国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ゼロエミッション国際共同研究センター 有機系太陽電池研究チーム 山本晃平 主任研究員、江口直人 産総研特別研究員、村上拓郎 研究チーム長は、世界初となるペロブスカイト太陽電池自動セル作製システム(以下、本システム)を開発しました。本システムは太陽電池の基板電極の洗浄から電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の各種材料の積層、裏面電極の蒸着、セルの分離まですべて自動で行い、さまざまなセル作製条件での自動試作が可能となります。
本システムにより、ペロブスカイト太陽電池の実用化に必要な材料開発における評価や作製条件の検討を行う際に太陽電池性能を少ないばらつきで評価することが容易になります。セル作製条件の最適化を効率よく行うことで、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化と高性能化に貢献します。
カーボンニュートラルの達成に向けた社会的要請の高まりを受けて、国内の太陽光発電設備は、設置しやすい平地において既に導入が進んでいます。他方、太陽光発電は材料を輸入に頼るなどの問題があり、さらなる導入拡大には、今後は都市部などにおいてこれまで設置が難しかった工場・倉庫などの耐荷重の低い屋根および建物の壁や窓などにも設置が可能な新しい超軽量太陽電池が求められています。
従来型の結晶シリコン太陽電池パネルは発電部位のシリコンウエハーが割れやすく、ガラスで保護する必要があり、その結果10 kg/m2以上の重さになるため、太陽電池パネルの設置が難しい建物が多く残されていました。ペロブスカイト太陽電池は、従来型の結晶シリコン太陽電池と異なり、曲げなどのひずみに強いという特性を生かし、基材のフィルム化で1 kg/m2程度の軽量化も期待されています。また曲面への設置も容易であり、これまで設置が困難だった場所へも導入できるなど、発電の場所を大幅に拡大できる新しい太陽電池として期待されています。さらに、ペロブスカイト太陽電池は原料や製造方法がこれまでの太陽電池と異なるため、新しいサプライチェーンや産業が構築される点も期待されています。
ペロブスカイト太陽電池は実用化が期待されていますが、不十分な耐久性などの課題が残されています。産総研では、ペロブスカイト太陽電池の実用化を目指し、高効率化・高耐久化に向けてペロブスカイト組成の改良、新規材料開発、大面積への材料成膜技術、電力を効率よく取り出す技術などの研究を進めてきました。開発した新材料や新プロセスの効果を初期評価するには一般的には面積1 cm2程度の小さな太陽電池セルを作製し、性能を評価します。しかし、一般にペロブスカイト太陽電池の性能のばらつきは大きく、材料やプロセスを評価するためには、多くのセルを作製し検討する必要がありました。太陽電池を構成する材料を一つ変えると、高い太陽電池性能が得られる作製条件も変わるため、材料に合わせた作製条件の最適化を行う必要があります。そこで、産総研ではペロブスカイト太陽電池のセル作製を自動化させ人為的な要因を排除することで、太陽電池性能のばらつきを抑制し、セル作製条件を変えて最適な太陽電池性能が得られる条件を探索することが可能となる本システムの開発に取り組みました。この基板電極の洗浄から電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の各種材料の積層、裏面電極の蒸着、セルの分離まですべて自動で行う本システムは、世界初の装置となります。この装置を活用することで、1日当たり、これまでの10倍以上の数のセルをさまざまな条件で作製することが可能となり、開発における時間の短縮と研究開発の効率を向上させることが期待されます。
なお、本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発/次世代型太陽電池基盤技術開発事業/次世代型ペロブスカイト太陽電池の実用化に資する共通基盤技術開発(2021~2025年度)」による支援を受けています。
今後はグリーンイノベーション基金に参画する企業を中心に、本システムを活用し、材料選定、プロセス検討、条件最適化の時間短縮により、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化と性能向上に取り組みます。
また、将来的にはAIと連携させ、より効率的な条件最適化を目指します。