独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】エネルギー界面技術研究グループ 周 豪慎 研究グループ長、劉 銀珠 研究員は、貴金属や金属酸化物の
触媒を使わず、
グラフェンだけを空気極に用いた新型
リチウム-空気電池を開発した。
従来のリチウム-空気電池の空気極は、貴金属や金属酸化物の触媒などを原料とし、複雑なプロセスにより作られている。今回、そのような触媒を一切含まないグラフェン空気極を用いて「金属リチウム/有機電解液/固体電解質/水溶性電解液/グラフェン空気極」という構造のリチウム-空気電池を開発した。このグラフェン空気極は、白金(Pt)を20 wt%含むカーボンブラックからなる空気極に近い酸素還元活性を持っている。開発したリチウム-空気電池を0.5 mA/cm2の電流で50回程度繰り返し充放電しても電位がほとんど劣化せず、安定した繰り返し充放電が可能であった。
この研究成果は、2011年3月25日に米国の化学学術誌ACS Nano電子版に掲載された。
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図1 グラフェンだけからなる空気極を用いたリチウム-空気電池の構造図(左)。 グラフェンによる酸素還元のイメージ図(中)。グラフェン空気極を用いたリチウム-空気電池の0.5 mA/cm2における充放電サイクル曲線(右)。
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近年、化石燃料の消費に伴う二酸化炭素排出量の増加や原油価格の激しい変動などを背景に、自動車のエネルギー源をガソリンや軽油から電気エネルギーへ転換する技術開発が注目されている。電気自動車の実用化は進みつつあり、長距離走行のために蓄電池であるリチウムイオン電池の大容量化や高エネルギー密度化が求められている。しかし、現状の
リチウムイオン電池では、電池容量に制約があり長距離走行が困難である。そこで、理論上、リチウムイオン電池よりも大容量で高いエネルギー密度を持つリチウム-空気電池が電気自動車用の次世代電池として注目され、実用化を目指した研究が活発に行われている。
産総研 エネルギー技術研究部門では、次世代「リチウムイオン電池」の実用化を目指して、電極材料をナノ構造化することで大出力化が期待できることを示してきた(
2005年1月18日、
2007年11月19日、
2008年8月27日 産総研プレス発表)。また、
ハイブリッド電解液を用いて、電気自動車用として大幅なエネルギー密度の向上が期待されるリチウム-空気電池(
2009年2月24日産総研プレス発表)の研究開発を行ってきた。
これまで産総研が開発してきたハイブリッド電解液を用いるリチウム-空気電池では、触媒を固定した空気極を使用している。その空気極は、高温焼結によって作製された貴金属や金属酸化物などの超微粒子触媒と土台として高い比表面積を持つ炭素材料を接着剤のバインダーなどで混合した触媒層と、撥水処理した空気拡散層から構成され、その作製プロセスは非常に複雑である。
今回、グラフェンがO2+2H2O+4e- → 4OH-のように空気中の酸素を還元する触媒効果を持つことを新たに見いだした。この発見を基に、グラフェンを空気極とし、金属リチウムの負極、ハイブリッド電解液(有機電解液/固体電解質/水溶性電解液)と組み合わせて「金属リチウム/有機電解液/固体電解質/水溶性電解液/グラフェン空気極」という構造を持つリチウム-空気電池を開発した。グラフェン空気極の性能を確認するため、グラフェン、従来型の燃料電池で使われているPtを20 wt%含むカーボンブラック、アセチレンブラック、の各種炭素材料からなる空気極を用いたリチウム-空気電池を作製し、その放電電圧の比較をした(図2)。今回開発したグラフェン空気極がアルカリ性水溶液において、数十時間の放電後もPtを20 wt%含むカーボンブラック空気極に近い触媒活性を持つことが確認できた。さらに、水素を4 %含んだアルゴン雰囲気で熱処理したグラフェンを空気極として、同じ構造のリチウム-空気電池を作製した。図3に示すように空気中で0.5 mA/cm2の電流で50回程度繰り返し充放電しても、充電電位と放電電位には大きな変化が見られず、安定な充放電サイクル特性を持つことが確認できた。
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図2 グラフェン、Ptを20 wt%を含むカーボンブラック、アセチレンブラック、それぞれを空気極としたリチウム-空気電池の放電時におけるセル電圧の時間変化
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図3 グラフェン、熱処理したグラフェン、アセチレンブラック、それぞれを空気極としたリチウム-空気電池充放電時の繰り返しサイクルに伴う電池セル電圧の変化。
写真はシート状のグラフェンの透過電子顕微鏡像(黄枠内は電子線の回折パターン)。
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安価かつ安定な触媒としてグラフェンを用いて、酸性条件における酸素還元触媒活性、さらに表面を修飾したグラフェンやカーボンナノチューブの触媒活性も視野に入れつつ研究開発を進める予定である。
独立行政法人 産業技術総合研究所
エネルギー技術研究部門 エネルギー界面技術グループ
研究グループ長 周 豪慎 E-mail:hs.zhou*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
エネルギー技術研究部門
研究部門長 長谷川 裕夫 E-mail:hasegawa.y*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)