独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】とワイマチック株式会社【代表取締役社長 山田 茂】(以下「ワイマチック」という)は共同で、電池内蔵無線方式の超小型ネットワーク・ノードを開発した【写真参照】。このノードは、物理的に1千万個のノードを識別可能であり、ユビキタス社会の実現を大幅に速めると共に、物流や情報管理の面で、アクティブ型ICタグへの応用としても注目される。
これまで産総研では、近い将来のユビキタス・ロボット社会実現に向けて、家庭やオフィス空間に分散配置するあらゆる機器を効率よく使う空間機能のコンセプトを提案しており、この技術の一環として、より自由度の高い、情報コンセントやICタグに替わる入出力可能な通信端末の検討を行ってきた。
今回開発したネットワーク・ノードは、家庭内のあらゆる電化製品やセンサ、さらには将来実現すると思われる家庭用ロボットなどを全て無線で接続することを可能にし、高齢者に優しいユビキタス社会の実現に大きく貢献すると考えている。
また、今回開発したノードは超省エネルギー型であり、ボタン電池1個で、理論上、60年以上の継続動作が可能で、電池交換を意識せずに使用することができることから、建築物にセンサなどを建造時に埋め込むことなどが可能となる。さらには、自動車のキーレス・エントリのリモコンを下回るサイズと重量である上に、通常のUSB接続コードと同程度の低価格になると見積もられるので、物流世界の新しいアクティブ型ICタグとしても利用可能である。
これまでのICタグはパッシブ型と呼ばれるもので、外部機器との入出力・内部情報処理は不可能であった。このノードを利用すると、内部に情報処理機能を有し無線通信が可能なので、どのようなステップを通して流通されているのかという情報も確認でき、物流世界にも新しい展開を可能にするものと考える。
今回の超小型ネットワーク・ノードの開発では、産総研の空間機能コンセプトを実現するものとして、産総研認定ベンチャー企業であるワイマチックが設計と実装化を行った。
この成果は、12月17~19日に茨城県つくば市で開催される第5回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会で発表される。
ICタグは、情報を記録するIC チップと無線通信用のアンテナを持つ半導体デバイスで、バーコードとは大きく異なり、無線でデータ通信を行うことから、見えないところに張られたICタグを読み取ることが出来る利点を生かし、物流の世界を変える技術として期待されている。例えば、スーパーマーケットの商品全てにこのICタグがつくことで、商品を入れた買い物かごをレジでかざすだけで清算が可能となることから、無人レジでの瞬時決裁の実証実験が世界的に行われてきている。
一方、ロボット研究の中には、ロボット的な要素機器を環境に埋め込み、空間自体に機能を持たせようとする試みがなされている。しかしながら、従来の要素機器は有線でシステムを組むことから、システム化が煩雑となり、実用化および運用が非常に難しかった。
産総研 知能システム研究部門では、人間生活環境におけるロボットの開発において、無線やネットワークの発達により、ロボット個々の要素は一箇所にある必要がなくなるという、環境に埋め込む型のロボット制御手法のあり方を検討してきた。(平成15年11月11日 産総研プレス発表:ICタグを用いた『知識分散型ロボット制御システム』を開発)
この研究開発過程では、壁や天井部などの一般三次元環境にセンサや通信の機能を効率よく持たせるということが必要となるが、ICタグでは元々入出力機能が備わっていないためこれに替わるような端末機器が求められていた。
センサネットワークの要素モジュールとして開発されている汎用端末としては、例えば米国のUCバークレィ校が主体になり国際的オープンフォーラムで研究や実使用が進んでいる Nest / Smart Dustなどが有名である。しかしながら、これらの通信速度とマイクロコンピュータの仕様は、実際に必要とされる性能に比べ過剰であることから、非常に高価であり、環境組み込み型システムへの応用は限られている。
今回開発したネットワーク・ノードは、実際的な応用を想定し、通信速度やマイクロコンピュータの仕様を抑えると同時に、ソフト的にデバイスの消費電力を抑えるアルゴリズムを開発することで、小型化・省電力化に成功した。
主な機能としては、デジタル入出力機能を有し、8ビットのマイコンを搭載し、各種のソフトウェアに対応可能なシステム構成となっている。マイコン、通信デバイスをソフトウェア的に待機モードにすることで、5秒に1回程度の通信頻度ではボタン電池1個で1年以上の継続使用が可能であり、これは待ち受け電力を必要とするZigBee(アルカリ単3電池2個で約2年間の駆動)と比較すると、10倍以上の省電力となる。また大きさは、約6.0cm3という電池内蔵型の端末としては世界最小クラスのサイズで、免許不要の300MHz微弱無線、24ビット端末ID、十数mの通信範囲などの特徴を備えている。
今回開発したネットワーク・ノードは、例えば、センサモジュール、アクチュエータモジュールを追加することにより、生活環境においては読み取り距離の長いICタグとして使うことで、玄関でのセキュリティかつ自動扉などの実現が可能となるなど、汎用性の高い仕様となっている。このため、現在導入が進められているセンサネットワークへの応用が容易であり、今回のネットワーク・ノード開発の成果は、センサネットワークシステムの実現を加速するものといえる。
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開発した超小型ネットワーク・ノードの主な仕様
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世界最小クラスの容積を持つセンサネットワーク用端末
容積6.0cm3(2.8cm×3.6cm×0.6cm、アンテナ等の突起物を除く)
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300MHzの微弱無線、免許不要
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通信距離は見通し距離で十数m
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7色LED付
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ボタン電池1個(220mAh)で一年以上運用可能(運用形態5秒に1回アクセス時)
5分に1回の場合、理論的に60年
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マイコン、送受信モジュール内蔵
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センサのためのデジタル入出力機能
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ソフトの変更によりZigBeeにも対応可能
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端末IDは24ビット(16777216個)
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今後、ワイマチック株式会社にて販売予定
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ソフト、回路図などは基本的にオープンにして応用事例を募集予定
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今後は、今回開発したネットワーク・ノードにさらに改良を加え、平成16年度中を目処としたワイマチックからの販売開始を予定している。さらには、その汎用性を生かし、ソフトウェア、回路図などを公開するとともに、ユーザからの要望を踏まえ、各種機能を搭載したカスタマイズにも対応していく考えである。