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産総研では2003年度(ホームページでの公表は2015年度から)より、職員の士気高揚を図るため、理事長賞表彰を毎年度実施しています。 2024年度は以下のとおり受賞者を決定いたしました。
過去の受賞一覧
被表彰者らは、くも膜下出血発症リスクとなる脳動脈瘤の治療に革新をもたらす新規バイオマテリアル技術として、血栓の形成を抑制する新規コーティング技術を開発し、血管狭窄・脳動脈瘤破裂の防止に使用されるステントに応用した。本技術では、従来法とは異なる原理である低分子シランカップリング化合物による新規コーティング法の開発に取り組み、金属表面がカチオン性に帯電されることで血中蛋白質が自発的に吸着するため、従来不可能だった血栓形成の抑制とステントの血管との同化に重要な細胞接着性の改善の相反する特性の両立を達成した。また、生体親和性ポリマーの開発では、構成分子を組み合わせる既存の開発経緯では特許成立が困難であるが、これまで利用されてこなかった低分子シランカップリング化合物に着目し、そのカチオン性を利用して血中でのステントの自発的蛋白質コーティングを成功させることで、従来特許に抵触しない強い知財性を有することになった。
被表彰者らは、異なる材料のウェハを高温に加熱することなく貼り合わせ接合することで、電子デバイスやMEMSデバイス等において従来困難とされていた様々な種類の材料を集積化可能とする接合技術を開発し、継続的に発展させてきた。令和4~5年度には、次世代の高周波パワーデバイス用材料として期待される窒化ガリウムとダイヤモンドを接合するため、半導体結晶へのダメージを低減するとともに熱伝導の障害となる中間層を極薄化する技術の開発に成功し、放熱特性の向上によりハイパワー動作におけるデバイス特性を大幅に向上した。これらの成果は5G以降の通信技術を支える高周波フィルタデバイスの製造、次世代パワー半導体デバイスの実現、最先端ロジック半導体の三次元集積化や半導体MEMS混載デバイスの実装等に欠かせない基盤技術となっている。これら世界に先駆けて実現した技術は、半導体・MEMS分野のキーテクノロジーとして社会的インパクトが大きい。
受賞者代表(高木 秀樹)(右)
被表彰者らは、カーボンフリー燃料としてのアンモニアの利活用の実現に向けて、分散型アンモニア合成技術およびアンモニア燃焼技術の研究開発に取り組み、世界初となるアンモニアを燃料とした発電に成功した。アンモニアの合成については、再生可能エネルギー由来の変動性を有するグリーン水素に適応するための分散型アンモニア合成プロセスについて、触媒開発とともに、20kg/day規模でのベンチ試験装置の構築・導入と運転・評価に至った。アンモニア利用技術としての燃焼技術開発については、アンモニアの燃えにくい特性の打破に向けた技術の開発に取り組み、世界で初めてガスタービンコジェネ実証におけるアンモニア混焼と専焼の両方に成功した。さらに、技術の橋渡しおよび社会実装に向けた企業との共同研究において、液体アンモニアの燃焼器への直接噴霧技術の構築に成功した。これらの成果を展開し、2MW級ガスタービンに向けた液体アンモニア専焼技術開発を実施している。
受賞者代表(難波 哲哉)(右)
被表彰者らは、産総研がナショナル・イノベーション・エコシステムの中核を担う機関としての機能を果たすためには、目的基礎研究のみならず、応用研究さらには社会実装研究を強力に推進する優秀な研究人材をこれまで以上に獲得、育成し、研究基盤を強化していく必要がある中、修士卒の研究職を採用し、産総研での業務と並行して社会人博士課程に進学し、博士号を取得することを業務として位置付ける育成モデルを創設したことにより、優秀な研究人材の獲得を進めるとともに日本の高度な研究人材の育成に寄与した。制度の創設にあたっては、既に修士卒で入所し博士号を取得した研究職や所内で連携大学院の教授となっている研究職へのヒアリングや各研究領域の副領域長等との複数回の意見交換も実施し、それらの意見を取り入れることでより機能的な制度設計となるように努めた。また、制度創設後も多様な支援策、育成策を多方面から実施している。
被表彰者らは、重要技術情報等管理規程を制定し、産総研における重要技術情報等の定義およびその抽出、登録、管理の制度化を図った。そして、本制度の趣旨や具体的な手順等を、研究ユニット長、研究グループ長(GL)、研究チーム長(TL)に周知するなど、登録・管理作業の促進に努めた。重要技術情報等の抽出、登録、管理のプロセスとしては、GL/TLを通じて、グループ員/チーム員の研究課題や技術情報を把握し、経済安全保障上の重要技術情報を特定(有用性の確認)し、情報の格付け(非公知性の確認)を行った上で、これらの研究データ等の技術情報を格納するストレージのアクセス制限(秘密管理性の担保)を決定する流れとした。加えて、最重要技術情報については研究開発責任者の指定に基づき、研究ユニットによる管理を実施する事とした。このようなプロセスは、GL/TLを始めとした研究職員全体における重要情報の管理意識を高め、内部不正による技術情報漏えいに対しての大きな抑止力になることが期待される。
