発表・掲載日:2018/10/10

湖底堆積物から探る富士山の噴火史

-本栖湖に残されていた未知の噴火の発見-


秋田大学大学院国際資源学研究科のStephen Obrochta(スティーブン オブラクタ)准教授および東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授らの研究グループは、国際共同研究「QuakeRecNankaiプロジェクト」(代表機関:ゲント大学、日本側パートナー機関:東京大学・産業技術総合研究所)で行われた富士五湖での科学掘削により本栖湖で初めて得られた4 mの連続コア試料を、詳細に分析・年代測定しました。それにより、過去8000年間に本栖湖に火山灰をもたらした富士山の噴火史を復元しました。欠落のないコア試料で堆積年代を細かく調べることで、噴火の詳しい時期の特定、陸上で得られている火山灰の分布の見直しを行うことができ、未知の2回の噴火の発見がありました。富士山は噴火した場合の社会的影響が非常に危惧される火山であることから、本研究は、将来の噴火や災害の予測をする上で重要な成果となるものです。

本研究成果は、Quaternary Science Reviews誌(Elsevier B.V.)に掲載されます(解禁日:平成30年10月10日7時(日本時間))。

【研究背景】富士山地域は世界遺産に登録されており、年間に国内外から4700万人もの人が訪れます。一方、富士山は活火山であり、その噴火の予測や広域的な降灰の影響や対策は社会的に重要な課題です。将来の噴火や降灰範囲の予測には、過去の噴火の時期や降灰範囲を詳しく知る必要がありますが、地上で得られる情報には限りがあります。地上では侵食などの影響で時間的に不連続であったり、年代測定に必要な試料が得られないことがあるからです。このような問題を解決するため、堆積が連続して続いている深い湖の地層を採取して火山の噴火史を研究しました。

【研究内容と成果】本栖湖は富士五湖の中で最も深い湖で、最大水深は121.6 mに達します。このため、湖底には過去1万年以上にわたり干上がることなく連続して地層が堆積しています。また、富士山に対して卓越風の風上側(北西側)に位置する本栖湖には、多数ある富士山(および側火山)の噴火のうち、大きく西へ広がった火山灰しか届かないという、地理的な制約を設けることができます。
今回の研究では、本栖湖から得られたコア試料に対して、肉眼観察と蛍光X線分析を組み合わせてコアを詳しく観察して、火山灰がどこに挟まっているかを調べました。次に、合計30個の放射性炭素年代測定値と、年代が判明している2枚の火山灰層を使って、コア試料のどの深さが現在から何年前に当たるかを示すグラフ(年代モデル)を作りました(図)。この年代モデルはかつてない高精度なものです。その結果本栖湖のコア試料は、過去約8000年間の連続した記録であることが分かりました。陸上で行われた研究との比較から、コアに挟まれるスコリア層のうち3枚は大沢噴火、大室噴火、最後の山頂噴火(剣ケ峰スコリア)に対比できることが分かりました。従来の研究では、大沢噴火の年代は3400年前頃(3214–3401 cal BP)、大室噴火の年代は3200年前頃(3072–3272 cal BP)、最後の山頂噴火は2300年前頃とされていましたが、今回得られた年代モデルを使うと、それぞれの噴出年代は3042 cal BP頃、 2930 cal BP頃、 2309 cal BP頃と推定されました。また、これらの火山灰が富士山の風上(西側)側の本栖湖で確認されたのは初めてで、これら3回の噴火による降灰範囲が従来の推定より広かったことが分かりました。また岩石学的特徴からは富士山起源であると判断されるものの、富士山の既知のどの噴火にも対応しない火山灰層が2枚見つかり、富士山の西側で起きた2回の噴火の発見につながりました。このように本研究では、湖底堆積物の年代を詳しく調べることで、富士山の噴火の頻度や規模の予測に重要な知見を得ることができました。

【今後の展開】富士山は噴火した場合の社会的影響が非常に危惧される火山ですが、本研究は、将来の噴火や災害の予測をする上で重要な成果となるものです。


発表論文

論文タイトル:Mt. Fuji Holocene eruption history reconstructed from proximal lake sediments and high-density radiocarbon dating
著者:Obrochta, S.P., Yokoyama, Y., Yoshimoto, M., Yamamoto, S., Miyairi, Y., Nagano, G., Nakamura, A., Tsunematsu, K., Lamair, L., Hubert-Ferrari, A., Lougheed, B.C., Hokanishi, A., Yasuda, A., Heyvaert, V.M.A., De Batist, M., Fujiwara, O., the QuakeRecNankai Team
掲載誌:Quaternary Science Reviews誌(Elsevier B.V.)(電子ジャーナル掲載予定日平成30年10月10日)。

