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産総研:産総研論文賞2018

賞の概要

産総研研究者は、科学技術におけるイノベーション創出の先導者として、自ら向上心と使命感を持って研究を遂行し、質の高い論文を世界に向けて発信していきます。そこで、産総研として誇れる高水準の論文を発表した研究者に対して、2014年度より毎年「産総研論文賞」として顕彰しております。

※受賞者の所属は受賞時点のものです。

過去の受賞一覧


論文賞受賞者と理事長、副理事長の写真
2018年度の受賞者と中鉢理事長、三木副理事長
 

受賞論文

Bisphenol A and other bisphenol analogues including BPS and BPF in surface water samples from Japan, China, Korea and India

Eriko Yamazaki, Nobuyoshi Yamashita, Sachi Taniyasu, James Lam, Paul KS Lam, Hyo-Bang Moon, Yunsun Jeong, Pranav Kannan, Hema Achyuthan, Natesan Munuswamy and Kurunthachalam Kannan
ECOTOXICOLOGY AND ENVIRONMENTAL SAFETY, 2015, 122, 565-572.

受賞者

  • 山崎 絵理子(環境管理研究部門)
  • 山下 信義(環境管理研究部門)
  • 谷保 佐知(環境管理研究部門)

選出理由

本研究では、環境汚染物質の一つであるビスフェノールA(BPA)と、その工業的代替物7種類の高感度分析法を新規開発した。さらに、日本を始め、インド、中国、韓国の環境水中濃度を測定し、放出量やリスクの国際比較を行った。その結果、BPAは先進国では減少しているがインドでは現在も高濃度に汚染されている事、先進国ではBPA代替物であるビスフェノールF(BPF)が最も高濃度であるが、インドでは逆である事等が明らかになった。また東京湾におけるビスフェノール類の収支モデルを作成し、東京湾化学汚染のリスクが低減していることを定量的に示した。

本論文は、Environment/Ecology領域において、Top1%の高被引用論文にランクされ、学術的にも注目されている。また、本論文は、産総研の著者が開発した分析技術を国際的に展開させた研究であり、立案から遂行、論文執筆まで主体的に行っている。以上、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献した。
受賞者代表(山崎 絵理子)(右)の写真
受賞者代表(山崎 絵理子)(右)

BDNF pro-peptide actions facilitate hippocampal LTD and are altered by the common BDNF polymorphism Val66Met

Toshiyuki Mizui, Yasuyuki Ishikawa, Haruko Kumanogoh, Maria Lume, Tomoya Matsumoto, Tomoko Hara, Shigeto Yamawaki, Masami Takahashi, Sadao Shiosaka, Chiaki Itami, Koichi Uegaki, Mart Saarma and Masami Kojima
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2015, 112, E3067-E3074.

受賞者

  • 水井 利幸(バイオメディカル研究部門)
  • 熊ノ郷 晴子(バイオメディカル研究部門)
  • 原 とも子(健康工学研究部門)
  • 上垣 浩一(バイオメディカル研究部門)
  • 小島 正己(バイオメディカル研究部門)

選出理由

脳疾患の細胞の病態として神経伝達障害が注目されている。本研究では、神経系の成長因子BDNF(brain-derived neurotrophic factor)の部分配列断片が、脳内の神経伝達を抑制していることを発見し、BDNF プロペプチドと命名した。さらに、タンパク質が細胞表面から細胞内に移動する様子を可視化する新技術を開発し、この技術を用いて、本プロペプチドが神経細胞を興奮させる神経伝達物質の働きを調節する仕組みを明らかにした。本プロペプチドには、遺伝子の変異に伴う変異型ペプチドが存在するが、その変異型は上記の働きを示さないことを解明した。現在、この成果に基づいた脳疾患の創薬の研究を民間企業と共同して進めている。
本論文の成果は、タンパク質科学、ゲノム科学に新たな展開を与え、神経細胞の研究分野の発展に貢献するもので、論文の被引用数も増えている。科学的インパクトと創薬への橋渡し研究への進展は、産総研のプレゼンスの向上に大いに貢献している。
受賞者代表(小島 正己)(右)の写真
受賞者代表(小島 正己)(右)

Self-lubricating organogels (SLUGs) with exceptional syneresis-induced anti-sticking properties against viscous emulsions and ices

Chihiro Urata, Gary J. Dunderdale, Matt W. England and Atsushi Hozumi
J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 12626-12630.

