国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」)は、日本地球掘削科学コンソーシアム(注1)と共同で実施する「地球深部探査船「ちきゅう」(注2)を用いた表層科学掘削プログラム」(注3)の一環として、南海トラフ東端部の遠州灘において、2020年1月5日から1月8日まで、長期の地震発生履歴を解明するための掘削航海を実施しました(図1)。JAMSTEC、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人東京大学大気海洋研究所/大学院新領域創成科学研究科は、掘削試料の船上解析を進め、その概要を明らかにしましたので、速報でお知らせします。
南海トラフの巨大地震発生領域の東端部を構成する遠州灘では、他の南海トラフ海域とは異なる間隔で歴史地震が起きていたことが知られています。南海トラフでは大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込み続けており、その境界が高速でずれ動くときに地震が発生すると考えられていますが、遠州灘ではこの2枚のプレートの間に地形的な高まりが沈み込んでいるために地震の発生が抑制され、他の海域よりも地震の発生間隔が長くなっている可能性があります。その証拠は海底堆積物記録として残っているはずですが、これまでは、それを検証する十分長い試料の採取が実現していませんでした。
このたび遠州灘で、もっとも精度の高い地層記録が保存されていると期待される海底の凹地において、「ちきゅう」による連続コアリングを実施し、タービダイト(注4)という地震によってできた地層の採取に成功しました。
「ちきゅう」の掘削により厚さ80 m以上の連続した地層を回収しました。そのうち上部のおよそ40 mの地層におよそ200枚のタービダイト層が周期的に挟在していました(図2)。既存研究の堆積速度に基づくと40 mの地層の形成には4−5万年かかり、ここに約200枚のタービダイトが挟在するので、平均的なタービダイトの堆積間隔は200年程度です。地震性と考えられるタービダイトが、4−5万年の堆積期間分、連続的に採取されたのは初めてです。また、陸上の津波堆積物では数万年前になると海面の高さが変動する影響で記録が残りにくいため、長期の記録は非常に貴重です。この連続記録は「ちきゅう」の水圧式ピストンコアリングシステム(注5)により未撹乱で地層を採取できたことによります。
今後、採取した地層の詳細な年代を測定し、タービダイトの堆積間隔を詳細に検討していく予定です。4−5万年間の十分長い時間の連続的なデータに基づいた解析により、今後、遠州灘の地震発生間隔について新たな知見が得られることが期待できます。
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図2. 採取された地層の写真。黒色はタービダイトの砂の部分、タービダイトが繰り返していることが分かる。横の数字は海底面からの深さ(単位m)を示す。 |