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産総研論文賞2024

賞の概要

産総研研究者は、科学技術におけるイノベーション創出の先導者として、自ら向上心と使命感を持って研究を遂行し、質の高い論文を世界に向けて発信していきます。そこで、産総研として誇れる高水準の論文を発表した研究者に対して、2014年度より毎年「産総研論文賞」として顕彰しております。

※受賞者の所属は受賞時点のものです。

過去の受賞一覧

受賞論文

Japan's pathways to achieve carbon neutrality by 2050 – Scenario analysis using an energy modeling methodology
(日本の2050年カーボンニュートラル実現に向けたシナリオ分析 ~数理モデルを用いて日本のCO₂排出削減をシミュレーション~)

Renewable and Sustainable Energy Reviews Volume 169, 112943, 2022

受賞者

  • 小澤 暁人(ゼロエミッション国際共同研究センター)
  • 工藤 祐揮(ゼロエミッション国際共同研究センター)

選出理由

日本政府は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」宣言を行っている。しかしながら、現行の第6次エネルギー基本計画では2030年の見込み(ベストミックス)が示されているだけであり、産業界からも、2050年までの長期的な視点でのシナリオ検討に対する期待は大きい。本論文では、産総研がこれまで開発を進めてきた「AIST-MARKAL」を用いたバックキャストによるシナリオ分析に関する成果である。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、6つのケースを想定した試算を行うことで、低炭素発電(再エネ・原子力・CCS付火力・水素発電等)とネガティブエミッション技術(DACCS・BECCS等)が必須であること、またその導入量を具体的に示している。
本論文は高IF誌であるRenewable and Sustainable Energy Reviews誌(Q1誌、IF16.3)に2022/9/19に掲載、掲載から約2年の間に58件引用(Google Scholar, 2024/11/21時点)され、現在も順調に引用回数が増えている。この成果は産総研の研究成果記事(日本の2050年カーボンニュートラル実現に向けたシナリオ分析、2022/10/5)およびLINK for Innovation(「2050年カーボンニュートラル」実現への道 企業と歩むゼロエミッション社会への複数シナリオ」、2023/7/26)で公表するとともに、学会誌での原稿執筆依頼2件、講演会・シンポジウムでの講演依頼5件を受けるなど、成果発信に積極的に取り組んでいる。さらに、本研究で開発したモデルを活用して、民間企業2社と連携して、将来に向けたモビリティおよび液体燃料の低炭素化に関するシナリオ検討の共同研究に展開している。 以上のように、本論文は2050年カーボンニュートラルという野心的目標の達成に向けた道筋を示す先駆的研究として学術分野において高く評価されるとともに、国や産業界への貢献等産総研のプレゼンス向上に大きく寄与し得る成果である。

受賞者代表(小澤 暁人)(右)の写真
受賞者代表(小澤 暁人)(右)

Validation and standardization of DNA extraction and library construction methods for metagenomics-based human fecal microbiome measurements
(マイクロバイオーム解析のための推奨分析手法を開発 -ヒト関連微生物叢解析データの産業利用に向けた信頼性向上に貢献-)

Microbiome Volume 9, Article number: 95 2021

受賞者

  • Tourlousse Dieter (バイオメディカル研究部門)
  • 三浦 大典 (バイオメディカル研究部門)
  • 関口 勇地(バイオメディカル研究部門)

選出理由

本研究は、産総研が主導し、国内産業コンソーシアムである一般社団法人日本マイクロバイオームコンソーシアム等と共同で、次世代DNAシーケンサでマイクロバイオーム解析を行うための精度管理用菌体・核酸標品、標準的プロトコルを開発したものである。産業界への普及を視野に入れた標準的プロトコルの確立は世界初であり、産総研の当該分野の研究レベルの高さを国内外にアピールするものとして、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献するものである。
本研究成果は当該分野の主要な学術誌であるMicrobiome誌(インパクトファクター:13.8)に掲載されており、国際的に高いインパクトを持つ研究である。当該論文はこれまでに63回引用がなされており、世界的に進展の著しい当該研究分野に大きな影響を与えている。筆頭著者らは当該分野で世界的に認知された会議(例:NIST Workshop on Standards for Microbiome Measurements)等で招待講演を複数実施している。本成果をもとに、AMED、生研センターなどの大型研究資金を含む複数の外部資金を研究代表者として獲得していることから、本研究は学術分野においても高い評価を受けている。
本研究で開発した標品は製品評価技術基盤機構から発布されており、広く国内等の産業界で利用されている。また、開発した標準的プロトコルは、日本マイクロバイオームコンソーシアムの参加企業の研究開発に活用されている。また、マイクロバイオーム解析サービス会社(株式会社テクノスルガ研究所、タカラバイオ株式会社)で本技術に基づくサービスが実装されている。本技術に関する知的基盤を基に、領域連携推進室と密に連携することで社会実装に向けて研究を展開しており、複数の企業との共同研究、技術コンサルティングに発展している。
本研究は、微生物学、情報科学など産総研が保有する複数の専門分野を基盤としながら、計量学、標準、カルチャーコレクションに関わる分野と、創薬等企業視点での研究開発分野を融合した研究で得られた学際性の高い成果である。
本研究は産総研内ではDieter Tourlousseを筆頭とする生命工学領域の研究者のみで実施しているが、その基盤にはこれまでの計量標準総合センターとの領域融合研究で行ったバイオ標準研究(核酸標準物質の開発等)で培った知的基盤を活用したものである。今後本研究成果を基にさらに高品質な(認証)標準物質開発を実施する、また解析方法に関する国際標準化を進める上で計量標準総合センターとの領域融合研究へ展開を検討している。