図
図 コア試料(左から、スケッチ、写真、ソフトX線写真)と年代モデル。矢印が今回扱った火山灰層の位置。


プレス発表詳細資料

発表概要

秋田大学大学院国際資源学研究科のStephen Obrochta(スティーブン オブラクタ)准教授および東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授らの研究グループは、ベルギー科学政策局(Belgian Science Policy Office:BELSPO)出資による国際共同研究「QuakeRecNankaiプロジェクト」(注1)の一環として世界遺産の一部でもある富士五湖で行われた科学掘削で、初めて得られた本栖湖の4 mの連続コア試料を使って、それらを詳細に分析・年代測定しました。それにより、過去8000年間に本栖湖に火山灰をもたらした富士山の噴火史を復元しました。欠落のないコアで堆積年代を細かく調べることで、噴火の詳しい時期の特定、陸上で得られている火山灰の分布の見直しを行うことができ、未知の2回の噴火の発見がありました。富士山は噴火した場合の社会的影響が非常に危惧される火山であることから、本研究は、将来の噴火や災害の予測をする上で重要な成果となるものです。

本研究成果は、Quaternary Science Reviews誌(Elsevier B.V.)に掲載されます(解禁日平成30年10月10日7時(日本時間))。

研究背景

富士山地域は世界遺産に登録されており、年間に国内外から4700万人もの人が訪れます。一方、富士山は活火山であり、その噴火の予測や広域的な降灰の影響や対策は社会的に重要な課題です。将来の噴火や降灰範囲の予測には、過去の噴火の時期や降灰範囲を詳しく知る必要がありますが、地上で得られる情報は限られています。地上では、侵食などの影響で時間的な欠落があったり、そのために年代測定に適した試料が得られないことがあるからです。このような問題を解決するため、堆積が連続して続いている深い湖の地層を採取して火山の噴火史を研究しました。

研究内容と成果

本栖湖(図1、図3)は富士五湖の中で最も深い湖で、最大水深は121.6 mに達します。このため、湖底には過去1万年以上にわたり干上がることなく連続して地層が堆積しています。また、富士山に対して卓越する西風の風上側(北西側)に位置する本栖湖には、富士山および側火山の噴火のうち、大きく西へ広がった火山灰しか届かないという、地理的な特徴もあります。

今回の研究では、本栖湖にプラットフォーム(筏)を係留して、ハンマーピストンコアラー(注2)と言う装置を使って、堆積物コア試料を採取しました(図1)。一回で採取できるコア試料の長さ(深さ)は約2 mです。何度も作業を繰り返すことで、深いところまで試料を採取します。連続した試料を採取するため、最初は湖底から深さ2 mまで、次は1 mから3 mまで、さらに2 mから4 mまでと、1 mずつ重なったコア試料を採取しました。得られたコアから1本の連続したコア試料を組み立てることで、湖底から深さ4 mまでの欠落の無いコア試料が得られました(図2)。

まず、コア試料を詳しく観察して、火山灰が湖底からどの深さに挟まっているかを調べました。肉眼観察だけでなく蛍光X線分析の結果も参考にしました。次に、合計30個の放射性炭素年代測定値と、南九州や伊豆半島の火山から飛んできた年代が判明している2枚の火山灰層(注3)を使って、コア試料のどの深さが現在から何年前に当たるかを示すグラフ(年代モデル)を作りました(図2)。今までにない高解像度の放射性炭素年代測定には、東京大学大気海洋研究所のシングルステージ型加速質量分析計を用いました。年代モデルの作成には、Obrochta准教授が自ら開発したソフトウエア(ソフト名:アンデータブル)(注4)を使いました。

今回の研究で得られたコア試料は、過去約8000年間の連続した記録であることが分かりました。陸上で行われた研究との比較から、コアに挟まれるスコリア層(注5)のうち3枚は大沢噴火、大室噴火、最後の山頂噴火(剣ヶ峰スコリア)に対比できることが分かりました。従来の研究では、大沢噴火の年代は3400年前頃(3214–3401 cal BP 注6)、大室噴火の年代は3200年前頃(3072–3272 cal BP)、最後の山頂噴火は2300年前頃とされていましたが、今回得られた年代モデルを使うと、それぞれの噴出年代は3042 cal BP頃、2930 cal BP頃、2309 cal BP頃と推定されました(図2)。また、これらの火山灰が富士山の風上側(西側)の本栖湖で確認されたのは初めてで、これら3回の噴火による降灰範囲が従来の推定より広かったことが分かりました(図3)。

コア試料からは、岩石学的特徴からは富士山起源と判断されるものの、富士山の既知のどの噴火にも対応しない火山灰層が2枚見つかり、富士山の西側で起きた2回の噴火が新たに分かりました(図2)。しかもこの2回の噴火間隔は約20年(2458 cal BP頃と2438 cal BP頃)と短いものでした。陸上の調査では、噴火と噴火の間に形成された土壌があって初めて2つの噴火(2枚の火山灰層)を見分けることができます。しかし、20年と言うのは土壌ができるには短すぎ、2枚の火山灰層を厚い1枚の火山灰層と誤認してしまう恐れがあります。そうすると、噴火の繰り返し間隔や規模の推定が不確実なものになります。

本研究では、最新のテクニックを駆使して湖底堆積物の年代を詳しく調べることで、富士山の噴火の頻度や規模の予測に重要な知見を得ました。

発表論文情報

論文タイトル:Mt. Fuji Holocene eruption history reconstructed from proximal lake sediments and high-density radiocarbon dating

