独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】知能システム研究部門【部門長 谷江 和雄】分散システムデザイン研究グループは、東京工業大学【学長 相澤 益男】大学院総合理工学研究科 村田 智 助教授 *と共同で、自由に形状を変化させつつ動作が可能なモジュール型ロボットの2号機を開発した。1号機での問題点の解決、小型・高性能化、内蔵電池での電源供給と無線遠隔操作の導入により、自立動作と自在な変形を可能にした。このような自力で運動し変形できるモジュール型ロボットは世界で先端を行く成果である。10個のモジュールが4足歩行し、自らの構造をヘビ型に変形して移動するという実験に成功した。形状を自律的に変更可能なので、狭い隙間から入って捜索を行うロボットや、ダメージを修復しながら長時間稼動するプラント点検などへの応用が期待されている。
※ 2号機は、1号機と同じ基本設計のまま小型・高性能化を図った。
主な改良点と成果は以下のとおり、
1)小型軽量化 |
:寸法・重量ともに10%減【 66mm×66mm×132mm → 60mm×60mm×120mm / 440g → 400g 】 |
2)省電力化 |
:結合部着脱機構を最適化し、消費電力を1号機の36Wから4Wに減らしたことにより、外部電源供給から内蔵電池による自立動作型に進化【 コードレス化 】 |
3)制御性能 |
:モータ制御を高度化し、4足歩行などの全体運動の性能向上【 高速動作 】 |
4)情報処理 |
:モジュール内のコンピュータを高性能化し、モジュール間を高速高信頼のコンピュータネットワークで接続し、モジュール間の協調動作を容易にした上で、コマンドを無線で送信できるようにした【 高速高信頼ネットワーク化・遠隔操作化 】 |
5)移動パターンの自動生成【 遺伝的アルゴリズムを用いて 】 |
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:4足、6足、ヘビ型など様々な構成における移動のための動作パターンを、ホスト計算機で自動生成し、それを実機で動作させることに成功 |
以上の技術的革新により機動的な動作が可能になったため、4足や6足の構成で歩行移動したり、4足からヘビ型に変形して動作を継続するという、従来研究では困難であった実験に世界に先駆けて成功した。
今後は、モジュールに外部環境を検知するセンサを取り付け、各モジュールが自律的に動作を決定する分散制御を実現することで、未知の環境に適応しつつ移動や作業を行わせることを目指していく。かつ、更なる高機能化に向けてのモジュール(ハードウェア)の改良も同時に進めていく予定である。また、外部との連携を念頭に置いた、大規模化が可能なモジュール型システムの開発に挑戦していく。
なお、本成果は「ロボットと自動化の国際会議(International Conference on Robotics and Automation,ICRA2003:2003.05.12-17台北)」及び「知能ロボットとシステムに関する国際会議(International Conference on Intelligent Robots and Systems,IROS2003:2003.10.27-31ラスベガス)」にて発表する予定である。
* 東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻 平成13年5月1日付け文部省へ出向
それまでは、産総研知能システム研究部門分散システムデザイン研究グループに所属
変形能力を持つモジュール型ロボットは、周囲の環境に適応しながら自分の形を変えて移動したり、作業を行ったりすることができる【自己組み立て】。また、ロボット全体が同じモジュールにより構成される均質性により、一部が故障してもスペアで置き換えて修復することが可能である【自己修復】。このように、モジュール型ロボットは、様々な環境や作業に対応できる柔軟性と、故障から自力で回復できる耐故障性とを持つため、近年、国内外で研究が盛んに行われている。惑星探査ロボットやレスキューロボット、トンネル内点検ロボットなど、危険環境で周囲に適応しながら作業を行うロボットへの応用が期待される。また、極限環境で長時間稼動する宇宙や深海などの構造物やアンテナへの利用も考えられている。
最近では、様々な学術雑誌にもモジュール型ロボットの特集が組まれるなど、研究が活発化している。しかしながら、これまでの研究では、理想的なモジュールを仮定したシミュレーションだけの研究や、モジュール間の結合を固定して動作させるものがほとんどであり、自立的に変形動作ができるハードウェアはあまり存在しない。また、変形動作ができるものは、逆に歩行や移動といったロボットとしての動作性能に劣るものが多い。
我々の1号機は、変形能力を持ち、クローラ移動や4足歩行といった機動的な動作を実現することができたが、モータ制御やモジュール間通信、モジュールの情報処理性能、変形のための結合機構などに技術的な課題が残っていた。
これまでに開発されている3次元形状の自己組み立てが可能な均質型モジュール型ロボットシステムは、(1)静的な構造物を組み立てて変形するタイプと、(2)モジュールの連結を固定して機動的な動作を実現するタイプの2種類に大きく分類できる。(1)は、各モジュールに十分な自由度を持たせることで構造を自在に変更できる特徴を有するが、機動的な動作は困難である。これまでに、当研究グループにより発表された3次元自在結合モジュール、米国ダートマス大学のMolecule、Crystalline、カーネギーメロン大学のICES-Cubeといったモジュールが開発されている。(2)は、ヘビ状の動きや、ロボットアーム、脚ロボットの動作などが可能である。しかしながら自己組み立てという点では、組み替えが手動であったり、自動であっても着脱機構の位置合わせに時間がかかったり、かつ結合自体の信頼性が低いなどの問題があった。このタイプには、米国南カリフォルニア大学のCONROと呼ばれるシステムや、ゼロックスPalo Alto研究所のPolybot、東工大での宇宙用マニピュレータなどが含まれる。
我々のモジュール(M-TRAN)は、上記の(1)(2)双方の利点、即ち信頼性の高い変形機能と機動的な動作を両立している点に特徴がある。今までに開発されたロボットの中では、ゼロックスPalo Alto研究所のPolybotが特に優れているとされているが、それぞれの動作のためにそれぞれ固有の機能を付加しなければならず、変形のためには変形用のモジュールを用意することが必要で、変形と移動を一連の動作として自立的に行っているわけではなかった。今回、当研究グループが開発したモジュール(M-TRAN II)は、全ての動作を自立的に行うものであり、従来研究に対して大きなブレークスルーとなるものである。
現在、全モジュールは、その中の1つのモジュールの指令に合わせて同期的・集中的に制御されており、予め計画した動きを行わせている。今後は、モジュールに外部環境を検知するセンサを取り付け、各モジュールが自律的に動作を決定する分散制御を実現することで、未知の環境に適応しつつ移動や作業を行わせることを目指していく。また、現時点でも、ロボットの動作計画は手入力によって行っているので、その自動化も課題である。かつ、更なる高機能化に向けてのモジュール(ハードウェア)の改良も同時に進めていく予定である。加えて、外部との連携を念頭に置いた、大規模化が可能なモジュール型システムの開発に挑戦していく予定である。