東北大学大学院工学研究科梅津 光央教授、産業技術総合研究所人工知能研究センター齋藤 裕研究員、亀田 倫史主任研究員、理化学研究所革新知能統合研究センター津田 宏治チームリーダーらの研究グループは、人工知能と実験を組み合わせることで、タンパク質の機能改変を従来よりも大幅に効率化する手法の開発に成功しました。
研究グループは、緑色蛍光タンパク質(GFP)を黄色蛍光タンパク質(YFP)へ改変する問題に本手法を適用して、既知YFPよりも蛍光性能の高い新規YFPを多数発見することに成功しました。本手法は、抗体や酵素などの医療・食品・環境で役立つ様々な機能性タンパク質の開発を加速することが期待されます。
この研究成果は、2018年8月13日付(アメリカ時間)で「
ACS Synthetic Biology(オンライン版)」に掲載されました。また、本研究は、科学研究費助成事業を受けて実施されました。
バイオ産業の研究開発では、抗体や酵素などの機能性タンパク質を改変し、その機能を向上したいというニーズが広く存在します。従来では、対象のタンパク質にランダムな変異を導入して多数の変異体タンパク質(ライブラリー)を調製し、その中から目的の機能を有するタンパク質を実験によって探し出すという方法が行われてきました。しかし、この方法は多数の変異体について実験を行うために、大きな費用を必要とします。また、あり得る変異体の数は膨大であるために、ライブラリーの中に目的の機能を有するタンパク質が含まれていない可能性も少なくないという課題がありました。
研究グループは、人工知能を用いることで、タンパク質の機能改変を効率化する手法の開発に成功しました(Fig.1)。この手法では、まず従来のランダムな変異導入によって少数の変異体を調製して実験を行い、人工知能のための学習データを取得します。次に、人工知能技術の1つであるベイズ最適化によって、どのような変異を導入すれば目的の機能を有するタンパク質が得られるか予測を行います。これにより、目的の機能を有するタンパク質を豊富に含み、なおかつ安価に実験を行える小規模な変異体群(スマートホットライブラリー)を提案することが可能になります。
本研究では、緑色蛍光タンパク質(GFP)を黄色蛍光タンパク質(YFP)へ改変する問題に本手法を適用して、既知YFPより長波長で蛍光強度も高い新規YFPを多数発見することに成功しました(Fig.2)。従来のランダムな変異導入で調製したライブラリーには約3%しか黄色蛍光タンパク質が含まれていませんでしたが、このライブラリーを学習データとして人工知能が提案したライブラリーでは約70%という非常に高い割合で黄色蛍光タンパク質が含まれていました(Fig.3)。この結果は人工知能がタンパク質の機能改変に有効であることを示しており、今後、抗体や酵素などの医療・食品・環境で活躍できる様々な機能性タンパク質の開発において本手法の応用が期待されます。
題目:
Machine-Learning-Guided Mutagenesis for Directed Evolution of Fluorescent Proteins
著者:
Yutaka Saito1,2, Misaki Oikawa3, Hikaru Nakazawa3, Teppei Niide3, Tomoshi Kameda1, Koji Tsuda4,5,6, and Mitsuo Umetsu3,5
所属:
1産業技術総合研究所 人工知能研究センター, 2産業技術総合研究所 産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ, 3東北大学大学院 工学研究科, 4東京大学大学院 新領域創成科学研究科, 5理化学研究所 革新知能統合研究センター, 6物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門
雑誌: ACS Synthetic Biology
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssynbio.8b00155
DOI: 10.1021/acssynbio.8b00155