大阪大学大学院歯学研究科の岩山智明助教、村上伸也教授らの研究グループは、産業技術総合研究所(産総研)バイオメディカル研究部門の岡田知子総括研究主幹、小椋俊彦上級主任研究員、及びライオン株式会社との共同研究により、生きたままの骨芽細胞が基質小胞を細胞内で形成・分泌する過程を、新しい顕微鏡技術を用いてナノレベルの解像度で観察し、細胞内で形成された基質小胞が、細胞内の不要物を分解するリソソームを使って運搬され、細胞外に分泌されることを世界で初めて明らかにしました。
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図1: 使用した2つの顕微鏡技術と基質小胞の可視化
(T. Iwayama, T. Okada et al, Science Advances, 2019を一部改変し転載) |
1967年に初めて電子顕微鏡による基質小胞の観察が報告されて以降、その形成・分泌過程については解明が進んでいませんでした。電子顕微鏡では細胞を生きたままの状態で観察することができず、試料作製時にノイズを生じてしまうため、基質小胞の正確な観察が困難でした。そこで今回岩山助教・村上教授らの研究グループは、これらの問題を克服し、培養細胞を生きたまま高解像度で観察するため、産総研の小椋上級主任研究員が開発した独自の走査電子誘電率顕微鏡(SE-ADM)と、超解像蛍光顕微鏡を併用した結果、培養細胞が基質小胞を形成・分泌する過程を生細胞のままで可視化することに成功し、基質小胞による骨形成の初期過程を解明しました。
これにより、骨粗鬆症や歯周病といった硬組織疾患の病態解明や治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、7月4日(木)午前4時(日本時間)に公開されます。
骨組織が形成される初期過程においては、骨芽細胞から30-300nmの基質小胞が細胞外へと分泌されることが必須であると考えられており、その仕組みの解明が求められてきました。しかしながら、nmオーダー(10億分の1メートル)の微小物質を観察できる電子顕微鏡では試料を化学固定した上で真空中に置くため生細胞を直接観察することが不可能であり、生細胞を直接観察できる光学顕微鏡では微小物質の観察が困難である、という技術的なジレンマが存在しており、詳細な解析は進展しておらず、骨組織形成の初期過程に関する記載は、専門教科書においても古くからの仮説のレベルに留まっていました。
村上教授らの研究グループでは、このジレンマを突破し、基質小胞の形成・分泌過程を明らかにするために、生きたままの細胞中の微小物質を直接観察できる走査電子誘電率顕微鏡(SE-ADM)および超解像蛍光顕微鏡を用いました。その結果、生細胞中の基質小胞の可視化を実現し、さらに、基質小胞が細胞内に蓄積していき、リソソームによって運搬され、細胞外に分泌されていることが明らかとなりました。
本研究成果により、骨や歯といった硬組織形成の基本的なメカニズムに関する理解が深まり、骨粗鬆症や歯周病等の硬組織疾患の病態解明や治療法の開発につながることが期待されます。さらに、今回観察に用いたSE-ADMは培養細胞のみならず、様々な微小物質を溶液中で直接観察することが可能であり、今後も様々な分野での応用が期待されます。
本研究成果は、2019年7月4日(木)午前4時(日本時間)に米国科学誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されます。
タイトル:“Osteoblastic lysosome plays a central role in mineralization”
著者名:Tomoaki Iwayama, Tomoko Okada, Tsugumi Ueda, Kiwako Tomita, Shuji Matsumoto, Masahide Takedachi, Satoshi Wakisaka, Takeshi Noda, Taku Ogura, Tomomichi Okano, Peter Fratzl, Toshihiko Ogura, Shinya Murakami