国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】 地球変動史研究グループ 小田 啓邦 上級主任研究員とロチェスター大学、リバプール大学、カナダ地質調査所、マニトバ大学、米国海軍研究所、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、カーティン大学、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校、ミシガン工科大学は、約42億年前に地球磁場が存在した可能性を示した。
今回、SQUID磁気顕微鏡など各種先端的分析技術によって、西オーストラリアのジャックヒルズで発見された地球創世直後のジルコン結晶が当時の地球磁場を記録していることを高い信頼性をもって示した。地球創世直後に十分な強さの地球磁場が存在したことは、当時の地球の内部構造と地磁気ダイナモに制約条件を与えると共に、地球磁場が太陽風による大気散逸を防ぐことから地球大気と生命の進化に重要な意味を持つ。地質試料に記録された地球磁場のSQUID磁気顕微鏡を用いた高感度分析を進めることにより、地球環境のさらなる復元が期待される。なお、この成果の詳細は、近日中に米国科学アカデミー紀要(PNAS誌)で公開される。
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太陽風による大気散逸の様子
左は地球磁場発生前で、太陽風による大気散逸が激しい。右は地球磁場発生後で、
地球磁場が防御壁となって太陽風の荷電粒子による大気散逸が抑制される。 |
地球創世直後からの地球磁場強度は、当時の地球の内部構造と地磁気ダイナモに制約条件を与える。また、地球磁場が太陽風による大気散逸を防ぐことから地球大気と生命の進化について、地球磁場強度の変化は重要な意味を持つ。
地球ができたのは約46億年前であるが、地球最古の岩石が見つかっているのはオーストラリアのジャックヒルズである。そこで発見された40億年よりも古いジルコン結晶を用いた地球磁場強度の推定は過去にも行われたが、ジルコン結晶形成後の加熱や変質の影響が疑われ、その信頼性については疑問が残されていた。
産総研は、地球環境を復元するため、微弱な磁化を示す地質試料などの磁気を検出できる高感度・高分解能磁気イメージング技術の発展を目指しており、低温超伝導による超伝導量子干渉素子(SQUID)を用いたSQUID磁気顕微鏡の開発と応用に取り組んできた。今回、SQUID磁気顕微鏡で地球最古の岩石が見つかっているジャックヒルズ(図1)のジルコン結晶の高感度・高分解能の磁気イメージングを行うと共に、他の先端的分析技術と組み合わせて、地球創世直後の地球磁場強度の推定とその信頼性の検証に取り組んだ。
なお、本研究は、日本学術振興会の外国人招聘研究者(短期)(2017年度)「SQUID顕微鏡を用いたジルコン単結晶による地球磁場強度の高信頼度推定」(ロチェスター大学 John Tarduno教授)による支援を受けた。また、分析に用いたSQUID磁気顕微鏡は日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(A)(2013〜2016年度)「SQUID顕微鏡による惑星古磁場の先端的研究の開拓」による支援を受けて開発した。
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図1 分析試料の採取された西オーストラリアジャックヒルズの位置を示す地図(上)と露頭写真(下)
(ロチェスター大学John Tarduno教授提供) |
今回、試料には地球最古の岩石が見つかっているジャックヒルズのジルコン結晶(図2 左)を用いた。地球磁場強度推定の信頼性を確保するため、産総研のCO2レーザー加熱装置を用いて微弱な磁化を持つジルコン結晶とそれを取り囲んでいる石英を61 マイクロテスラの磁場中で575 ℃まで加熱した。この試料を産総研のSQUID磁気顕微鏡(図2 右)で分析したところ、ジルコンが磁化され、石英は磁化されなかった。これにより、ジルコン結晶を取り囲んでいる石英には検出可能な量の磁性鉱物が含まれないことと、ジルコン結晶が十分な量の磁性鉱物(磁鉄鉱)を含むことが確認できた。また、ロチェスター大学の小口径型超伝導岩石磁力計とCO2レーザー加熱装置を用いて、一つの石英に含まれる複数のジルコン結晶について565-580 ℃で分離できる自然残留磁化の方位を求めたところ、バラバラな方向を示した。このことは、この温度で記録されたジルコン結晶中に残る地球磁場は、ジャックヒルズの岩石が26.5億年前に経験したとされる変成作用による熱の影響を受けていないことを示唆する。
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図2 ジルコン結晶(左)(ロチェスター大学John Tarduno教授提供)、SQUID磁気顕微鏡(右)の写真 |
ジルコン結晶を用いた地球磁場強度推定のメリットは、粒子ごとに地球磁場強度と年代を推定できることである。ロチェスター大学の小口径型超伝導岩石磁力計とCO2レーザー加熱装置を用いてジルコン結晶の絶対古地磁気強度を推定した。さらに、これにより信頼できる磁場強度を推定できたジルコン結晶について、ウラン・鉛年代推定法による年代推定を行った。今回推定した地球磁場強度のうち、特に約41億年前のジルコン結晶のデータが、現在の地球磁場に近い磁場強度を持つことが高い信頼性をもって示された。また、先行研究による約42億年前の試料のデータも現在の地球磁場の半分以上の強度を示す。これらは、約42億年前に地球磁場が存在した可能性を示唆する。これは、当時の地球の内部構造と地磁気ダイナモに制約条件を与え、地球磁場が太陽風による大気散逸を防ぐことから、地球大気と生命の進化に重要な意味を持つ。
今後はSQUID磁気顕微鏡の感度と分解能を向上するとともに、ジルコン結晶や、それ以外の地質試料を用いた分析を行い、地球環境の復元にさらに役立てる予定である。