国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】地球変動史研究グループ 小田 啓邦 上級主任研究員、佐藤 雅彦 研究員、野口 敦史 リサーチアシスタントと、金沢工業大学【学長 大澤 敏】先端電子技術応用研究所【所長 上原 弦】(以下「金沢工業大学」という) 河合 淳 教授、国立大学法人 高知大学【学長 脇口 宏】(以下「高知大学」という)大学院生 野口 敦史、臼井 朗 教授、山本 裕二 教授は、走査型SQUID顕微鏡を用いて海底のマンガンクラスト試料に残された磁気的記録を高分解能でイメージングし、年代の推定を行うとともに、過去の気候変動について検討した。
この成果では超伝導量子干渉素子(SQUID)を利用した走査型SQUID顕微鏡を用いてマンガンクラストの薄片表面を0.1 mmの高分解能で磁気イメージングして、過去の地球磁場逆転の磁気的な記録を測定し、標準地球磁場逆転年代軸との比較(図)によって形成年代を推定した。また、試料に含まれる磁性鉱物の組成が約300万年前を境に変化したことが確認され、気候変動の影響によると推定された。
なお、この成果の詳細は、2017年6月3日に米国の学術誌Geophysical Research Lettersにて発表された。
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マンガンクラスト薄片試料の表面磁場を光学顕微鏡画像に重ね合わせた図
赤が画面上向き、青が画面下向きの磁場を示す。右は分析したマンガンクラストの断面。 |
マンガンクラストには数千万年にわたる海洋環境や気候変動の記録が残されており、その正確な形成年代を決めることで、長期にわたる過去の地球環境情報の精密な復元が期待される。これまでマンガンクラストの形成年代の推定は、化学分離と加速器質量分析装置によるベリリウムなどの同位体分析が主な方法であったが、手間や時間がかかるという課題があった。そのため、迅速に正確な形成年代と成長速度が推定できる計測法が望まれていた。
2011年に産総研は、高知大学、マサチューセッツ工科大学、ヴァンダービルト大学とともに世界で初めて0.1 mmの分解能でマンガンクラストに記録された地球磁場逆転の痕跡を測定し、その形成年代と成長速度を推定した(2011年2月28日プレス発表)。当時、分析にはヴァンダービルト大学の走査型SQUID顕微鏡を用いたが、その後、産総研は国内で初めて常温・常圧の試料を分析できる同じタイプの地質試料用の走査型SQUID顕微鏡を、金沢工業大学および(株)フジヒラをはじめとする関連企業と協力して製作した。ヴァンダービルト大学の走査型SQUID顕微鏡は液体ヘリウムだけでなく液体窒素も必要としたが、産総研の装置は液体ヘリウムのみで動作可能となり、連続運転時間が延びたことで計測時間がかかる分析も可能になった。この装置を用いて海底のマンガンクラストの磁気イメージングを進めてきたが、詳細な形成年代を明らかにするとともに、マンガンクラストの形成環境と気候変化との関係について検討した。
なお、本研究は、独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(A)「SQUID顕微鏡による惑星古磁場の先端的研究の開拓」(平成25~28年度)による支援を受けて行った。
今後は開発した走査型SQUID顕微鏡に液体ヘリウム液化循環装置を導入して連続運転できるようにし、迅速にマンガンクラストの年代を非破壊で推定できるようにする。また、成長過程の解明と長期間にわたる地球環境を復元し、将来の環境変化予測に貢献する。
地質情報研究部門 地球変動史研究グループ
上級主任研究員 小田 啓邦 E-mail:hirokuni-oda*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)