受賞者 Tourlousse Dieter(右)の写真
受賞者代表(Tourlousse Dieter)(右)

Voxelized GICP for fast and accurate 3D point cloud registration
(超高速な点群レジストレーションによる自己位置推定と環境地図生成)

2021 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA), 11054 (2021)

受賞者

  • 小出 健司 (デジタルアーキテクチャ研究センター)
  • 横塚 将志 (デジタルアーキテクチャ研究センター)
  • 大石 修士 (デジタルアーキテクチャ研究センター)
  • 阪野 貴彦 (デジタルアーキテクチャ研究センター)

選出理由

当該論文は、ロボティクス分野におけるGoogle Scholar Top20の第1位である国際会議ICRAで採択された論文であり、Google Scholarによると2021年5月の発表以降、3年半の短い期間で274回引用されている。h-indexも122と高い。
本研究の成果をコア技術とし、更に発展させた研究の成果は6件の知財移転に至っており、産業界でも活用されている。また、同時にオープンソース・ライセンスの元で公開したソフトウェアも数多く利用されており、GitHubで319回のフォークと1.3kものスターを集めている (比較対象として、提案手法の元となったGICPを名前に含むリポジトリを検索すると、一位と三位が本手法の実装であり、二位が124フォーク、549スターである)。ユーザー数を正確に推定する事は困難だが、GitHubに寄せられたコメントを見る限り、少なくとも国内外の多数の研究グループに活用されている事が伺え、非常に広く使用される技術となっている。
以上のことから、学術面、産業面いずれにおいても多大なインパクトをもって産総研のプレゼンス向上に大きく貢献している成果である。

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受賞者代表(小出 健司)(右)

Functional "permanently whitened" lignin synthesized via solvent-controlled encapsulation
(植物由来芳香族系高分子リグニンを白色・透明化する技術を開発)

Green Chemistry Vol. 24, No. 8, pp. 3243-3249, 2022

受賞者

  • 敷中 一洋(化学プロセス研究部門)

選出理由

掲載誌のGreen Chemistryは、インパクトファクター9.3(2023年)であり、Q1ジャーナルである。本論文は、発表から31ヶ月で既に19回も引用されており、注目度が高く、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献している。本論文に関して、高分子学会やリグニン学会をはじめとする多くの学会から講演依頼(10件)があり、さらにリグニン学会第4回奨励賞(2024年度)、トーキン科学技術賞(2022年度)を授与されるなど、複数の学術分野から高い評価を受けている。また公的プロジェクト(JST ALCA及び未来社会創造事業)に採択されるなど、学術界からの高い期待のみならず、企業からの問い合わせ11件があり、また技術コンサル3件(うち1件は共同研究に発展)の連携に発展するなど、産業界からの注目も高い。研究成果は特許第7538520号として権利化している。本成果に基づく、若手融合チャレンジ研究への提案においてエネルギー・環境など他領域の研究者と連携するなど、領域融合に向けた取り組みも推し進めている。

受賞者代表(敷中 一洋)(右)の写真
受賞者代表(敷中 一洋)(右)

Giant charge-to-spin conversion in ferromagnet via spin-orbit coupling
(三端子型磁気メモリ(SOT-MRAM)に向けた新規スピン変換材料の開発)

Nature Communications Volume 12, Article number: 6254 (2021)

受賞者

  • 日比野 有岐 (新原理コンピューティング研究センター)
  • 谷口 知大 (新原理コンピューティング研究センター)
  • 薬師寺 啓 (新原理コンピューティング研究センター)
  • 福島 章雄 (新原理コンピューティング研究センター)
  • 久保田 均 (新原理コンピューティング研究センター)
  • 湯浅 新治 (新原理コンピューティング研究センター)

