【2016年における産総研の主な研究成果・トピック】
産総研では、主な研究成果の概要を下記のホームページで公開しています。毎年、本メルマガの1月号では、本ホームページに掲載された研究成果の中から前年における代表的な研究成果を紹介しており、今回は2016年の代表的な研究成果・トピックを研究領域ごとにご紹介します。
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(エネルギー・環境)
■室内の製品から人への化学物質暴露を推定するツールICETを公開 -より現実に近い暴露シナリオでの評価が可能に-
産総研は、室内で使用する製品に含まれる化学物質の人への暴露をパソコンで評価できるソフトウェア「室内製品暴露評価ツール(ICET)」の無償版を公開しました。洗剤、殺虫剤などだけでなく家電、家具などからの暴露も推定でき、製品開発時の安全性評価や製品事故時のリスク評価への活用が可能となります。
■世界初!反転層型ダイヤMOSFETの動作実証に成功 -省エネ社会に大きく貢献する究極のパワーデバイスの実現へ-
産総研などは、ダイヤモンド半導体を用いた反転層チャネルMOSFETを作製し、その動作実証に成功しました。ダイヤモンドパワーデバイスが自動車や新幹線、飛行機、ロボット、人工衛星などに導入されることで、省エネ・低炭素社会への貢献が期待されます。
(生命工学)
■共生細菌が宿主昆虫をメスだけにするしくみを解明 -オスのX染色体を切断して細胞死を引き起こす-
産総研などは、共生細菌スピロプラズマがオス殺しにより宿主ハエをメスだけにするしくみを解明しました。オスのX染色体を認識して染色体切断を起こし、細胞死を誘導してオス胚を殺します。害虫の捕食者を利用した天敵農薬の効率的生産などへの応用展開が期待されます。
■ヒトの神経細胞の発生を調節するタンパク質の機能を発見 -ヒトに特徴的な機構の存在を示唆-
産総研は、遺伝子の情報の読み取りを制御する酵素の一つであるLSD1が、ヒトの胎児脳の発達を調節する新たな機能を持つことを発見しました。脳梗塞やパーキンソン病などの神経疾患治療のための高効率な神経細胞供給の実現が期待されます。
(情報・人間工学)
■どの方向からも画像が自分に向いているように見えるディスプレイを開発 -標識・広告・テレビなどでの活用により情報にアクセスしやすい環境の実現を目指して-
産総研は、特殊なレンズ構造を使った独自の表示技術を用い、どの方向から見ても自分に向いているように表示できるディスプレイを開発しました。これまでの一般的な表示では必ずあった見にくい角度や死角がなく、全ての利用者が最も見やすい正面向きの表示で内容を確認できます。
■人の動きや呼吸を見守る静電容量型フィルム状近接センサー -床やベッドの裏に貼って使う非接触人感センサーとその印刷作製法を開発-
産総研などは、非接触式の静電容量型フィルム状近接センサーを人の目に触れない場所に貼るだけで、人の動きや呼吸を検出できる技術を開発しました。センサーはスクリーンオフセット印刷技術で簡便に作製可能であり、使用者に精神的・肉体的負担をかけない見守りシステムの実用化が期待できます。
(材料・化学)
■高記録容量光ディスクを目指した高速光記録材料を開発 -長期間の保存記録向け光ディスク材料-
産総研などは、多段階多光子吸収とホログラム技術を用いて大幅な多層化と高速な記録が可能な長期間保存用光ディスク向け記録材料を開発しました。1枚のディスクで最大10テラバイトの記録容量が可能で、長期保存記録に用いることで消費電力削減と二酸化炭素排出量低減への貢献が期待されます。
■水素の大量製造を可能にする酸化物ナノ複合化陽極材料を開発 -革新的な固体酸化物形電解技術による水素社会への貢献-
産総研は、固体酸化物形電解セルに用いる酸化物ナノ複合化陽極材料を開発しました。この材料は、高温電解電流密度を飛躍的に向上させ、セル面積あたりの電解水素の合成速度も、高分子形の水電解での合成速度の2倍以上を達成し、電解セルのコンパクト化に貢献できる可能性があります。
■簡単に表面の摩擦力を大幅に変えられる複合材を開発 -グリップ性能を調節できるゴムなどの表面材への応用に期待-
産総研は、簡単に表面の摩擦力を大幅に変えられる複合材を開発しました。この複合材はゴムの表面に織布を埋め込んだもので、圧縮と同時に表面の形状が変わり、ゴム表面の摩擦力が瞬時に1/10程度に低下します。ロボットハンドや工具等のグリップ性能制御への応用が期待されます。
■世界最高水準の耐環境特性ゴム材料を開発 -単層CNT添加で耐環境特性を改善、材料の適用範囲を飛躍的に拡大-
産総研などは、ゴム材料に単層カーボンナノチューブを加えることで世界最高水準の耐熱性、耐熱水性、耐酸・耐アルカリ性などの耐環境特性を持つゴム材料を開発しました。石油掘削装置などのシーリング、自動車などの金属ガスケット代替、化学プラントの高温部シールなどへの適用が期待されます。