受賞者

  • 浦田 千尋(構造材料研究部門)
  • 穂積 篤(構造材料研究部門)

選出理由

生物体の表面は様々な環境で生き抜くために固有の優れた機能を有している。近年、生物体表面の優れた機能を模倣した高性能な表面の開発に注目が集まっている。本研究では、新しい難付着性材料SLUGs(Self-lubricating gels)を開発し、特殊な装置や反応条件を必要とせず、ゲル前駆液を塗布し、加熱処理するだけで成膜することに成功した。得られる皮膜は透明であり大面積化も可能である。また、表面潤滑状態や離漿(ゲル内部から液体が滲み出る現象)温度を任意に制御することも可能となった。さらに、撥液性や防汚性、自己修復型超撥水性、温度応答型氷雪付着防止、温度応答型光学特性(反射防止)といった機能を発現させることにも成功した。

目的基礎研究からスタートし、NEDOプロジェクトへ採択され、複数の民間企業との共同研究に進展している。実証試験が開始され、実用化に向けて早いペースで展開している。また、本論文の被引用数も多く、学術的にも注目されている研究であり、産総研のプレゼンスの向上に大きく貢献した。

受賞者代表(浦田 千尋)(右)の写真
受賞者代表(浦田 千尋)(右)

New-Structure-Type Fe-Based Superconductors: CaAFe4As4 (A = K, Rb, Cs) and SrAFe4As4 (A = Rb, Cs)

Akira Iyo, Kenji Kawashima, Tatsuya Kinjo, Taichiro Nishio, Shigeyuki Ishida, Hiroshi Fujihisa, Yoshito Gotoh, Kunihiro Kihou, Hiroshi Eisaki and Yoshiyuki Yoshida Journal of the American Chemical 
Society, 2016, 138, 3410-3415.

受賞者

  • 伊豫 彰(電子光技術研究部門)
  • 川島 健司(電子光技術研究部門)
  • 金城 達矢(電子光技術研究部門)
  • 西尾 太一郎(電子光技術研究部門)
  • 石田 茂之(電子光技術研究部門)
  • 藤久 裕司(物質計測標準研究部門)
  • 後藤 義人(物質計測標準研究部門)
  • 木方 邦宏(未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合)
  • 永崎 洋(電子光技術研究部門)
  • 吉田 良行(電子光技術研究部門)

選出理由

鉄系超伝導体は、高い超伝導転移温度のみならず、その豊富な物質バリエーションのため、物理的・化学的見地から注目され、世界中で熾烈な研究競争が行われている。本論文は、新物質探索に一石を投じるものであり、新物質発見の起点となった。これまでは、イオン半径の大きく異なる原子の組合せでは、化合物は生じないという常識があった。本研究は、その常識を打ち破り、従来には無いAeとAの組合せで、5つの新超伝導体AeAFe4As4 ("1144型")を発見した。さらに、新物質発見のみならず、鉄系超伝導物質の探索コンセプトを示し、その後の多数の新超伝導物質の発見にも繋がった。この1144型構造は初めて報告される新しい結晶構造であり、1144型構造を有する新しい候補物質が理論的に提案されるなど、超伝導分野を超えた広がりを見せつつある。

本論文は、被引用数が多く、科学的なインパクトも大きい。産総研で長年培ってきた物質探索・開発技術、結晶構造解析技術を基盤とした、民間企業との共同研究による成果であり、産総研のプレゼンスを大いに高めた。

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受賞者代表(伊豫 彰)(右)

Light-induced crawling of crystals on a glass surface

Emi Uchida, Reiko Azumi and Yasuo Norikane
Nature Communications, 2015, 6, 7310, 1-7.

受賞者

  • 内田 江美(電子光技術研究部門)
  • 阿澄 玲子(電子光技術研究部門)
  • 則包 恭央(電子光技術研究部門)

選出理由

本論文では、ガラス板に乗せた結晶(3,3'-ジメチルアゾベンゼンという有機化合物の結晶)に、紫外光および可視光を異なる方向から同時に照射すると、結晶がガラス板上を紫外光から遠ざかる方向に移動する現象を初めて報告した。本技術では、特殊な光源を必要とせず、市販のガラス板をそのまま使用するという簡便な方法を用いることにより移動を可能にした点が極めて画期的である。さらに、結晶は壁面を垂直方向に移動する(上る)こと、より分子構造を単純化した無置換アゾベンゼンでも移動が可能であることを示し、本現象の普遍性を実証した。この移動現象は、紫外光と可視光を交互に照射するのではなく、同時に照射するだけで動かせることが画期的である。さらに、高度な結晶移動制御法の開発、流路不要の物質運搬法やソフトロボット開発へ展開している。

本論文は科学的価値が高く、被引用数も多く各種メディアに取り上げられ、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献した。

受賞者代表(内田 江美)(右)の写真
受賞者代表(則包 恭央)(右)