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産総研では2003年度(ホームページでの公表は2015年度から)より、職員の士気高揚を図るため、理事長賞表彰を毎年度実施しています。 2023年度は以下のとおり受賞者を決定いたしました。
過去の受賞一覧
候補者らは、ミクロな空洞黒体(光閉じ込め構造)を丈夫な素材上に敷き詰めた極低反射黒体材料「至高の暗黒シート」を開発した。イオンビーム照射と化学エッチングで得られる高品質な光閉じ込め構造により表面反射を極限まで抑制する技術に基づいており、漆類似成分のカシューオイル黒色樹脂の表面に光閉じ込め構造を形成したことで、くすみもぎらつきも少ない深い黒を実現した。薄いシート状の素材とすることができ、世界トップクラスの光吸収率(99.98%以上)を有しつつ、接触への耐久性も併せ持つ。この成果は令和4年度に高インパクト誌Science Advances(Science姉妹誌)への掲載に至ると共に、大きな反響を得たプレス発表も行った。関連成果の技術移転は、放射温度の標準器である平面黒体炉への実装・実証が先行し、民間共同研究を通じて社会実装(製品化)にまで至った。その傍ら、「至高の暗黒シート」は、カメラ内部や分光分析装置内の乱反射防止、迷光除去などを通じて光計測技術の格段の性能向上に貢献すべく、性能面でもコスト面でも実用化に足る製造方法を考案・確立しており、光・放射標準以外にも幅広い応用が見込まれる。
被表彰者らは、シリコンフォトニクス技術を高度化し、データセンターにおける消費電力増の主要因の一つであるデータ通信経路切り替えを広帯域(電気スイッチに対して1,000倍以上)かつ低消費電力(同1%以下)で行えることを実証した。さらに光集積回路技術の新たな展開として、ニューラルネットワークを用いたAI演算・学習を光回路のみにより実行することを世界に先駆けて着想し、超高速のAI処理を原理実証した。これらの成果は世界的に高く評価され、国際学会での基調講演や招待講演、高IF誌での論文発表を行うと共に2件のプレス発表を令和3から4年度にかけて行っている。上記成果を展開して、光電融合の技術体系とエコシステムの構築も目指している。光電融合は計算チップ間の通信帯域や距離の制限を大幅に緩和する技術として開発競争が激化している分野である。その中、システムからデバイスまで垂直統合的に研究開発を進めることで、将来クリティカルとなる技術を早期に同定し、的確かつ継続的に技術開発を進め、シリコンフォトニクスにおいて世界トップクラスにまで技術を高めた。また、2つの産総研コンソーシアムを設立・運営し、産業エコシステム構築に向けたリーダーシップを発揮している。
受賞者代表(河島 整)(右)
被表彰者らは、汚泥を積極的にエネルギー利用することを目的に、令和2年に日立造船との冠ラボを設置し、汚泥をガス化することで水素の製造を可能とする反応器の開発を開始した。下水汚泥は他のバイオマスとは異なり、集約システム(下水処理場)が既に構築されているがそのメリットを生かし切れておらず、“エネルギーとしての利用率”は国内では26%程度で、その利用率の向上が望まれている。ガス化により下水汚泥から水素を製造する際の主な課題は、配管等を閉塞するタールの排出を抑制することと、連続した安定運転を可能とするガス化反応装置の設計である。この二つの課題解決に冠ラボで取り組み、タールについては安価な天然鉱物による分解、低減を見出し、また独自の装置構造を有する循環流動層装置を構築することで、タールの排出を抑制しつつ、令和4年度に数十kg/日規模の長時間連続運転に成功した。これにより下水汚泥のエネルギー利用のための基盤技術を確立した。現在、これらの進捗を基に、装置の大型化を進めており、パイロットスケールでの実証に進んでいる。国内では、毎年約230万トン(乾燥基準)の下水汚泥が発生している。汚泥が排出される下水処理場は、各自治体が保有しているため、全国の自治体に導入される可能性があり、波及効果は大きい。
受賞者代表(SHARMA Atul)(右)
