賞の概要
産総研研究者は質の高い論文を世界に向けてより多く発信し、国民からの科学技術イノベーション創出の先導者としての期待に応え、また自らも使命感と高揚感を持って研究業務にあたることが求められていると考えており、このような背景のもと、平成26年度より産総研のプレゼンス強化を目的に、「産総研論文賞」として、年1回、高水準の論文を発表した研究者を顕彰しております。
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受賞者と中鉢理事長、金山審査委員長
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受賞論文
Electric-Field-Induced Ferromagnetic Resonance Excitation in an Ultrathin Ferromagnetic Metal Layer
Takayuki Nozaki*, Yoichi Shiota, Shinji Miwa, Shinichi Murakami, Frédéric Bonell, Shota Ishibashi, Hitoshi Kubota, Kay Yakushiji, Takeshi Saruya, Akio Fukushima, Shinji Yuasa, Teruya Shinjo, and Yoshishige Suzuki
Nature Physics, 8, 491-496, 2012
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選出理由
電圧によるスピン制御はスピントロニクスデバイスの超低駆動電力化を実現する将来技術として期待されているが、実用化に向けて鍵となる高速応答性を有する技術はこれまで確立されていなかった。本研究では、数原子層程度の超薄膜金属磁石と誘電層の接合に電界を印加することで磁気異方性が変化する現象を用いて、ギガHzオーダーの高速スピンダイナミクスを電圧のみで励起することに世界で初めて成功した。また、従来の電流駆動型と比べて約1/200の低消費電力化を実証し、グリーンIT実現の大きな可能性を示した。
本論文は、電圧を用いてスピンを操作する“電圧スピントロニクス”と呼ばれる新しい研究分野を切り開いたマイルストーンの一つとして、学術的に高く評価されている。また、本論文の発表が契機となって、国内大型プロジェクトも立ち上がっていることから、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献していると認められる。
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受賞者代表(野崎 隆行)(左)と中鉢理事長(右) |
Sulfate Aerosol as a Potential Transport Medium of Radiocesium from the Fukushima Nuclear Accident
Naoki Kaneyasu*, Hideo Ohashi, Fumie Suzuki, Tomoaki Okuda, and Fumikazu Ikemori
Environmental Science & Technology, 46, 5720-5726, 2012
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選出理由
本研究では、福島第一原子力発電所事故後に放射性セシウムを含む大気エアロゾルの粒径分布を測定し、まだ放射性物質の放出量が大きかった事故後1ヶ月程度の時期に大気中で放射性セシウムを輸送しているもの(担体)が硫酸塩エアロゾルである可能性が大きいことを見出した。これにより、今後の数値モデルによる放射性物質の輸送・拡散・沈着計算の精度向上が図られるとともに、今回の原子力発電所事故による放射性物質の地表面への沈着の実態解明や汚染地域の分布の形成のメカニズム解明がより進展することが期待される。
本論文は、福島原発事故後の放射線物質の長距離拡散が懸念されている中で、いち早く放射性セシウムの拡散モデルを明らかにしているという点において学術的に高く評価されている。また、事故後、産総研ホームページに掲載された本研究の紹介に閲覧が殺到するなど、研究者ばかりでなく一般市民にも大きなインパクトを与えた。本研究成果が廃炉作業中の放射性物質の除去装置開発に応用されるなど、橋渡しへの貢献もあったと評価する。
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受賞者(左)と中鉢理事長(右) |
One Hundred Fold Increase in Current Carrying Capacity in a Carbon Nanotube–Copper Composite
Chandramouli Subramaniam, Takeo Yamada, Kazufumi Kobashi, Atsuko Sekiguchi, Don N. Futaba, Motoo Yumura, and Kenji Hata*
Nature Communications, 4:2202, 2013
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選出理由
本研究ではCNTに銅を高充填にメッキできる方法を開発し、CNTと銅がほぼ同等の体積占有率を有することで新たな性質を有する画期的な新複合材料を創出した。具体的には銅に流せる最大電流の100倍の電流を流すことを可能にした。更に当該材料は、線熱膨張率が銅の約3分の1とSiとほぼ同等の線熱膨張率を有しており、これは昨今の接合型電子デバイスで問題となっている配線と基板との熱膨張率の違いからの機械的ひずみによるデバイスの信頼性低下を解決する方法になると期待される。
本研究はマイクロエレクトロニクスの高密度配線、モーターの軽量・高密度コイル、軽量送電線などの社会変革をもたらす可能性を有しており、将来的な橋渡しへの貢献を大いに期待する。また、本研究成果は国内外の多数のメディアに取り上げられたことから、産総研のプレゼンス向上にも大いに貢献していると認められる。
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受賞者代表(山田 健郎)(左)と中鉢理事長(右) |
Morphological Change and Mobility Enhancement in PEDOT:PSS by Adding Co-Solvents
Qingshuo Wei*, Masakazu Mukaida*, Yasuhisa Naitoh, and Takao Ishida
Advanced Materials, 25, 2831-2836, 2013
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選出理由
PEDOT:PSSは、高沸点溶媒であるエチレングリコールを添加したPEDOTナノ粒子を含んだ水溶液から製膜すると、非常に高い導電率を有する。本研究は高導電性のPEDOT:PSSの構造が低導電性のそれと異なり、ナノ結晶の秩序立った整列が高導電性発現の鍵であることを明らかにした。またイオン液体ゲートを使った電界効果トランジスタ(FET)で簡便にキャリア移動度を評価し、高導電率のPEDOT:PSS薄膜が非常に高いキャリア移動度を持つことを明らかにした。
本論文は、熱電変換の分野だけでなく、色素増感太陽電池の電極材料、透明導電膜など、非常に幅広い関連研究領域の論文で引用されており、有機半導体のデバイス化にとって極めて有益な情報を提供しているものと認められる。また、本論文に関連して、複数の資金提供型共同研究の獲得や技組への参加、並びに2件の特許申請が行なわれており、橋渡しの観点からも、産総研のプレゼンス向上に大いに貢献しているものと評価する。
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受賞者代表(石田 敬雄)(左)と中鉢理事長(右) |