国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海洋掘削科学研究開発センターの田村 芳彦上席研究員および佐藤 智紀技術スタッフは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(理事長 中鉢 良治、以下「産総研」という。)活断層・火山研究部門の石塚 治主任研究員およびニュージーランドカンタベリー大学のAlexander R. L. Nichols教授と共同で、小笠原諸島の西之島(図1、2、3、4)の海底および陸上に噴出した溶岩の採取・分析を行った結果、西之島直下のマントルが融解して安山岩質マグマを噴出していることを明らかにしました。
安山岩質マグマは、太陽系で地球にのみ噴出する特異なマグマで、大陸地殻を形成する原料として地球表層の形成に深く関わっています。本研究グループでは、西之島で安山岩マグマが噴出することから、大陸の出現を再現しているのではないかと仮説を提唱していました(2016年9月27日既報)が、今回の研究結果はその仮説を実証したものです。
これまでにも、特異なボニナイトのような安山岩質マグマがマントルから直接生成されたことは指摘されていましたが、現在活動中の海底火山の安山岩からその証拠を発見した(図5、6、7、8)のは本研究が初めてです。この成果は地球における大陸の成因を明らかにするとともに、人間活動の基盤となる陸地を形成するプロセスの解明に向けて重要な役割を果たすことが期待されます。
なお本研究成果は、JSPS科研費JP17H02987およびJP17K05686ならびに韓国エネルギー技術評価院国際エネルギー共同研究開発プログラムの支援を受けて行われました。更に本成果は日本放送協会(以下「NHK」という。)との共同研究により得られた知見を活用しています。
本研究成果は、日本地質学会の国際誌「Island Arc」に11月9日付け(日本時間)で掲載されました。
タイトル:Nishinoshima volcano in the Ogasawara Arc: New continent from the ocean?
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.12285
著者:田村芳彦1、石塚治1, 2、佐藤智紀1、Alexander R. L. Nichols3
1. JAMSTEC海洋掘削科学研究開発センター、2.産総研活断層・火山研究部門、3. カンタベリー大学
大陸の平均組成は安山岩である一方、海洋底は玄武岩で形成されています。大陸を形成する安山岩は大陸に特徴的に噴出すると考えられていますが、もともと海洋で被われていた地球でどのように大陸が誕生したのかは、地球科学における大きなジレンマとなっていました。
そのような中、西之島は2013年11月に40年ぶりに噴火し、我々が住む大地がどのように誕生したかを知る手掛かりが得られるのではないか、そのプロセスが「大陸の誕生」を再現している可能性があると注目を集めました(図1、2)。
2016年、本研究グループでは、西之島を含む伊豆小笠原弧や北米のアリューシャン弧のこれまでの研究から、地殻の薄い海洋島弧に特徴的に安山岩マグマが噴出していることを明らかにし、「海において大陸が形成される」という新しい仮説を提唱しました。
しかし、当時の研究において西之島の最近噴火した溶岩および噴火後海底で急冷された岩石サンプルの分析は含まれておらず、本仮説を実証するためには、同サンプルの分析と検証が不可欠でした。
そこで、本研究グループは、噴出した溶岩の成分からマントルやマグマの成因を調べることを目的として、JAMSTECの海洋調査船「なつしま」、深海潜水調査船支援母船「よこすか」、民間調査船「第3開洋丸」と無人ヘリコプターを用いて西之島の調査を行い、溶岩を採取して分析を行いました。今回初めて、西之島および周辺海域から直接採取した岩石サンプルを各種の手法で総合的に分析しました。
西之島は水深3,000mから屹立(きつりつ)する巨大な海底火山の山頂部であり(図4)、火山体の大部分は海面下にあります。陸上と海底から採取された溶岩の分析を行ったところ、西之島海底火山の本体が安山岩であることを改めて確認しました。一方、周辺海域の小海丘は玄武岩溶岩でできていることも判明し、マントルでできる初生マグマの組成が玄武岩質から安山岩質に時代とともに変化したことが示されました。
次に、西之島を形成した安山岩マグマの成因を明らかにするため、海底で急冷された溶岩を解析しました。水中で噴出した溶岩は、急冷により、もともとの鉱物の組み合わせと、初期に結晶として晶出したかんらん石(図5)を保持しているからです。その結果、安山岩とかんらん石の組成から、西之島直下のマントルにおけるマグマのでき方が明らかになりました。
2016年に海底下のマントルにおいて直接安山岩質マグマを生成しているという新しい仮説を提唱していましたが、今回、西之島およびその周辺海域の溶岩の観察と総合的な分析から、海底下のマントルにおいて直接安山岩マグマを生成している証拠を見いだしました。この仮説の実証により、地球においてどのように大陸ができていったのか、という地球科学における大きな謎の解明に近づいたと言えます(図6)。
特に、マントルで直接安山岩を生成するためには、西之島のような薄い地殻(図7)が必要であることが示されました。西之島の安山岩には、Eu(ユーロピウム)という元素が周期表上の隣り合う希土類元素よりも少ないという負の異常が見られます。この異常の原因を明らかにするために、マグマのもととなるマントルの岩石をいろいろと想定してユーロピウムの負の異常を説明できるかどうかを検討しました。その結果、地下において30㎞よりも浅い場所でのみ安定である、斜長石を含むかんらん岩がマグマの源であることがわかりました。つまり、安山岩質マグマをマントルで生成するためには、マントルが浅い場所にある、すなわち地殻が薄いことが必要なのです。本結果は前回の仮説を強く裏付けるものです。伊豆大島や三宅島のように地殻が30㎞を超えてしまうと、斜長石を含むかんらん岩は存在しないことから、マントルにおいて安山岩は生成されないことになります。
西之島のような地殻の薄い海洋島弧でのみ、大陸の材料である安山岩がマントルで生成されることは、これまでの常識を変えていく大陸生成の仕組みです(図8)。