被表彰者らは、魅力ある職場環境の構築の一環として、職員からも導入の要望が寄せられていた交流の場を実現するため、「心地よさとコミュニケーションの活性化をもたらす憩いの空間」をコンセプトに、つくばセンターの2-1棟1F、5-2棟4F、および厚生棟2F(令和7年3月完成予定)に「職員交流スペース」を整備した。職員交流スペースの導入にあたり、職種や所属を問わず、自然に人が集まり、ディスカッションが生まれ、コミュニケーションが促進されるよう、カフェやコンビニと隣接させ、あるいは自販機を設置することにより、「ふらっと立ち寄れるスポット」となるよう構想した。令和6年4月のオープン以降、日中の利用の他、夕方以降の懇親会等のイベント利用としても、これまでに100件以上の利用がなされている。また、当初想定されていた用途以外に、研究会などの掲示板周知、ブランディング・広報活動の撮影場所としても活用がなされている。
被表彰者らは、ライフサイクルアセスメント(LCA)、カーボンフットプリント(CFP)を算定するために必要不可欠な、製品あたりの資源等の投入量やCO2等の排出量をまとめたインベントリデータベースAIST-IDEA(以降IDEA)の社会実装を実現し、さらに拡大したユーザーに対応するためAIST Solutions社(以降AISol)から提供を開始することで社会実装を加速させた。具体的には、安全科学研究部門にてIDEA Ver.3を開発し、IDEAを会員へ提供するためにLCA活用推進コンソーシアム(以降LCAコンソ)を設立した。その後のニーズの高まりに対応するため、AISolからIDEAデータを提供することに方針を変更し、その際、法務室、安全科学研究部門、AISolが連携し、LCAコンソからAISolへの提供の円滑な移行を短期間に実施した。同時にAISolからユーザーに対して円滑なデータ提供を行うために、IDEAデータのダウンロードシステムおよび販売スキームを短期間に構築した。これらの総合的な取り組みにより、IDEAの社会実装の加速を行うことができた。
運動や食事に配慮した生活習慣は健康維持増進に有効だが、継続して実施できない人も多い。被表彰者らは、2019年度より、約2万人のデータベースを構築して統計学的分析や機械学習を適用し、支援対象者が簡単なアンケートに回答するだけで、性格や属性などの個人特性に応じて最適なヘルスケアサービスを提供するための、健康維持・増進に向けた行動変容促進技術を開発した。開発した手法は生命保険会社との共同研究を通して、アプリを用いた健康支援メッセージ配信サービスとして、同社が提供する健康増進型保険商品に実装した。また、この開発手法をもとに、他社との共同研究の中で特定保健指導を効果的に実施するための支援ツールを開発し、その効果を検証した。現在、実装に向けて検討を進めている。これらの成果は、保険商品の加入者を通した健康維持増進に貢献でき、また、健康管理が必要な支援対象者に対しても有効な手法として展開できる。
被表彰者らは、AIチップ設計拠点(AI Chip Design Center, AIDC)を構築し、中小企業・ベンチャー企業でも使いやすい半導体設計環境を実現した。現在、国内の中小企業・ベンチャー企業を中心に毎月20~30プロジェクトが利用しており、社会実装で実績を出している。半導体設計では設計作業とともに検証作業が重要であるが、AIDCに導入した強力な検証装置(エミュレータ)を活かしたAIチップ設計の高度化技術を開発し利用可能にしている。また、AIチップ開発環境(評価プラットフォーム、AI-One/AI-Two)を開発して対応しているので、利用者がAI処理の部分(AI-IP)だけを設計すれば短期間でAIチップを実現できる仕組みが提供されている。これにより、チップ設計に不慣れな中小企業・ベンチャー企業でもAIチップの設計が可能になった。このAIDCの活動を継続していくことが、集積回路設計へ新たなプレーヤの呼び込みや高度人材の育成につながると期待されている。
令和6年1月1日16時10分に石川県能登地方でマグニチュード(M)7.6の「令和6年能登半島地震」が発生し、多くの被害が生じた。被表彰者らは、地震直後から、現地の被害や救助・復旧の状況を考慮しながら、海岸の隆起地形や津波の浸水状況、海底活断層の緊急現地調査、余震観測等を実施し、地震調査研究推進本部(以下、地震本部という)の地震調査委員会への資料提供や委員会の委員として参加することで、地震本部が行う地震活動の評価を通して国の防災・減災に貢献した。また、1月3日から産総研地質調査総合センターウェブサイトにて「令和6年(2024年)能登半島地震の関連情報」ページを開設し、迅速かつ積極的に調査研究結果等を発信するとともに、多くの取材対応を通じた情報発信を行うことで、国民の防災意識の啓発及び産総研のプレゼンス向上に貢献した。これらの取り組みは、地震本部による「海域活断層の長期評価」の前倒しでの公表にも寄与した。