この度、国立大学法人長崎大学(長崎県長崎市文教町1-14、学長 河野 茂:以下長崎大学)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(東京都千代田区霞が関1-3-1、理事長 石村 和彦:以下産総研)は、医師が持つ専門知識と人工知能の特徴抽出技術を組み合わせることで診断根拠を説明可能とする高精度な病理診断の人工知能モデルを開発することに成功しました。
この研究結果は、2022年2月3日(日本時間)にNature学術誌グループである「Modern Pathology」に掲載が決まりました。
URL https://www.nature.com/modpathol/
人工知能による診断は種々の分野で応用されていますが、病理診断を始めとした医療分野への応用には、その診断の性能のみならず、診断に繋がる判断根拠の提示も重要です。現在、画像認識においては、人工知能技術の中でも認識精度の高い深層畳み込みニューラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Network; DCNN)というアルゴリズムが一般的に利用されています。DCNNは、高い予測性能が得られる一方、なぜその答えに辿り着いたのかという過程を理解しづらいことから、「ブラックボックス」と表現されることの多い技術です。そこで説明可能な人工知能モデルに関する研究開発が世界各国で進められていますが、一般的に説明性と認識精度を両立させることは非常に難しく、これを医療分野へ応用すると、多くの場合は診断精度の低下につながります。
今回、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(研究プロジェクト代表:福岡順也)と産総研人工知能研究センター(研究プロジェクト代表:坂無英徳)の研究チームは、人工知能による効率的な特徴抽出技術とエキスパート(高い専門性を有する医師など)の知識を融合させることで、通常型間質性肺炎の診断における判断根拠の透明性を保持したまま高い診断精度を保持する人工知能モデルを作成するための新手法を開発しました。従来のDCNNにおける特徴抽出方法(着眼点の選び方)の学習は教師データ(画像と正解の組)に基づいて実施されていましたが、本手法では、獲得された特徴抽出方法を医師が経験や専門知識に基づき、診断に影響を与えない着眼点を除いたり、見た目では異なっていても同じ現象を表す特徴量を統合したりすることにより、人工知能の判断に医学的な知見が反映されます。人工知能の判断と医学的知識の関連が明確になることで医師は人工知能の判断が適切であったかどうかを確認することができます。同チームは、人と人工知能の特徴を混ぜる特性から、本手法をMIXTURE(huMan In-the-loop eXplainable artificial intelligence Using REcurrent training)と命名し、病理診断へと応用しました。この結果、診断が難しく、死亡率も高い通常型間質性肺炎(※1)に関し、高精度に病理診断を下す人工知能モデルを開発しました。人工知能技術の精度指標の一つであるAUROC (Area Under the Receiver Operating Characteristic curve)(※2)において、同じ説明可能な人工知能モデルで医師の知識を取り入れない場合に比べMIXTUREの性能が0.27ポイント(約42%)向上することが確認されました。
なお、このプロジェクトは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」の一環として実施されています。
タイトル
MIXTURE of human expertise and deep learning — Developing an explainable model for predicting pathological diagnosis and survival in patients with interstitial lung disease