著者:Obrochta, S.P.a, Yokoyama, Y.b, Yoshimoto, M.c, Yamamoto, S.c, Miyairi, Y.b, Nagano, G..b*1, Nakamura, A.d, Tsunematsu, K.c, *2, Lamair, L.e, Hubert-Ferrari, A.e, Lougheed, B.C.f, Hokanishi, Ag, Yasuda, A.g, Heyvaert, V.M.A.h, i, De Batist, M.i, Fujiwara, O.d, the QuakeRecNankai Team
a Graduate School of International Resource Science, Akita University, Japan
b Atmosphere and Ocean Research Institute, the University of Tokyo, Japan
c Mount Fuji Research Institute, Yamanashi Prefectural Government, Japan
d Geological Survey of Japan, AIST, Japan
e Department of Geography, University of Liège, Belgium
f Laboratoire des Sciences du Climat et de l'Environnement LSCE/IPSL, CNRS-CEA-UVSQ, Université Paris-Saclay, France
g Earthquake Research Institute, the University of Tokyo, Japan
h Geological Survey of Belgium, Royal Belgian Institute of Natural Sciences, Belgium
i Department of Geology, Ghent University, Belgium
*1 present address: Geospatial Information Authority of Japan, Ministry of Land, Infrastructure, Transport, and Tourism
*2 present address: Faculty of Science, Yamagata University, Japan

掲載誌:Quaternary Science Reviews誌(Elsevier B.V.)(電子ジャーナル掲載予定日:平成30年10月10日)

図1
図1 本栖湖に浮かぶ掘削プラットフォーム。三角櫓からサンプラーを湖底に下ろす。

図2
図2 コア試料(左から、スケッチ、写真、ソフトX線写真)と年代モデル。矢印が今回扱った火山灰の位置。

図3
図3 従来知られていた大沢スコリア(黄色、左下)、大室スコリア(緑色、中央上)、剣ヶ峰スコリア(青色、右)の分布範囲。数字は層厚(㎝)。本栖湖(赤枠、左上)周辺では未確認であった。


用語解説

注1:
ベルギー政府の機関であるベルギー科学政策局(Belgian Science Policy Office :BELSPO)の競争的資金を使った国際プロジェクトで、海岸低地や湖の地層を調査して南海トラフ東部の巨大地震と津波、それに関連した地質災害の履歴解明を目指している。
日本国内では東京大学と産業技術総合研究所が参加機関として、秋田大学国際資源学部と山梨県富士山科学研究所が協力機関として参加する官学共同国際プロジェクトである。
研究期間は2014-2018年。
プロジェクトの正式名称:Paleotsunami and earthquake records of ruptures along the Nankai Trough, offshore South-Central Japan
代表機関:Ghent University(ベルギー)
参加機関:Geological Survey of Belgium (Royal Belgian Institute of Natural Sciences) (ベルギー)、 University of Liège(ベルギー)、産業技術総合研究所地質調査総合センター(日本)、 東京大学大気海洋研究所(日本)、University of Cologne(ドイツ)。
協力機関:秋田大学国際資源学部、山梨県富士山科学研究所
総研究統括者:Marc.DeBatistゲント大学教授
日本側研究統括者:横山 祐典 東京大学 大気海洋研究所 教授
         藤原 治  産業技術総合研究所 地質調査総合センター
         宍倉 正展 産業技術総合研究所 地質調査総合センター [参照元へ戻る]
注2:
プラットフォームからワイヤーロープでチューブ状のサンプラーを垂直に湖底に下ろし、ワイヤーロープに沿って後から落下させた金属の重りによって湖底の堆積物に打ち込む。正式名はUwitec piston corer[参照元へ戻る]
注3:
南九州からもたらされた火山灰は、鬼界カルデラから7165–7303 cal BPに噴出した鬼界アカホヤ火山灰。伊豆半島からのものは、天城火山から3149±12 cal BPに噴出した天城カワゴ平火山灰 。これらは縄文時代の地層の年代を決める重要な指標として考古学や地質学の研究でよく使われる。[参照元へ戻る]
注4:
コア試料の多数の位置(コアの上端からの深さ)から年代測定値が得られたときに、試料採取位置、堆積速度、年代測定値の誤差などを考慮して、最も可能性が高い中央年代を決める。英語では「Undatable」という。 [参照元へ戻る]
注5:
火山から噴出した物質の一種で、塊状で発泡して多孔質のもののうち暗色のもの。主に安山岩や玄武岩質のマグマに由来することが多い。[参照元へ戻る]
注6:
BP / cal BP(ビーピー/カルビーピー)は、放射性炭素年代測定で得られた年代を表す。放射性炭素年代測定では1950年を基点とし、それから何年前かを示す。放射性炭素年代測定結果には大気中放射性炭素濃度の経年変動等に由来する誤差があるので、暦年較正曲線を用いて較正する必要がある。較正した年代はcal BPと表記する。[参照元へ戻る]



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