国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)物理計測標準研究部門【研究部門長 藤間 一郎】電磁気計測研究グループ 坂巻 亮 研究員、堀部 雅弘 研究グループ長とセンシングシステム研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】スマートインタフェース研究チーム 吉田 学 研究チーム長は、新たに超高精度の回路計測技術を開発した。この技術により、印刷技術で作製した高周波伝送線路(コプレーナ導波路)の伝送特性を測定し、今後の社会実装が期待される未開拓周波数領域である300 GHz帯の超高周波領域でも低損失であることを実証した。
今回開発した計測技術では、高周波プローブが接触する電極の位置決めを目視やカメラで行わず、実際のプローブで測定されるSパラメーターの解析に基づいた高精度プロービング技術による正確な位置決めを採用している。そのため、測定される反射係数値のばらつき(標準偏差)が従来に比べて300 GHzで1/3程度の優れた測定再現性を実現できた。これにより、印刷技術で作製したコプレーナ導波路の特性を300 GHz以上の超高周波数領域で高精度に測定できるようになり、従来の成膜技術で作製されたコプレーナ導波路に比べ、60 %以上の性能向上を実証できた。
この技術の詳細は、電子情報通信学会和文論文誌(論文誌C)にて2019年5月17日に発表した。
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コプレーナ導波路の構造の模式図(左)と測定風景の顕微鏡写真(中央)と
測定のばらつき(標準偏差、黒破線:従来計測技術、赤線:開発した技術)(右) |
電波の中でも高い周波数であるミリ波、特に100 GHzを超える周波数帯では、大容量のデータを高速に伝送できるため、2019年のサービス開始に向けた第5世代(5G)携帯無線通信の技術開発が進められ、さらに高周波の未利用周波数領域を利用した第6世代(6G)携帯無線通信が検討されている。近年では、量産可能なシリコン半導体製造技術によるミリ波帯デバイスの性能が向上し、ミリ波帯の電波を利用した無線通信の社会実装が進んでいる。それに伴い、ミリ波帯デバイスや回路の高性能化と、その評価技術の重要性が増している。
一般に、デバイスや回路の測定には、回路配線であるコプレーナ導波路に高周波プローブを接触させて測定を行う。手動による方法では、プローブの凸部を目視で平面回路の電極の位置に合わせ、その後プローブを下ろして電極に接触させるが、接触部の状態(接触圧力や位置)を制御することが難しい。また、接触状態の測定精度への影響は、波長が短い高周波ほど顕著となり、300 GHz帯の超高周波領域での伝送特性の正確な評価は困難であった。そのため、高周波プローブを再現性良く接触できる高精度な制御技術が求められていた。
産総研では、プリンテッドエレクトロニクス技術による高周波デバイスやセンサーの実現を目指し、印刷プロセスの開発や高度化に取り組んでいる。また、印刷技術で作製したコプレーナ導波路のミリ波帯デバイスへの応用の研究開発を行い、これまでに、銀ナノインクを用いたスクリーン印刷で作製したコプレーナ導波路の100 GHzを超える高周波での優れた特性を実証した(2015年9月9日 産総研プレス発表)。
さらに、より高周波で利用するため、ミリ波帯で性能を高精度で評価できる高周波プローブの接触制御技術を研究開発し、これまで高精度の実証が困難であったコプレーナ導波路の300 GHz帯を超える周波数領域での性能(低損失・低反射特性)の実証を行うこととした。
なお、本開発の一部は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「物流サービスの労働環境改善と付加価値向上のためのサービス工学×AIに関する研究開発」の支援を受けて実施した。
今回開発した計測技術により、印刷法によるセンサーやデバイスのマイクロ波からミリ波帯に至る周波数領域での動作実証を行うとともに、測定技術のさらなる高周波化(500 GHzへの適用範囲の拡大など)を検討する。