選出理由

本論文では、スピン流生成の新規メカニズムの提案と立証、および、それを活用できる材料開発を行っており、新しい課題の発見と研究アプローチの開拓を行っている。産総研が強みを有するスピントロニクス分野において、学術的に高い評価を得て、被引用数も伸びていることから、学術分野での評価が高いと考えられる。また、次世代MRAMの無磁場書込みの基盤技術を確立し、SRAM代替のメモリ素子の開発を前進させた点で、エレクトロニクス分野における産業界への貢献が期待できる成果である。

受賞者代表(日比野 有岐)(右)の写真
受賞者代表(日比野 有岐)(右)

Transition from a transgressive to a regressive river-mouth sediment body in Tokyo Bay during the early Holocene: Sedimentary facies, geometry, and stacking pattern
(臨海平野全域を捉えた世界最高精度の地質地盤情報整備 多摩川平野の堆積モデル)

Sedimentary Geology Vol. 428, 106059, 2022

受賞者

  • 田邉 晋 (地質情報研究部門)
  • 中島 礼 (地質情報研究部門)

選出理由

本論文は、地質調査総合センターが推進している知的基盤整備の一環として位置づけられる。国内第三位の工業地帯である京浜工業地帯の位置する東京湾沿岸の臨海平野における軟弱地盤の特性として、地盤沈下や地震の強震動による被害などの地質災害と関連していることを明らかにした。この成果は、学術的及び社会的インパクトが大きいだけでなく、将来的な社会への付加価値を生み出す産業界への大きな貢献と言える。本論文は東京湾臨海部における地域特性のある研究成果だが、使用した解析手法は日本国内だけでなくヨーロッパや東南アジアにおける臨海平野の地盤研究にも応用でき、国際的にもインパクトのある成果である。大量の地質データを解析した綿密な議論と成果は、現状で多くの被引用があることを鑑みると、基盤的な論文として将来的に長く引用されていく論文になると考えられる。本論文を基礎情報として、2022年4月27日にプレスリリースを実施し、大手新聞に掲載されることで、産総研のプレゼンス向上に大きく寄与している。

受賞者代表(田邉 晋)(右)の写真
受賞者代表(田邉 晋)(右)

Quantum anomalous Hall effect with a permanent magnet defines a quantum resistance standard
(強磁場不要の量子抵抗標準を世界に先駆け実現)

Nature Physics Volume 18, Pages 25‒29, 2022

受賞者

  • 岡崎 雄馬(物理計測標準研究部門)
  • 大江 武彦(物理計測標準研究部門)
  • 中村 秀司(物理計測標準研究部門)
  • 金子 晋久(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)

選出理由

本論文はNature Physics誌(IF=19.5)に掲載され、34回引用されている。量子ホール効果の研究で権威のある国際会議や国内外ワークショップで招待講演(3件)を行ったほか、科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞するなど対外的にも高く評価されている。同様な研究は米国やドイツの計量研究所も取り組んでいるが、抵抗の国家標準として必要な8桁以上の精度を世界で初めて達成したのが産総研であり、現在の世界最高精度である。本論文がマイルストーンとなり、次世代抵抗標準の開発において産総研が世界をリードするなど、産総研のプレゼンス向上に貢献した。

受賞者代表(岡崎 雄馬)(右)の写真
受賞者代表(岡崎 雄馬)(右)

Calibrated 2-port microwave measurement up to 26.5 GHz for wide temperature range from 4 K to 300 K
(量子コンピューターで使用する高周波コンポーネントの評価技術を開発)

IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, 72, 1009608 (2023)

受賞者

  • 荒川 智紀(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)
  • 昆 盛太郎(物理計測標準研究部門)

選出理由

量子コンピュータの研究では超伝導量子ビットやスピン量子ビットばかりに注目が集まりがちであるが、それらを集積化して大規模な量子コンピュータを実現するには、量子ビットを制御するためのマイクロ波部品の極低温における性能評価が極めて重要である。室温におけるマイクロ波部品の評価技術は物理計測標準研究部門で長年研究されて校正サービスに利用されている。本論文は、超伝導量子ビットが実装される極低温における高周波デバイスの評価を標準研究所の水準で行うことを報告する最初の論文である。この論文は今後、量子コンピュータ内部で使用される部素材の評価手法を標準化する上でも重要になると期待され、この論文に書かれた測定手法は、単なる実証実験ではなく、既に技術コンサルに利用され、民間資金獲得にも貢献している。また、 11月19日にG-QuATを来訪した量子コンピュータの量子超越性証明で世界的に有名で、G-QuATの国際アドバイザリーボードのメンバーの1人であるJohn Martinis教授(カリフォルニア大サンタバーバラ校)から高く評価された。

受賞者代表(荒川 智紀)(右)の写真
受賞者代表(荒川 智紀)(右)