発表・掲載日:2019/02/14

桜島火山の大規模噴火に共通の前駆過程を発見

-マグマはごく浅部から噴出-

発表のポイント

  • 桜島火山において、有史に繰り返し発生した大規模噴火(1471年、1779年、1914年)の直前にマグマが充填されていた深さを解明した。
  • 軽石・火山灰として爆発的に噴出したマグマは、噴火の直前には、従来想定されていた深部(約10 km)のマグマ溜りから、それより大幅に浅い火道(桜島直下の深さ1~3 km)に移動していたことが判明した。
  • 将来発生し得る大規模噴火が同じ前駆過程を経る場合、上昇開始からごく短時間で噴火が開始する可能性がある。


概要

東北大学大学院理学研究科地学専攻の博士課程学生新谷直己さん、中村美千彦教授、奥村聡准教授らの研究チームは、東京大学地震研究所・京都大学防災研究所・産業技術総合研究所地質調査総合センターなどとの共同研究で、鹿児島県の桜島火山において有史に発生した三度の大規模噴火(1471年、1779年、1914年)において、爆発的噴火を引き起こしたマグマが、噴火の直前には、火山体直下の極めて浅い領域(深さ1~3 km)に蓄積されていたことを突き止めました。従来の想定では、鹿児島湾北部の姶良カルデラの下、深さ約10 km付近に存在するマグマ溜まりからマグマが上昇してくると考えられていたため、この想定よりも大幅に浅い領域からマグマが上昇してきたことになります。本研究の結果は、有史の3回の大規模噴火と同程度の噴火が、将来もう一度、同様の前駆過程を経て起こると仮定した場合、噴火に先立って浅部へのマグマの大規模な供給が起こることが予想されるとともに、浅部の火道に充填されたマグマが上昇を開始すると、ごく短時間のうちに地表に到達して噴火が開始する可能性があることを示しています。

本研究の成果は、2019年2月13日10時(英国時間)のScientific Reports誌に掲載されました。

参考図
参考図:桜島山頂の火口から桜島直下のマグマ溜まりにかけての拡大図
(左図)と桜島火山のマグマ供給系(右図)。左図のうち、赤い領域がマグマで満たされている領域であり、火道とマグマ溜まりの境界は火口から深さ4 km程度と推定されている。本研究での詳細な噴出物の分析により、大規模噴火を引き起こしたマグマが火道に相当する深さ(1~3 km)に位置しており、姶良カルデラ直下の主要マグマ溜まり(深さ約10 km)や桜島直下の副次的なマグマ溜まり群(深さ4~5 km)よりも浅かったことが明らかとなった。


詳細な説明

鹿児島県の桜島火山(図1)は世界屈指の活動的火山であり、近年は主としてブルカノ式噴火(注1)を繰り返しています。しかし、地殻変動の観測から、地下の深部マグマ溜まりには、直近の大規模噴火である1914年の大正噴火の際に放出されたマグマと同程度のマグマがすでに蓄積されていることが示されており、近い将来に、大規模なプリニー式噴火(注2)が起きる可能性があると考えられています。大正噴火では、軽石や火山灰、火山ガスなどによって桜島島内を中心に鹿児島県内の広範囲で甚大な被害が発生し、引き続いて起こった溶岩の流出によって桜島と大隅半島が地続きになりました。今後こうした火山噴火による災害に備えるために、このような規模の噴火の発生メカニズムを解明することが急務となっています。

本研究では、1914年に発生した大正噴火に加えて、同じ規模で類似した噴火推移を辿った1779年の安永噴火と1471年の文明噴火の3回の大規模噴火の噴出物に含まれていた斑晶メルト包有物(注3)(図2)と斜長石斑晶(注4)の化学組成を詳細に分析することで、軽石として噴出したマグマが噴火の直前に蓄積していた深さを調べました注5(図3)。その結果、これらの噴火を引き起こしたマグマは、噴火の直前にはいずれも火山体直下の極めて浅い領域(深さ約1~3 km)に蓄積していたことを突き止めました。桜島で大規模噴火が起こる場合、鹿児島湾北部の姶良カルデラ下の深さ約10 kmにあるマグマ溜まりからマグマが上昇してくると想定されていましたが、爆発的に噴火したマグマを直接供給したのは、この想定よりも大幅に浅い領域であったことが本研究によって初めて解明されました。