被表彰者らは、産総研が「ナショナル・イノベーション・エコシステムの中核機関」となるためには、研究DXにより「これまでの科学では探求できなかった新たな領域に踏み込み、知の空間を広げ、科学の質を変革する」ことが必要不可欠と判断した。一方、研究のDX に関心はあるがDXをどう活用すればよいか分からない、AI導入やデータ整備などに技術的なハードルがある、と研究者が感じていることを考慮し、研究者の意識改革と研究DXの導入支援を達成するために令和4年度より基礎的・実践的の2種類のオンライン教材を導入した。具体的には、導入された教材により、研究DXに関する研究者の意識改革および導入支援を着実に進め、所内の研究DX推進に貢献した(基礎的教材666名、実践的教材164名が利用)。また、オンライン教材による独習だけでは難しい点を補完するため、要望の高いテーマについてオンライン会議形式でのハンズオン研修を開催した(開催7回、延べ88名が参加)。更には、当該オンライン教材を効率的・効果的に利用するための様々なツール等を開発・導入した。
候補者らは、令和5年度、新たなスタイルと手法を導入した理事長メッセージ「教えて、〇〇さん!」の発信により、メッセージを普段、経営方針について意識することが少ない職員に届けることができただけでなく発信内容の理解が深まり、産総研内の経営層の考えの浸透に大きく貢献した。「教えて、〇〇さん!」シリーズは、日常の業務の間でも職員が見てみたいと思えるコンテンツにするため、テンポの良いビデオとライブの対話を中心に構成した。加えて、より多くの職員の関心を惹くために、短い広告映像を用いたアナウンスや、インターナルコミュニケーションサイトでのアーカイブ配信・メイキング秘話の公開などにも挑戦し、理事長メッセージを職員にとって身近なものとして位置付けた。回を追うごとに視聴者が増え、反響も大きくなることで理事長の考えが広く伝わったものと判断できる。このように、理事長メッセージをスピーディに新しい姿に変えたことは高く評価される。
被表彰者らは、今年度5月に、働き方改革の一環としてフルテレワークも可能とする新たなテレワーク制度を導入し、職員及び契約職員(以下「職員等」)の能力発揮とワーク・ライフ・バランスを実現し、業務能率の向上に貢献した。具体的には、国の感染症対策方針が変更されるタイミングに合わせて、他法人よりも産総研は先行して制度化を実現した。さらには、育児や介護等で時間の制約がある職員等のニーズも取り入れた制度とすることで、長時間の通勤の低減などにより身体的・精神的負担を軽減し、業務終了後直ちに育児、介護に携われるというような時間の有効活用ができるようにした。また、テレワークを含めた柔軟な働き方の制度が充実している組織であることを明示し、人材獲得のための競争力向上に努めると共に、柔軟なリクルート活動を可能とし、応募の促進につなげたと考えられる。更に、テレワークを含めた柔軟な働き方の実現と併せて、Teams等の活用やデジタル技術・リテラシー研修、1on1ミーティングによる支援などのコミュニケーションツールの活用やDX推進の取組を進め、組織の活性化に貢献した。
候補者らは、職員証等・鍵カード申請について、従前は、紙申請(全体で年間8,400件)であったこと、所属長及び鍵の開閉を希望する部屋毎の火元責任者の承認が必要であったことから、持ち回りによるスタンプラリーに時間を要すること、職員証にあっては顔写真を業務部室に出向いて撮影する必要があり、申請者の負担が大きかったこと、などから改善希望があがっていた状況に対して、新たに申請アプリを開発、導入(令和5年9月)した。これにより、申請~承認~担当者の受付までをオンライン化し、当該申請にかかる申請者の業務負担の軽減、所属長の承認に係る時間削減、さらには交付担当者(業務部室)の業務効率化に貢献した。また、これらの改善策を全国展開することで、申請~承認~受付の一連の業務が標準化されたほか、建物や鍵情報などがマスタデータとして整備されたことにより、記載事項の揺らぎや間違い、特につくばセンターにおける業務集約化(令和5年10月)に伴う、所管部署への業務移管を円滑に実施できた。具体的な効果は、時間削減:3,500時間/年(年間手続き件数:約8,400件✕削減時間 0.41h)、電子化による紙削減:約700枚/月×12か月=約8,400枚/年、と推算される。
被表彰者らは、人工知能を用いた製品等の品質マネジメントのためのガイドライン作成・公開と社会展開の取り組みを続けてきた。公開した「機械学習品質マネジメントガイドライン」の改版・内容拡充を続け、企業利用の支援促進・国際標準化提案などの社会展開の取り組みを進めた。その結果、令和4から5年度にかけて、主要ITベンダのほぼ全て(日本電気・富士通・日立製作所・日本IBM)や大手有力製品ベンダ(デンソー・パナソニック・コニカミノルタ)などにおいて、公開したガイドラインが民間企業の製品開発の実現場に定着し、日本のAIものづくりの信頼性向上に寄与した。また、令和3年度には経済産業省がまとめた「AI 原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」からも参照され、日本のAIルール作りに貢献した。ISO/IECで議論されているAI安全性に関する報告文書(TR)においても、最終原案にガイドライン英語版の内容が大きく反映されるなど、AI安全性に関する国際的なルール形成に貢献した。この様に、社会情勢に先んじて着手した研究の成果が、民間企業での商業ベースでの利用、政府施策での利用、国際標準化活動等を通じ社会実装された。
