国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)人工知能研究センター【センター長 辻井 潤一】は、国立大学法人 大阪大学【総長 西尾 章治郎】(以下「阪大」という)、学校法人中部大学【理事長・総長 飯吉 厚夫】(以下「中部大」という)と共同で、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 石塚 博昭】(以下「NEDO」という)「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」プロジェクトにおいて、自動化が困難な製造現場での作業である部品供給と組み立て作業へのロボット導入を容易にするAI技術を開発した。この技術には①絡み合う部品の供給技術、②道具を使う組み立て作業の計画技術、③視覚に基づく作業の高速化技術を含む。2019年8月29日より順次、本開発成果のソフトウエアを公開する。これらの技術を基に、複雑な作業工程による生産ラインの設計の効率化と作業時間の短縮を図る。
なお、9月3日から早稲田大学(東京都新宿区)にて開催される第37回日本ロボット学会学術講演会において、関連ロボットのデモを実施する。
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今回開発したAI技術の全体像 |
近年の消費者ニーズの多様化に伴う生産工程の複雑化(多品種少量生産、特注品生産など)により、ロボットも複雑な作業に対応することが求められている。従来のロボットは、溶接、搬送など、単一の工程を担うことが主流だった。しかし現在では、ロボットが部品供給から製品組み立て作業までの全工程を一手に担う場合も多い。一方で、部品供給や製品組み立て作業のロボット化では、ロボット動作の事前設計に膨大な時間や手間を要するため、その効率化が求められていた。また、ロボット導入後も、ロボットの視覚情報に基づく作業計画の策定に要する時間の短縮も課題であった。
産総研は、産業用ロボット向けの実用的なAI技術や統合技術の開発に強みを持つ。阪大は、ロボット作業計画技術に強みを持ち、これまでも産総研と共同で、部品の持ち替え作業計画などの研究に取り組んできた。また中部大はロボットビジョン研究に強みを持っており、ロボットが高度な作業を実現するための画像処理手法を多数開発してきた。今回、産総研、阪大、中部大がお互いの強みを持ち寄り、NEDO「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」プロジェクトの一環として、ロボットへの教示から運用までの課題を解決するための技術開発に取り組んだ。
今回開発した具体的な技術などは以下の4つです。
① 絡み合う部品の供給技術: 実機を使わずにシミュレーションだけで困難な作業を学習
ロボットがトライ・アンド・エラーを繰り返すことで、難しい作業を学習することは、ロボットにとって有効な作業計画方法である。しかしロボット実機による大量の作業実行が必要なので、生産現場での実用には困難があった。今回、作業の難しさに応じて、人が事前に注目した情報を、人が設計した手順に従って理解・認識する従来型の特徴量に基づいた手法と、シミュレーションによる深層学習の手法を使い分けて、実機を使わない物体操作の学習を実現した。これにより、シミュレーター上でバラ積み状態の物体が絡むか、絡まないかを再現し、シミュレーター上で学習させて、絡む可能性のある部品を避けてロボットが部品を取り出すことが実現した。取り出しの成功率は、従来の実機による学習事例と同等の90 %程度であった。人がロボットから目を離さずに1〜2日かけて学習させる困難な教示作業を、1部品につき5時間程度のシミュレーションを動作させるだけ(その間人手は不要)で学習させることができ、部品供給のための事前行動計画の作業時間や人の手間を削減できる。
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シミュレーションによる難物体のピッキング方法の学習 |
② 道具を使う組み立て作業の計画技術: 見まねによる即時教示・道具操作
ロボットに複雑な組み立て作業を教えるには、プログラムの専門家が、膨大な労力と時間をかける必要があった。今回、人がカメラの前で組み立て作業を実演し、ロボットがその場ですぐに見まね(模倣)する手法を開発した。従来教示のために必要であったロボットに対する高い専門知識を必要としないため、組み立て作業をおこなう製造現場の作業者が、普段の手作業を実演するだけで、ロボットが自律的にその作業を模倣する。具体的には、従来は、人が1-2日かけて教示していたドライバーを使ったネジ締め作業など、道具を使った細かな組み立て作業を、数分の実演をすれば、ロボットが学習し、すぐにその場でロボットが作業を実行できる。組み立て作業の事前行動計画に要する作業時間やプログラム作業を削減できる。
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人による手作業をロボットが即座に見まね |
③ 視覚に基づく作業の高速化技術: 物体操作のための視覚情報を効率的に圧縮・復元
ロボットが物体をつかむ際には、ロボットの視覚機能で得た画像から物体をつかむ位置を計算する必要がある。この計算時間は、作業中の待ち時間に直結するため、速度をいかに速められるかが重要である。今回、視覚機能を持つロボットハンドからの画像データの行列分解に基づく効率的な圧縮・復元処理を開発し、把持位置検出のための計算時間を削減した。市販の一般的な把持位置検出処理に適用すると、同手法に要する計算時間を最大1/3 まで短縮できた。これにより、ロボット作業の高速化が期待できる。
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実際の作業運用中の作業計画の高速化により作業効率を向上 |
④ 開発成果の一般公開
産業用ロボットの導入を容易にするためのソフトウエア・データベースを、特設したウェブサイト(https://nedo-robot-ai.jimdofree.com)にて8月29日より一般公開する。本発表に関係する公開成果である、①部品供給のため部品バラ積みシミュレーター、②物体とロボットのモデルから組み立て作業を自動で計画するソフトウエア、③視覚情報から高速に物体の把持位置を検出するソフトウエアを含む。一般公開を通じて企業や他の研究機関に広く知ってもらうことで、組み立て現場での試用や、研究開発用途への応用が期待される。
①部品供給の事前動作計画技術については、2019年11月4日~8日に、中国マカオで開催される国際学会、IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS) にて発表予定である。
今後は、各機関において今回開発した技術の性能向上や連動性を高めるための研究開発を継続する。また、実用化に向けた企業との共同研究も推進していく。さらに、従来型のロボット自動化だけでなく、人・機械協調型生産に対しても、各技術やシステムの実証を進めていく。