補足:災害軽減に関する本研究の可能性と限界

歴史時代に3回繰り返されてきた大規模噴火のいずれにも共通した前駆過程が発見されたことから、今後、桜島で近い将来に起きる可能性がある同程度の大規模噴火も同じ様な噴火推移を辿る可能性があると言えます。そのため、噴火に先立つ火山体直下のごく浅い領域(深さ数km)へのマグマの供給に引き続き注目して観測することが、効果的な災害軽減に繋がると考えられます。

一方、マグマが上昇を開始する深さが従来の想定よりも浅い(1/3から1/10程度の深さ)ことは、仮にマグマの上昇開始が即座に捉えられたとしても、噴火の開始までの時間が短いことを意味します。他の火山で調べられているプリニー式噴火の際のマグマ上昇速度を考慮すると、マグマの上昇開始から最短で1時間程度で噴火が開始する可能性も考えられます。防災体制の検討においては、この点を考慮することが望まれます。

これまで歴史時代に3回繰り返されたものと同様の噴火が、将来も必ず発生するというわけではありません。これまでの研究により、マグマの化学組成は、歴史時代を通じて僅かながら粘り気の少ないものに変化してきていることが知られているので、次に大規模噴火が起こる場合、大正噴火と同様の爆発的噴火よりも爆発性の低い噴火(たとえば1946年の昭和噴火のような、溶岩流の流出を主体とする噴火)となる可能性もあります。

桜島火山において、大規模噴火前に、マグマが通常のマグマ溜まりよりも浅部に充填された理由や、その必然性は未だ理解できていません。他の火山噴火でも同様の前駆過程があったかどうかを調べるとともに、そのメカニズムを解明することによって、将来の桜島火山や他の火山における噴火災害軽減に貢献できる可能性があると考えられます。

助成

本研究はJSPS科研費 JP16H06348、文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」および「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の助成・支援を受けたものです。筆頭著者は東北大学博士課程リーディングプログラム「グローバル安全学トップリーダー育成プログラム」に在籍しています。

論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Shallow magma pre-charge during repeated Plinian eruptions at Sakurajima volcano
著者:Naoki Araya, Michihiko Nakamura, Atsushi Yasuda, Satoshi Okumura, Tomoki Sato, Masato Iguchi, Daisuke Miki, Nobuo Geshi
DOI番号:10.1038/s41598-019-38494-x
URL:www.nature.com/articles/s41598-019-38494-x

添付資料

図1
図1.桜島と姶良カルデラの位置関係。1914年の大正噴火の火口から鹿児島市の市街地までは、最短で7 km程度である。

図2
図2.斑晶鉱物(無色透明な部分)とその内部に含まれている斑晶メルト包有物(茶色い部分)。

図3
図3.噴出物の分析から明らかにしたメルト包有物含水量の頻度分布と斜長石の化学組成から計算したメルト含水量の範囲。上側の横軸には含水量から換算した深さを示している。


用語解説

(注1)ブルカノ式噴火
単発的に発生する爆発的な噴火。一度の噴火の継続時間は数分であり、後述するプリニー式噴火に比べて一回の噴火で放出されるマグマは少ない。[参照元へ戻る]
(注2)プリニー式噴火
大規模で爆発的な噴火。噴火が継続的に発生し、柱のように立ち上る噴煙が形成される。一度の噴火の継続時間は数時間から数十時間で、大量の軽石や火山灰・火山ガスを放出する。桜島で有史に発生した大規模噴火では各噴火で約108 m3のマグマが放出された。[参照元へ戻る]
(注3)斑晶メルト包有物
斑晶(マグマに含まれる比較的大きな結晶で今回の研究で扱った噴出物では数百μm~数mm)には、それが結晶成長した際に周囲のマグマの液体部分(メルト)が取り込まれる場合があり、それらは噴火の際に冷却されることで火山ガラスとなる。結晶がカプセルの役割を果たし、マグマからガスとして逃げやすい水などの成分(揮発性成分)が保存されやすい。[参照元へ戻る]
(注4)斜長石
マグマに含まれる主要な構成鉱物の一つ。斜長石斑晶の外縁部と共存しているメルトの化学平衡関係から含水量を見積もることができる。[参照元へ戻る]
(注5)マグマ蓄積深度の見積もり
上部地殻(深さ約10 km以浅)では、マグマは水で飽和していると考えられ、その飽和溶解度は圧力が低くなる(マグマの蓄積深度が浅くなる)と低下する。この性質を利用して、メルトの含水量からマグマの地下での蓄積深度が推定できる。[参照元へ戻る]


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