千葉工業大学次世代海洋資源研究センターでは、海底の広い範囲に分布する海底鉱物資源について音波を用いて効率的に探査する手法の研究開発を、国立研究開発法人 産業技術総合研究所、国立大学法人 東京大学、国立研究開発法人 海洋研究開発機構、および国立大学法人 神戸大学との共同研究として進めています。その中で、南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ: Exclusive Economic Zone)に分布するマンガンノジュール(※1)を対象とした研究成果として、広範囲を網羅的に調査した中からマンガンノジュールが密に分布する領域(マンガンノジュール密集域)を地図上に示し、その面積を正確に算出する方法を世界で初めて確立しました。
具体的には、計5回の研究航海で調査した南鳥島EEZ内約155,500km2の範囲の中の40%、約61,200km2にも及ぶ広大な海底がマンガンノジュール密集域であることを突き止めました(図1)。密集域は特定の反射強度(今回の観測データの基準では5.72dB)以上の場所(図1および図2)に対応しており、その面積は四国と九州を足し合わせた面積に匹敵し、南鳥島EEZ全体(約430,000km2)の14%に相当します。
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図1.音響調査で得られた南鳥島周辺の海底地形(左)と海底の反射強度分布(中央)
音波が映し出すマンガンノジュール密集域の面積は、右図に示した四国と九州を足し合わせた面積に匹敵する |
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図2.反射強度と海底地質の対応
黒い球状のものがマンガンノジュールである |
本研究グループは2016年に、船から発した音波が海底で反射する強度(海底の音響特性)と有人潜水調査船「しんかい6500」(海洋研究開発機構所有)を用いて肉眼で観測した海底の地質の特徴(特にマンガンノジュール密集度)の変化が良く対応することを見出し、音波の反射強度が資源探査に有効であることを発表しました(2016年8月26日既報)。同時に、高い反射強度の領域が南鳥島EEZ南東部に広く分布し、いずれもマンガンノジュール密集域であることを示しました。この発表時に解析した音響データは、2016年までに本研究グループが取得したものの一部でしたが、今回は精度の良い音響データが取得された計5航海のデータを全て結合し、さらに2017年に行った「しんかい6500」を用いた新たな海底観察の結果(図2)も加えて、全ての情報を統括しました。今回の成果のポイントは、密集域とそれ以外の場所とを分ける反射強度の閾値(しきいち)(今回の場合は上記の5.72dBという値)をdB値の頻度分布図(ヒストグラム)の解析により客観的に見出せるようになったことであり、それが今まで困難だった複数の反射強度データの結合、密集域の広域的な可視化、および正確な面積算出につながりました。分布図が示す密集域は南鳥島EEZ内のさまざまな海域に及んでいますので、南鳥島EEZの残る3分の2の未調査海域を考慮すれば、さらに面積は広がると予想できます。
日本はかつて国内の鉱山から鉱石を採掘し、自給自足しながら輸出まで行うことで、世界の産業発展に貢献してきました。しかし、今では国内で消費する鉱物資源のほぼ全てを海外からの輸入に頼る、いわゆる“資源問題”を抱えています。世界第6位の面積を誇る日本のEEZ、中でも南鳥島EEZには、マンガンノジュールの他にレアアース泥(でい)(※2)やマンガンクラスト(※3)といった海底資源が豊富に存在することが近年明らかにされ、かつて『黄金の国ジパング』として世界の憧れを集めた日本を再び資源大国『レアメタルの国ジパング』として復活させる鍵として期待されています。その中で南鳥島EEZに分布するマンガンノジュールは、コバルトを多く含むという特徴があります(2016年8月26日既報)。コバルトはエコカーやスマートフォンのリチウムイオン電池に必須であり、集積回路の多層配線技術の銅やタングステンに代わる金属となりうる重要なレアメタルですが、価格変動が激しく供給リスクがあります。広大な深海底を潜水調査船のみで調査して、マンガンノジュールの分布や資源量を調べることは大変コストがかかります。南鳥島EEZが国産コバルト資源の新たな開発対象となるために、本研究グループが最終的に目指すのは、レアメタルを豊富に含む資源開発に適した有望海域を船上からの観測のみで絞り込むことを可能にする、画期的な音響探査手法を確立することです。今回の手法では、マンガンノジュール密集域に実際にどの程度の量のレアメタル(特にコバルト)が含まれているかを直接知る事はできません。しかし、今後マンガンノジュールの化学分析を精密に行ってレアメタル含有量を明らかにし、今回開発した面積算出法と組み合わせることで、南鳥島EEZ内に存在するレアメタルの総量を精度良く算出することができるようになり、有望海域の効率的な絞り込みに繋がると期待されます。
本探査手法が適用できるのは現時点でマンガンノジュールのみですが、周辺に分布するコバルトに富むマンガンクラストも同様に高い反射強度を示しており、同じ(または類似した)音波探査手法が使える可能性があります。また、今回開発した複数の音響データを結合する方法は、ヒストグラム解析という一般的に用いられる解析手法に基づくものです。つまり原理的には、現存する、又は今後取得するさまざまな海域の反射強度データを同一基準で結合し、全海洋に及ぶ “超” 広域資源探査をも可能にします。さらに、データ結合の概念は、熱水性硫化物鉱床などの調査に用いられる他のさまざまな音響観測機器のデータにも適用可能であると考えられます。今回の成果は、深海底に眠る次世代海洋資源の探査・開発の歴史における重要なマイルストーンといえます。
本研究は、「戦略的イノベーション創造プログラム 次世代海洋資源調査技術」の一環として調査航海が行われ、日本学術振興会(JSPS)科学技術研究費補助金15H05771、17H01361の助成を受けて実施されました。
雑誌名:Marine Georesources & Geotechnology
タイトル:Visualisation method for the broad distribution of seafloor ferromanganese deposits
著者:Shiki Machida*, Taichi Sato, Kazutaka Yasukawa, Kentaro Nakamura, Koichi Iijima, Tatsuo Nozaki and Yasuhiro Kato
DOI番号:10.1080/1064119X.2019.1696432
URL:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1064119X.2019.1696432(オープンアクセス)