独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【研究部門長 坂上 勝彦】マルチエージェントグループの車谷 浩一研究グループ長の研究チームは、東京特殊電線株式会社【取締役社長 小泉 伸太郎】(以下「東京特殊電線」という)と、産総研が開発した協奏計算アーキテクチャ『CONSORTS(コンソーツ)』及び 東京特殊電線が開発したアクティブ型無線ICタグシステム『MEGRAS(メグラス)』を使用して、ユビキタス情報環境向け展示会統合支援システムを実用化した。
- アクティブ型無線ICタグシステムを用いることにより、展示会来場者のプライバシーを守りながら、来場者個々の位置や移動軌跡情報を、離れた場所から「リアルタイム」かつ「低コスト」で取得し、データ化することが可能。
- 展示会の来場者は、自分の興味に応じたコンテンツの配信を個別に受けることができる。
- 協奏計算で提供されるデータマイニングやシミュレーションの情報を用いて、展示会のレイアウト支援やマーケティング支援(流動解析)を可能とした。
- マーケティング支援として、1) 各展示物に対する来場者の興味度の判定、2) 興味度に応じたコンテンツの選択と配信、3) 各展示物や通路の混雑度の予測、4) 混雑を緩和するようなナビゲーションなどの情報サービスを提供することが可能となった。
- これにより展示会運用のための人員を大幅に省力化できる。
- ソフトウェアは、高い拡張性と柔軟性を確保した設計で、展示会の性格に合わせたデバイス選択のカスタマイズが容易。このため従来のような特注のソフトウェアを用いる必要がなく展示会運用の低コスト化に貢献。
今回のシステム開発では、産総研が多種多様なセンサ・ユーザデバイスを統合するソフトウェア CONSORTS を開発し、東京特殊電線が開発した無線タグシステム MEGRAS と統合することにより、本展示会統合支援システムを完成させた。
なお、本システムは、平成17年に各種展示会などにおいて、実際に展示会場での音声・画像の配信サービスならびにマーケティングなどの展示会運用サービスを提供することにより、システムの実用性の検証を行うことを予定している。
また今後は、各種公共施設や商業施設、道路・交通などの公共空間、ならびに工場における生産ラインの効率化へと適用範囲を広げ、ユビキタス情報社会におけるソフトウェアのパッケージ化を展開する予定である。
近い将来にその実現が予想されているユビキタス情報社会では、様々な種類の情報サービスを、様々なユーザデバイス(無線タグ、携帯電話、PDAなど)で利用することが可能となる。
このユビキタス情報環境において重要となるのが、1) 自分にとって必要なサービスを見つけ出し、柔軟に組み合わせて使いこなせること、2) 個人がローカルな視点で最適なサービスを享受できるとともに、システム全体の動作も最適化されること である。
産総研では、このような公共空間における情報システムデザインを実現するものとして、自律的なソフトウェアが分散して情報処理を行うマルチエージェントの考え方をもとに、協奏計算アーキテクチャ(=情報システム全体のデザイン)の研究開発を進めてきた。
本展示会統合支援システムのベースとなる協奏計算アーキテクチャ CONSORTS は、2003年に開催されたエージェント技術に関する国際コンペティションにおいて第2位を受賞した実績*を持つ。今回の実用化によって、国際的なエージェント技術の標準化の流れに産総研が開発したソフトウェア技術が生かされることになる。
*Agentcities iD3 Worldwide Agent Technology Competition, EU Agentcities.NET Project, Second Prize in Applications Category.2003年2月6日(スペイン,バルセロナ): EU Agentcities.NET Project主催
本システムでは、アクティブ無線ICタグによって来場者の位置情報がプライバシーを守りながら1~10m程度の精度で計測され、各来場者の展示会場内での移動軌跡情報として保持される。この情報を元に動線情報に対するデータマイニングが実行され、「来場者モデル」と呼ばれる数値モデルが生成される。この数値モデルとそれを用いたシミュレーションの結果から、来場者の興味度の判定とコンテンツの選択、混雑情報の予測とナビゲーション、展示物レイアウト設計支援などが実現可能となった。
このような機能によって、来場者は使い捨て型IDにより個人のプライバシーを守られつつ、コード入力などの煩雑な動作を必要とせずに展示物の前に立つだけで、音声と画像による展示物の説明や会場案内などの情報提供サービスを受けることができる。
また展示会運用者に対しては、来場者の動線情報に対するデータマイニングとシミュレーションの結果を用いて、「各展示物に対する来場者の興味度を判定」し、それに基づいて「コンテンツの選択や展示物のレイアウト変更」の支援を行い、また、ある特定の箇所への人の集中を避けるような案内誘導をプログラム設定することによって「混雑を軽減させるような会場案内」を行える、必要に応じて「展示物のレイアウト設計」の支援が得られる などのメリットがある。
今回実用化したのは、協奏計算アーキテクチャ CONSORTS の展示会への応用であるが、今後は街角や公共ビル・道路環境(カーナビ)へも応用範囲を広げ、ユビキタス情報社会の基盤ソフトウェアの1つとして普及を図っていく予定である。