発表・掲載日:2025/03/21

紀伊半島中央部の世界第一級断層沿いの地質を明らかにした地質図が刊行

-5万分の1地質図幅「高見山」-

ポイント

  • 産総研の5万分の1地質図幅の中で、紀伊半島中央部の未整備地域における地質図を刊行
  • 綿密な地質調査と年代測定データから中央構造線沿いの詳細な地質が明らかに
  • 三重県・奈良県における防災・減災、土木・建築の基礎資料としての活用に期待

概要図

(A)高見山図幅地域の位置図、(B)高見山図幅内の地質概略図


国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)は、紀伊半島中央部、三重県松阪市西方の高見山地域の地質調査結果をまとめた5万分の1地質図幅「高見山」(以下「本図幅」という)を刊行しました。本図幅地域から東方の紀伊半島東部では、1932年に刊行された7万5千分の1地質図幅「野後のじり」以降、2017年に刊行された5万分の1地質図幅「鳥羽」以外に詳細な地質図は整備されていませんでした。紀伊半島は日本最大の多雨地域で、豪雨時にはしばしば土砂崩れが発生し、社会活動に影響を及ぼしてきました。また、東南海地震想定震源域にも近いため、地震時の被害想定にも詳細な地質情報が必要になります。

このたび、2018〜2021年にかけて当該地域の地表踏査を約250日間実施し、化学分析や年代測定などの室内作業による結果も合わせて、本図幅地域に分布する領家りょうけ変成コンプレックス領家深成岩類三波川さんばがわ–四万十変成付加コンプレックス秩父付加コンプレックスを基盤岩とする地質を詳細に明らかにして、精緻な地質図を作成しました。

本図幅地域の中央部には、中央構造線と呼ばれる世界最大級の総延長約1000 kmの断層が東西に横断しています。本図幅地域の中央構造線は活断層ではないとされていますが、派生する断層も含めて、これまでの活動により広範囲の岩盤が破砕され、岩盤としての強度が低くなっています。本図幅では中央構造線から派生する断層の詳細な分布も明らかにしています。このような地質を詳細に把握することは、防災・減災対策において大変役立ちます。断層の分布や地質構造などの地質災害に関する地質情報を集約した本図幅は、本図幅地域における防災・減災、土木・建築などへの活用だけでなく、学術研究の基礎資料としての活用も期待されます。


メンバー

竹内 誠(産総研 地質情報研究部門 特定フェロー・名古屋大学 大学院環境学研究科 教授)
常盤哲也(信州大学 学術研究院理学系 准教授)
森  宏(信州大学 学術研究院理学系 助教)
志村侑亮(産総研 地質情報研究部門 層序構造地質研究グループ 研究員)

 

入手先

本図幅は、3月21日より産総研地質調査総合センターのウェブサイトからダウンロードできます(https://www.gsj.jp/Map/JP/geology4.html)。また、産総研が提携する委託販売先から購入することも可能です(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)。

 

関連する論文

掲載誌:Journal of Asian Earth Sciences
タイトル:Sedimentary history and provenance analysis of the Sanbagawa Belt in eastern Kii Peninsula, Southwest Japan, based on detrital zircon U–Pb ages
著者:Jia, S and Takeuchi M.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jseaes.2020.104342

掲載誌:Journal of Asian Earth Sciences
タイトル:Deformation characteristics and peak temperatures of the Sanbagawa Metamorphic and Shimanto Accretionary complexes on the central Kii Peninsula, SW Japan
著者:Shimura, Y., Tokiwa, T., Mori H., Takeuchi M. and Kouketsu, Y.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jseaes.2021.104791


用語解説

地質図・地質図幅
地質図は植生や土壌をはぎ取った下の地層・岩石の様子を表した地図のことで、「地」球の性「質」を表した地「図」です。地質図を緯度経度で囲まれた四角の区画で示したものを地質図幅といいます。地質図は、資源開発、防災、土木・建設、地球環境対策など幅広い分野で利用されています。また、日本列島の発達過程を明らかにするための学術資料としても重要です。産総研地質調査総合センターでは、全国各地域の地質を調査・研究し、主に5万分の1と20万分の1地質図幅を整備・刊行しています。5万分の1の地質図幅は、地質図幅の中で最も高精度の地質図で、詳細な地質情報が記載されているものです。日本全国で1274区画あり、整備を進めています。20万分の1地質図幅は、日本全国で124区画あり、全国整備が完了していますが、古くに刊行された図幅の改訂を行っています。刊行された地質図幅は、地質調査総合センターのウェブサイト(https://www.gsj.jp/Map/JP/geology4.html)から見ることができるとともに、印刷物が一般向けに販売されています。[参照元へ戻る]
年代測定
岩石の年代を測定する方法はいくつかありますが、本図幅地域では主に岩石中に含まれるジルコンという鉱物を用いて年代測定を行いました。ジルコンには質量数238のウラン(238U)を微量含み、この238Uの半分は約45億年で質量数206の鉛(206Pb)に変化します。ジルコン中の206Pb/238U比を測定することにより、この鉱物が形成されてからの時間がわかります。[参照元へ戻る]
領家変成コンプレックス
主に後期白亜紀の約1億年〜9千万年前に低圧高温型変成作用を受けた変成岩。その原岩は海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレートの上の堆積物や海山の断⽚などがはぎ取られ、海溝に溜まった砂や泥と一緒になって、ジュラ紀(約2億年〜1億4千5百万年前)に陸側に押し付けられてできた付加コンプレックスです。[参照元へ戻る]
領家深成岩類
主に後期白亜紀(約1億年〜6千5百万年前)のマグマの活動に伴うマグマだまりが地下深部でゆっくりと冷却し、岩石になったものが、その後隆起し地表に現れたものです。今回の調査によって、本図幅地域では約1億年〜7千万年前までの間、断続的にマグマが活動したことが明らかになりました。[参照元へ戻る]
三波川–四万十変成付加コンプレックス
四万十付加コンプレックスは、後期白亜紀(約1億年〜6千5百万年前)に海溝付近で形成された付加コンプレックスです。この一部はより深部にまでもぐり込み、高圧低温型変成岩(三波川変成コンプレックス)となります。紀伊半島中央部では、両者を明瞭に区別することが困難なため、三波川–四万十変成付加コンプレックスと表記しました。三波川変成コンプレックス中のジルコンの年代測定によって、本図幅地域の三波川変成コンプレックスの変成作用を受ける前の地層は四万十付加コンプレックスと同じ時代に形成されたものであることがわかりました。[参照元へ戻る]
秩父付加コンプレックス
主に中央構造線より南側に分布するジュラ紀(約2億年〜1億4千5百万年前)の付加コンプレックスです。[参照元へ戻る]
中央構造線
関東から四国、九州東部まで総延長約1000 kmの断層のことで、主に断層の北側は領家変成コンプレックスや領家深成岩類、南側は三波川変成コンプレックスが分布します。白亜紀(約1億年前)から活動が始まり、一部は活断層として活動している部分があります。中央構造線は複雑な断層運動の歴史を有しており、日本列島の成り立ちと基盤地質の構造発達史を議論する上で最も重要な断層の一つとして広く認識されています。[参照元へ戻る]
活断層
「断層」のうち、特に数十万年前(約260万年前とする考えもあります)以降から現在まで繰り返し活動し、将来も活動すると考えられる断層のことを「活断層」と呼んでいます。活断層の活動は、建物の倒壊、道路の寸断、斜面の崩壊など社会に大きな災害をもたらすため、減災の観点からも断層の位置や活動間隔などを明らかにする必要があります。[参照元へ戻る]


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