(エレクトロニクス・製造)
■極めて低濃度のウイルスを簡便に検出できるバイオセンサーを開発 -ウイルス粒子を光と動きで検出-
産総研は、夾雑物を含む試料中のごく少量のウイルスなどのバイオ物質を、夾雑物を除去しないでも高感度に検出できる外力支援型近接場照明バイオセンサーを開発しました。都市下水の二次処理水200マイクロリットルにノロウイルス様粒子約80個を混入させた試料中からのウイルス様粒子検出に成功し、ウイルス感染予防への貢献が期待されます。
■電子スピンを用いた高周波発振器「スピントルク発振素子」で世界最高出力 -ナノメートルサイズの発振器で水晶振動子に並ぶ高出力を実現-
産総研は、磁気渦型の磁化構造をもつスピントルク発振素子の磁気抵抗比を190 %まで向上させ、スピントルク発振素子として初めて10 μWを超える出力を達成しました。一般的な水晶振動子に匹敵する高い出力であり、安価で小型な無線通信機器への応用が期待されます。
■従来の限界を超える高温環境で動作する不揮発性メモリー -人類が初めて手にする600 ℃超での書き換え・記録技術-
産総研などは、耐熱性を有する白金ナノ構造を利用することで従来を大きく上回る600 ℃超でも動作する不揮発性メモリー素子を開発しました。超高温での記録技術により、フライトレコーダーや惑星探査機などの耐環境性電子素子への応用が期待されます。
■超微細回路を簡便・高速・大面積に印刷できる新原理の印刷技術を開発 -あらゆる生活シーンのIoT化・タッチセンサー化を加速する新技術-
産総研などは、紫外光照射でパターニングし、銀ナノ粒子を高濃度に含む銀ナノインクを表面コーティングするだけで、超微細な銀配線パターンを製造できる印刷技術を開発しました。真空技術を一切使うことなく、最小線幅0.8マイクロメートルの超高精細な金属配線を、大面積基材上に簡便・高速に印刷で作製できます。
(地質調査)
■東アジア地域の地震と火山噴火に関する災害情報図が完成 -過去に発生した災害情報を1枚の地質図に表示-
産総研は、過去の大規模な地震、火山噴火、それに伴い発生した津波による災害情報をまとめた「東アジア地域地震火山災害情報図」を作成しました。海外進出企業や旅行者などのリスク管理意識向上などが期待できるほか、防災計画の策定やハザードマップ作成の基礎データとしても利活用できます。
■衛星観測データに付加価値を付けた「ASTER-VA」を無償提供 -地球観測衛星TERRAの光学センサーデータの利活用を促進-
産総研は、米国航空宇宙局の衛星に搭載したセンサーの衛星画像データを分かりやすく処理して使いやすいインターフェースで提供します。全世界のデータを備えており、防災や環境、農林水産業など広範な分野で利活用できます。
(計量標準)
■農産物の水分量を電磁波で簡便に計測する技術を開発 -生産現場での農産物の品質管理が容易に-
産総研は、米などの農産物の水分量を電磁波を用いて非破壊で計測する技術を開発しました。今回の手法で用いる電磁波は、包装用フィルムや発泡スチロール、ダンボールなどを透過するため、包装や箱詰めされた状態でも水分量をほぼリアルタイムで計測できます。
■デジタルカメラで撮影するだけで橋のたわみを計測する技術の開発 -健全性評価における計測時間とコストを大幅削減-
産総研などは、デジタルカメラで橋のたもとから橋梁を撮影した画像を用いて、車両が通行する際に橋梁に生じるたわみ分布を短時間で計測できる技術を開発しました。従来技術と同程度の精度で計測でき、計測時間とコストを大幅に削減できます。
■セシウム原子の共鳴を利用した新たな電磁波計測技術を開発 -アンテナを使わずに電磁波の強度を測定-
産総研は、セシウム原子の共鳴現象を利用して電磁波の強度を測定する技術を開発しました。通常のアンテナでは困難な局所的な電磁波強度を高精度に測定ができ、空間分解能の高い電磁波強度計測が可能となりました。電磁環境測定の高度化や空間電磁界の可視化への応用が期待されます。
■1000 ℃付近の高温で使用できる高精度な温度計を開発 -高温域での温度測定・温度制御技術の向上に貢献-
産総研などは、1000 ℃付近の高温域でも0.001 ℃レベルの精度で温度測定ができる白金抵抗温度計を開発しました。白金線の熱処理と高温で白金線に生じる熱ひずみを低減できるセンサー構造により実現しました。材料プロセスなど高温域での高精度な温度測定・温度制御の実現が期待されます。
■可視光全域の波長をカバーする、世界で初めての標準LEDを開発 -次世代照明の高精度な特性評価を目指して-
産総研などは、中心波長が異なる複数のLED素子と複数の蛍光体を用いて、可視光全域で十分な光強度をもつ標準LEDを開発しました。LED照明や有機EL照明の高精度な特性評価が可能となり、製品開発の加速や性能向上への貢献が期待されます。