニークな音声コンテンツを提供する媒体となるのが、産総研が開発したカード型情報端末「
Aimulet(アイミュレット) GH」です。
Aimulet GHは、赤外線で送られてくる音声信号をそのまま太陽電池で電気信号に変換しスピーカーを鳴らすため、バッテリーなどの電源が要らず、小型軽量(カード状、厚さ5mm、重さ28g)という特長を持っています。音声情報の送信装置は、赤外線LEDを配列した発光部とドライバで構成されます。利用者は、送信装置の発光部に
Aimulet GHの太陽電池の面を向けながら、コーナー部(正面右下突起部分)にある音の出口を耳にあてて解説を聞きます。そのため館内に配置した送信装置ごと(展示品別)に異なるコンテンツを聞くことができます。
カード型情報端末 Aimulet GH の運用
グローバル・ハウスでは、最初のコーナーで各来館者に、日本語用または英語用の
Aimulet GHを配付し、はじめにビデオ画面で簡単な使い方のガイダンスを行います。会場内の「プロローグ ゾーン」、「グローバル ストリート」、「グローバル ショーケース」で天井から吊り下げられた送信装置に
Aimulet GHを向け、耳にあてると音声が聞こえます。音声情報には、各展示品に関する解説と、来館者のイマジネーションを刺激するグローバルナビゲーターの語りかけの2種類があります。
Aimulet GHは展示ゾーンの出口で回収し、清掃(殺菌消毒)して再び使用します。
技術の特徴
この自動音声ガイドサービスの技術の特長は、ただカードを耳にあてるだけで、「いま、ここで、見ている展示品」についての音声ガイダンスを、的確に提供できる点にあります。従来、美術館・博物館等で提供されている同種のシステムは、展示品の作品番号を打ち込む、バーコードをかざす、あるいは端末のボタンを操作するなどの操作を必要としました。これに対して、
Aimulet GHは、ただ耳にあてるだけという非常に簡単なインタフェースです。またシンプルな回路構成と省電力技術により小型・軽量化を実現。利用者の操作負担をできるだけ軽くするという、
ユビキタス情報環境のあるべき一つの理想型を追求しています。
今回は特に、2種類の波長の赤外線による2チャンネル音声配信を実現するとともに、田淵電機株式会社の協力を得て、 0.5×3 mという広い範囲への音声配信が可能な赤外線光源を開発しました。
また
Aimulet GH は、東京特殊電線が開発したアクティブ型無線ICタグ MEGRAS を内蔵しており、来館者の位置を把握することができます。これにより、次に述べるような会場の運営支援が可能となりました。
大規模公共空間での流動解析
統合情報支援システムが備えるもう一つの機能が、会場の運営に対する支援です。協奏計算アーキテクチャ「
CONSORTS(コンソーツ)」が、
Aimulet GHに内蔵された
MEGRAS からの情報をもとに、来館者の動きを検出・分析する流動解析を行います。今回の愛・地球博では、この機能を利用することで、どの展示品に人気があるか、会場をどのようにレイアウトすれば混雑が緩和されるかなどの解析が可能となります。
こうした来館者の流動解析は、より良いサービスの提供、サービスの改善、混雑・混乱の未然の回避、緊急時の誘導や救援などに役立つ、公共的な基盤技術として重要性が高まっていますが、その一方で、プライバシーへの配慮の視点が不可欠です。今回のシステムでは、来館者は氏名・住所等の個人情報を登録する必要がないため、プライバシー侵害の心配は全くありません。
技術の特徴
今回の統合情報支援システムは、来館者のプライバシーを守りながら、来館者一人ひとりの位置や移動軌跡情報をリアルタイムかつ低コストで取得し、状況に応じて1~10m程度の精度でデータ化することが可能です。さらには、これらの情報を解析させることにより、大規模な公共空間で、来館者に応じたコンテンツを提供する、道案内を行う、混雑を減らすように案内方法を変更する、展示品の配置を見直すなど、来館者に対してより良いサービスを提供することができます。
産総研では、愛・地球博において、1)より確度の高いデータの捕捉、2)言語コンテンツを自動的に切り替えるサーバ、3)来館者の行動を予測するマルチエージェントシミュレータ、4)来館者の行動パターンを推定する
データマイニングの技術を統合し、来館者と展示会運営者の双方を支援するシステムを提供します
今回の愛・地球博グローバル・ハウスに提供する統合情報支援システムの技術は、今後次のような点で実社会への展開が期待されます。
- 高い拡張性と柔軟性があり、さまざまな規模・目的の空間に合わせた社会的活用が可能
- 大規模な公共空間で、一人ひとりのプライバシーを守りつつ、混雑回避、ナビゲーション、適切なサービスの提供などが可能
- 流動解析とデータマイニングを活用することで、より良いサービス提供のためのマーケティング支援が可能
- 展示会などにおける運営の効率化、必要人員の削減が可能
- 災害時などに、緊急度・重要度を判定しながらの救援活動や、混雑緩和・安全な避難経路の誘導の支援などが可能
産総研では、本システムの提供によって得られた一連の知見・成果をもとに、産学官にわたる共同研究や技術移転を積極的に展開し、来たるべきユビキタス情報社会における、「安全・安心・利便性」の調和のとれた公共空間の設計に貢献すべく、さらなる技術の創出を目指します。