日本金属株式会社(本社:東京都港区、取締役社長:下川康志、証券コード:5491)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(本部:東京都千代田区、理事長:石村和彦)、不二ライトメタル株式会社(本社:熊本県玉名郡長洲町、取締役社長:古澤清一)との共同研究により、この度、優れた室温成形性と強度、高い熱伝導率を有する「ZA系新マグネシウム合金圧延材」を新開発したことをお知らせします。
これまで、マグネシウム合金圧延材の室温成形性はアルミ合金と比較して低く、プレス成形に際しては、加工する圧延材と金型を200~300℃に加熱する必要がありました。開発した「ZA系新マグネシウム合金圧延材」は、Mg-Zn系合金に特定元素を微量に添加して結晶の配向を制御するとともに、実用的な強度を付与した合金です。ZA系新合金圧延材は、従来の一般的なマグネシウム合金と比較して全く異なる結晶配向を示すため、アルミ合金並みの室温張出し成形性を発揮します。また、ZA系新合金圧延材は、アルミダイカスト材を超える熱伝導率を示します。そのため、大量の熱を発生する次世代高速通信(5G)機器やこれらの搭載が進むモバイルIT機器、さらには、電動化や自動運転化によって搭載量の増加が見込まれる、熱対策が必要な車載電子機器への使用に好適な材料として大きな期待が寄せられています。
カーボンニュートラルが叫ばれる昨今、輸送機器などの軽量化の要求が高まりをみせる中、最軽量金属材料のマグネシウム合金は、高強度・高剛性およびリサイクル性の高い材料として注目を浴びています。
日本金属(株)製造の既存のマグネシウム合金圧延材は、業界最高レベルの強度と高い温間成形性1)を有し、0.1 mm以下の箔材の量産も可能で、モバイル機器筐体や音響機器向けに数多く採用されてきました。
しかしながら、マグネシウム合金圧延材には、
という弱点が指摘されており、これらはマグネシウム合金圧延材に固有な結晶組織の配向(並び方)と、合金添加元素の種類と量に起因するものです。
マグネシウムの結晶構造は稠密六方晶といわれ、六角柱のような構造を有しています。
一般的なマグネシウム合金圧延材は図1のように、六角柱状の結晶が圧延板表面に対して垂直に立ったような配向となっています。これが原因で室温での成形性が悪くなり、温間での成形が必要となります。結晶の配向方向を傾けることにより室温成形性が高まることが知られています。
図1 一般的なマグネシウム合金圧延材の結晶組織の配向
そこで、これらの弱点を解消するために、産業技術総合研究所、不二ライトメタル(株)と、マグネシウム合金圧延材の成形性の低下をもたらす結晶配向を抑制し、マグネシウム合金板材の室温成形性を高める共同研究開発を行いました。そこでは、日本金属(株)が圧延技術の開発(合金設計含む)を、産業技術総合研究所が合金設計開発(試験片レベル)を、不二ライトメタル(株)が鋳造・押出し技術の開発(合金設計含む)を担当しました。
その結果、Mg-Zn系合金に特定元素(カルシウムなど)を微量に添加して結晶の配向を制御し、さらに実用的な強度と耐食性の付与を目的とした合金成分のチューニングを施し、新たに室温成形性に優れた「ZA系新マグネシウム合金圧延材(Z:亜鉛、A:アルミ)」の開発に至りました。
図2は、ZA系新合金圧延材の結晶組織の配向3)を示します。新合金圧延材の結晶は、一般的なマグネシウム合金圧延材と大きく異なり、ちょうど六角柱の鉛筆の束を板幅(TD)方向に35°傾けたような配向を示すことがわかりました。
図2 ZA系新合金圧延材の(0001)正極点図(左図)及び逆極点マッピング(右図)
ZA系新合金圧延材の室温成形性について、室温エリクセン試験4)により検証しました(図3)。従来の自動車外板パネルに用いられているアルミ合金と同等の優れたエリクセン値(8.6 mm)を示すことが明らかとなりました。また、圧延条件を最適化し微細な結晶(図2)を得ることによって、表1に示す輸送機器外板にも使用可能な実用的な強度が得られました。
ここで、ZA系新合金圧延材の実用的なプレス成形性を確認するために、既存のプレス金型を利用した室温深絞り成形を行いました。金型温度は室温(非加熱)で、一般的なクランクプレス機(サーボ機構の使用無し)で成形しました。絞り深さに限界はあったものの、図4に示すような角形状の異なる実部品に近い形状を室温プレスにて成形できることを確認しました。
図3 ZA系新合金圧延材の室温エリクセン試験結果
表1 ZA系新合金圧延材の室温引張試験結果
表2 ZA系新合金圧延材の熱伝導率測定結果
図4 室温プレスによる深絞り成形試作結果
小角形状(上部左図)、二段角形状(上部右図)
さらに、このZA系新合金圧延材は高い熱伝導特性を示すことも確認されました。表2に示すように、開発合金圧延材はAZ91D5)マグネシウムダイカスト材の約3倍、ADC126)アルミダイカスト材の約1.5倍優れた熱伝導率131 W/m・Kを示しました。
一般的なマグネシウム合金はアルミ合金よりも熱伝導率が低いため、大量の熱を発生する次世代高速通信(5G)機器やこれらの搭載が進むモバイルIT機器、電動化や自動運転化によって搭載量の増加が見込まれる、熱対策が必要な車載電子機器への適用に制限がありました。ZA系新合金圧延材は、これまで両立が困難であった軽量性と高熱伝導率を兼ね備えた材料であり、今後カーボンニュートラルを達成するために必要不可欠な材料になると期待されます。
加えて、ZA系新合金圧延材はAZ31B7)マグネシウム合金よりも優れた制振性を示すことも確認されました。汎用マグネシウム合金圧延材のAZ31B箔材は、アルミやチタンより優れた制振性を持ち、Hi-Fiオーディオスピーカーやイヤホン、ヘッドホンに数多く採用されています。今回新開発した合金は、このAZ31B箔材を凌ぐ制振性が高い材料としてもその適用の拡大が期待できます。
また、日本金属(株)は2019年度より、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業8)において、新構造材料技術研究組合(ISMA)の組合員として参画しています。その中で、このZA系新合金圧延材の特性をさらに改善する取り組みを⾏っており、開発目標の軽量⾃動⾞フードの試作、評価に生かしています。進捗につきましては、別報にて報告させていただく予定です。
ZA系新合金圧延材は量産サイズのコイルで試作を完了しており、現在は量産体制の確立を目指した活動を行っています。今後は軽量化と熱対策が必須となる輸送機器(電動車、自動運転車、空飛ぶ車など)やモバイルIT機器への使用に好適な材料として、その可能性に大きな期待が寄せられています。
◆国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究部門、グループ
マルチマテリアル研究部門 【研究部門長 藤代 芳伸】 軽量金属設計グループ:黄新胜主任研究員、中津川勲主任研究員、千野靖正研究グループ長
◆関連特許
PCT/JP2020/014582 (WO2020/203908) 「強度-延性バランスと常温加工性に優れたマグネシウム合金板」 (2020/3/30国際出願)