被表彰者らは、体外診断用医薬品の原料酵素であるコレステロールエステラーゼの高生産化を、旭化成ファーマ株式会社との共同研究によるスマートセルの開発で実現し、NEDOスマートセルプロジェクトの課題の中で初の製品化を実現した。微生物が持つ物質生産能力を最大限に引き出すスマートセル技術によって、コレステロールエステラーゼの生産効率を従来の野生株と比べ30倍以上に上げた。候補者らが発見したコレステロールエステラーゼ生産能力に関わる遺伝子は、コレステロールエステラーゼ生産菌が外部環境からの遺伝情報の流入を防御するために保持している新規の機能遺伝子であることを確認した。これらの遺伝子の機能を制限し、コレステロールエステラーゼ発現プラスミドの安定性を高め、細胞内のプラスミドコピー数を増加させ、生産能力を著しく向上させた。本スマートセルにより製造したコレステロールエステラーゼは、令和5年6月30日より旭化成ファーマより製造販売されており、社会実装を果たした。
被表彰者らは、バルカー-産総研先端機能材料開発連携研究ラボ(冠ラボ)」において、フランジ締結管理システムの実用化を実現し、社会実装を果たした。プラント配管のフランジ締結管理は、熟練した作業者の経験に依存してきた。これは、漏洩に直結するフランジーガスケット間の面圧の計測が難しく、締結状態を定量的に把握することが困難なためである。そこで、センサを直接導入できないフランジーガスケット間の面圧センシングを実現し(令和3年度)、締結時に漏洩を防ぐ面圧への到達を判断し、締結不足に対しては再締結を指示するプロトタイプ機を開発し、経験の浅い作業者が熟練者と同等のレベルの締結管理を行えることを実証した(令和3~4年度)。このプロトタイプ機をもとに、石油精製、石油化学等の国内プラント企業の現場ニーズを取り入れ、実現場導入機を開発した(令和5年度)。本成果は、熟練作業者が減少する中でのプラントの安全確保という社会問題に対して、フランジ締結管理の課題解決策を提示し、企業と緊密に連携して社会実装を推進している。
候補者らは、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)のパワーモジュールの高出力化を実現するため、機能性・信頼性に優れたセラミックス(窒化ケイ素)製の絶縁放熱基板の需要が高まっている社会要請に対応すべく、シリコン粉末を1400 ℃付近で窒化させた後、高温・高圧下で焼結する手法により、絶縁放熱基板に要求される強度・熱伝導率・耐電圧を高い水準で兼ね備えた窒化ケイ素基板を開発した。素材メーカーとの共同研究を推進し、数多くの特許実施契約を締結することを経て、高熱伝導原料の合成、高熱伝導率の発現機構の解明と高熱伝導率化などにより、開発基板のEV車への実装に道筋を付けた。これらの技術について同素材メーカーに技術移転を進め、令和4年度に窒化ケイ素基板の新規製造プロセスを世界で初めて開発することに成功した。さらに、同素材メーカーにおいて、新規製造プロセスを活用した新工場を増設し、上記の技術に基づいた製品を出荷するなど、社会実装を果たしている。
被表彰者らは、産業構造審議会の研究開発・イノベーション小委員会の方針を受け、産総研第5期経営方針におけるアクションプラン最重要項目の一つである「社会実装加速化のための成果活用等支援法人設立」を実現するため、設置された準備室にて、法人の法的位置づけ、組織体制、産総研との連携関係整理などを順次検討・決定した。経済産業省への出資認可申請の提出と認可、法人登記等の手続きを経て、令和5年4月1日付にて産総研初となる出資法人「株式会社AIST Solutions」を設立し事業を開始した。また設立後も事業計画に従って、企業連携の戦略立案と実施体制整備、知財の技術移転における業務フローの確立など、事業推進体制を確立した。研究成果の「社会実装」の加速化による社会課題の解決が日本の科学技術・イノベーション政策の主要な目標となる中、本件は公的機関の社会実装手法の考え方を大きく前進させ、オープンイノベーションによる社会課題解決のリーダーシップの役割を引き受け、社会貢献を果たしている。