近年、自動車の排気ガス(NOx)、シックハウス症候群の原因であるVOC(揮発性有機化合物)、環境ホルモン等の有害化学物質が地球規模で広がっており、社会問題となっている。酸化チタンに代表される半導体を利用した光触媒は、環境に優しく、紫外線があればその効果が持続する反応であるので、環境浄化の有力な技術として期待されている。
光触媒は、低濃度の汚染物質を分解するのに適している。空気中の臭いは微量でも人間の鼻で感じることができるので、現在、光触媒は脱臭等の空気浄化に関しては、かなり製品化が進んでいる。酸化チタンは粉末状であるので、固定化して用いる必要がある。一般的には壁とかの平面にコーティングして用いられているので、汚染物質との接触確率が低いという問題がある。そこで、基礎素材研究部門では、光触媒の浄化効率を高めるために、汚染物質との接触確率が高くなる3次元Si/SiCフィルターの開発を行った。
ポリウレタンスポンジとほぼ同じ構造の3次元Si/SiC多孔質セラミックスに光触媒(酸化チタン)をコーティングすることにより、高効率で、しかも紫外線だけでなく蛍光灯でもNOxが分解することを見いだした。この3次元構造の光触媒フィルターは、架橋部分が細いので、光の透過性が高く、汚染物質との接触確率も高く、圧力損失も小さく、光触媒の担体として優れている。
従来のセラミックス製スポンジは、セラミックス粉末スラリーをスポンジに塗布して高温で焼結するので、セルの架橋部が太くなり、セル径を大きくしないとセル自体が潰れてしまうという欠点があった。それに対して、シリコンと炭素との反応焼結法(Si+C=SiC)とシリコンの溶融含浸法を組み合わせることにより、スポンジがそのままの形状である多孔質Si/SiCセラミックスを作製することができた(図1)。作製された多孔質Si/SiCセラミックスの嵩密度は~0.06g/cm3、開気孔率~97%と超軽量のものも作製可能である。スポンジの種類を変えることにより、セル径も自在に調整でき、セル径も均一である。
この多孔質Si/SiCセラミックスは加工性もよく、フィルター形状への加工も容易で(図2)、光の透過性も高く、光触媒の担体として優れている。光触媒をコーティングしたドーナツ状のSi/SiCフィルターを重ねて、その中心に15Wの紫外線ランプあるいは蛍光灯を設置したリアクターで、NOxの分解実験を行った。15ppmのNOxを1L/minで処理すると、殺菌灯、ブラックライトの紫外線ランプでは1回の処理でほぼ0ppmになり、高効率で分解することができた。そして可視光の蛍光灯でも15ppmのNOxが5ppm以下になるという高い効果を示すことが分かった (図3)。
図1 3次元Si/SiCセラミックス
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図2 3次元Si/SiCフィルター
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図3 リアクターでのNOxガス浄化結果 |