独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川弘之】(以下、「産総研」という)セラミックス研究部門【部門長 亀山哲也】低環境負荷型焼結技術研究グループと新東工業株式会社のグループ会社でセラミックス事業を担当する新東ブイセラックス株式会社【代表取締役社長 松浦卓也】は共同で、遠心力を利用した加圧焼結装置(以下、遠心焼結装置)を開発した(写真1)。
開発した遠心焼結装置は、高速回転部及び加熱部により構成される。焼結法の原理は、試料を高速回転体(セラミックスローター)にセットした後、それを高温下で高速回転し回転体の中心部から発生する遠心力を試料に負荷して焼結を促進させる(図)。当該技術はホットプレスや熱間等方圧プレス等の従来の加圧焼結に比べて、押し棒やガス等の媒体を使用しないことに特徴がある。今後は、従来の加圧焼結では作製が難しいとされた基板上の薄膜・厚膜セラミックス、セラミックス/金属積層体、小型複雑形状セラミックス等の焼結に利用し、本焼結技術の優位性について詳細な検討を行う予定である。本装置は、2月9日(月)郵便貯金会館(メルパルク名古屋)において経済産業省 中部経済産業局主催(産総研中部センター共催)により開催される「東海ものづくりクラスターフォーラム2004」に出展する。
なお、本研究は平成13年度より独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構から委託を受けて推進している。
今日のファインセラミックス産業の80%以上は電子材料関連であり、特に小型携帯電話の急速な普及や電子機器のダウンサイズ化に伴い、コンデンサー部品、圧電体部品、半導体部品、基板部品等の小型化・集積化が進み、基板上の薄膜セラミックスや厚膜セラミックス、セラミックス/金属積層体や小型形状セラミックスの焼結技術の確立が必要とされている。
これらの焼結ではセラミックス、単結晶、金属の収縮率は大きく異なることから、材料間の界面に応力が発生し、クラックや膜の剥離が生じる。解決する方法としては材料間の界面に対して垂直な方向の圧力負荷により、原子拡散や塑性流動を促進させることが有効であるが、押し棒等の媒体を通じて圧力を負荷する従来の加圧焼結では試料表面が汚染され、焼成後の加工が必要となる。そのため、現状では昇温速度の低速化、接合面の凹凸化、材料の組成制御等を通じて材料間界面で発生する応力の低減を通じてクラックの発生や膜の剥離を抑えていた。
産総研及び新東ブイセラックスは今後の更なる電子部品の小型化及びその製品の市場拡大を踏まえ、薄膜、厚膜、小型形状のセラミックスの焼結を対象とした新しい加圧焼結法及びその焼結装置の開発に取り組んできた。
本研究で開発した焼結装置の基本機構は、回転体を高温下で高速回転することにある。そのため、軽量で、耐熱性を有し、剛性のある窒化ケイ素を回転体やシャフトの部材として使用した(写真2)。その結果、1,000℃の高温下で、20,000回転/分の高速回転が可能となった。また、焼成サイクルを短くするために、高周波加熱の方式を取ることにより温度1,000℃まで75℃/min以上の速度での昇温及び冷却が可能となり、焼成プロセスが大幅に短縮され、一時間以内で終了するので省エネに資する。
発生する遠心力は回転体の回転数及び半径、試料の比重によって決定されるが、現状では最大の遠心加速度は40,000Gである。比重が約8のセラミックス(例えば、チタン酸鉛)の焼結では、20,000回転/分の回転数では試料厚さ10µmでは10kPa、100µmでは100kPa、1mmで1MPa、10mmでは10MPaの圧力を負荷できる 。
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写真2 セラミックス製ローターとシャフト
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回転体の回転数を増加させることにより、遠心力の向上を図るとともに、セラミックス材料全般に適用できる1,200℃以上の高温下で耐える仕様の装置を開発し、実用化への目途をつける。
本焼結装置を用いて各種の材料の焼結に適用し、その材料特性を評価する。