国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下、「産総研」という)は、米国エネルギー省傘下のパシフィックノースウェスト国立研究所【所長 スティーブン・アシュビー】(以下、「PNNL」という)との包括研究協力覚書(以下、「MOU」という)を締結しました。
PNNLは米国ワシントン州に立地する国立研究所で、再生可能エネルギー、地球環境、計算科学、生物、国家安全など、多岐にわたる研究開発を行っています。PNNLの共有施設の一つである環境分子科学研究所(EMSL:Environmental Molecular Sciences Laboratory)はスーパーコンピューターや先端精密機器を多数有しており、世界中の科学者が利用しています。
産総研のエネルギー・環境領域と材料・化学領域では、経済産業省受託「革新的なエネルギー技術の国際共同研究開発事業」(以下、「革新事業」という)においてPNNLとの連携強化を促進しており、とりわけ二酸化炭素とギ酸の相互変換による安全な水素の貯蔵・輸送・製造を可能とする水素キャリアシステム構築に向けた研究開発を実施しています。
本MOUの締結により、研究連携、人材交流をさらに促進し、研究開発力と産業競争力をより一層強化することで、世界的な研究拠点として存在感を増すことを目指します。
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パシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL) |
現在、再生可能エネルギーを有効に利用するために、二次エネルギー(自然から直接得られる一次エネルギーを加工・変換したエネルギー)としてクリーンな水素に変換し、それを長距離輸送・大規模貯蔵が容易なエネルギーキャリア(水素貯蔵物質)として利用する技術開発が強く求められています。エネルギーキャリアとしては、常温で液体であること、水素貯蔵密度が高いこと、水素の貯蔵・放出の変換エネルギーが小さいこと、低コストであること、貯蔵媒体の大量調達が容易であることなど、さまざまな要件が必要です。
そのような経緯の中で、産総研は、常温で液体であり、かつ水素貯蔵密度が高いキャリアとしてギ酸に注目してきました。そんな中で産総研とPNNLは、平成19年度より水素製造に関する共同研究を開始し、平成26年度にはギ酸を用いた水素貯蔵システムを実用化するために必要な、不均一系触媒では世界で最も高い性能を示す新規触媒の開発に成功しました。(2015/04/28産総研主な研究成果記事「超微細な貴金属ナノ粒子触媒を固定化」)さらに産総研では、圧縮機を使わずに、ギ酸から高圧水素を連続的に供給する技術を開発しました。この新技術により、これまで困難であった高圧水素製造時の圧縮プロセスにおける省エネルギー化や低コスト化が可能となり、水素利用の社会普及の加速が期待されます。(2015/12/11産総研プレスリリース記事「圧縮機を使わない高圧水素連続供給法を開発」)
高圧水素発生反応のイメージ |
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現在、産総研では、創エネルギー研究部門、電池技術研究部門、再生可能エネルギー研究センター、化学プロセス研究部門がPNNLと連携し、「革新事業」において、これまでの成果をさらに発展させ、二酸化炭素を利用した水素貯蔵・製造技術の開発を進めています。また、平成28年度からは同事業において、高効率・安価な水素貯蔵・利用技術の確立を目指した金属系水素貯蔵材料の開発でも連携しています。
PNNLは触媒反応を解析するうえで有用な超高分解能NMR (Nuclear Magnetic Resonance) 装置を環境分子科学研究所(EMSL)に保有しています。この装置は北米で唯一、高圧反応条件下での触媒の状態や化学反応をその場観察することができます。産総研では、この最先端の装置を利用して得られる計測データを基に、新たな材料開発や反応プロセスを開発中です。
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触媒反応をその場観察可能な高分解能NMR装置(写真:PNNL提供) |
以上の長年にわたる産総研とPNNLの研究連携を踏まえ、より一層強固な協力関係を構築するべく、このたびMOUを締結しました。本MOUにより「革新事業」の研究連携の加速および研究者交流の促進が期待できます。産総研とPNNLは組織的な連携をさらに推進し、水素エネルギー社会の実現を目指します。