国立大学法人千葉大学【学長 徳久 剛史】(以下「千葉大学」という)、キッコーマン株式会社【代表取締役社長 堀切 功章】(以下「キッコーマン」という)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)、国立大学法人徳島大学疾患酵素学研究センターと共同で、幼児172名を対象にしたプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験(4)により、乳酸菌K15のIgA産生増強効果を確認した。また、他の乳酸菌食品摂取頻度が週1回以下の被験者について解析を行ったところ、発熱日数が乳酸菌K15摂取により短縮することが明らかとなった。今後、感染予防や感染抵抗性の増強に乳酸菌K15が活用されることが期待される。
なお、本研究成果は2018年11月10日~11日に開催される第50回日本小児感染症学会学術集会で発表される。
腸内に常在している乳酸菌や食物に含まれるプロバイオティクス(5)乳酸菌は人々の健康維持・増進に効果があることが知られている。その安全性の高さ、さらには発酵食品への応用の観点から、乳酸菌は食品・医薬品業界から非常に注目されている。特に免疫増強効果については多くの報告があり、さまざまな免疫疾患への効果が期待されている。例えば、腸管、口腔、鼻腔等の粘膜面に分泌されるIgAと呼ばれる抗体は、病原菌やウイルスを排除するために大きな役割を果たしている。また、樹状細胞(6)から産生されるインターフェロンαやインターフェロンβが感染抵抗性に重要であることが知られている。
千葉大学、キッコーマン、産総研は共同研究を行う中で、健康増進のために免疫機能を活性化する技術の開発を目指し、発酵食品由来の乳酸菌や食品成分の機能性に着目してきた。キッコーマンが独自に分離した乳酸菌の効果・効能について、これまでに千葉大学大学院医学研究院 小児病態学(下条 直樹 教授)、キッコーマン研究開発本部、産総研バイオメディカル研究部門は、乳酸菌K15のIgA産生増強効果や樹状細胞に対するインターフェロンα/βの産生誘導作用について実証してきた。その中でキッコーマンは乳酸菌K15を「アシスト乳酸菌」としてグループ内製品に応用してきた。今回は乳酸菌K15のさらなる臨床効果の実証を試みた。乳酸菌K15は加熱により不活化しても高いインターフェロンβ産生能が確認されており、安全性、保存性の観点から加熱菌体をもちいた。
幼稚園に通う3~6歳の健康な幼児を対象に、プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を実施した。インフルエンザ流行期を含む4か月間(2016年11月~2017年2月)に、乳酸菌K15またはプラセボ(デキストリン)を経口投与し、健康観察日誌から体温、感冒症状、欠席日数、試験食品・乳酸菌食品摂取歴(制限を設けず)などを収集した。
試験開始前後で唾液を採取できた乳酸菌K15摂取群81例、プラセボ群81例について解析を行ったところ、唾液中IgA濃度について乳酸菌K15 群がプラセボ群に比べ有意に高い変化量を示した(K15群+3.20 mg/dL、プラセボ群-12.48 mg/dL、p=0.0443)(図1)。
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図1 唾液中IgA濃度変化量 |
発熱日数においては2群で有意な差は認めなかったものの、他の乳酸菌食品の摂取が週1回以下である症例(K15群36例、プラセボ群41例)のみで解析を行ったところ、乳酸菌K15摂取群で発熱日数が有意に短縮されていた(K15群1.69日、プラセボ群3.17日、p=0.0423)(図2)。
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図2 他の乳酸菌食品の摂取が週1回以下の被験者における発熱日数の比較 |
今後は乳酸菌K15の効果をさらに検証すると共に、ウイルス感染症が流行する中でも健康的な暮らしをサポートできるよう、乳酸菌K15を含む食品の開発を進めていく予定である。
小児を対象とした加熱乳酸菌(K15) のウイルス気道感染症予防効果を検討するための二重盲検比較試験
菱木 はるか1、川島 忠臣2、辻 典子3、木戸 博4、竹村 亮5※、下条 直樹1
(1千葉大学大学院医学研究院 小児病態学、2キッコーマン(株)、3産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門、4徳島大学疾患酵素学研究センター、5千葉大学医学附属病院臨床試験部)
※現:慶應義塾大学病院 臨床研究推進センター