キッコーマン株式会社【代表取締役社長 堀切 功章】(以下、キッコーマン)は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下、産総研)バイオメディカル研究部門、国立大学法人 千葉大学【学長 徳久 剛史】(以下、千葉大学)大学院医学研究院、公益財団法人 愛世会 愛誠病院上野クリニックと共同で、乳酸菌Pediococcus acidilactici K15(以下、乳酸菌K15)のIgA産生誘導メカニズム、およびその臨床効果を確認した。
近年、ウイルス感染症が流行する中で、学校等における集団感染が問題となっている。腸管、口腔、鼻腔等の粘膜面に分泌されるIgAと呼ばれる抗体は、病原菌やウイルスの侵入を防ぐために大きな役割を果たしており、今回、乳酸菌K15がヒト細胞からのIgA産生を強く誘導することを見出した。さらに、IgA産生増強効果には樹状細胞から産生されるIL-6、IL-10(いずれも免疫反応における重要なサイトカイン)が関与していた。また、乳酸菌K15を12週間摂取することで、ヒトの唾液中の分泌型IgA濃度が有意に上昇することが示された。乳酸菌が関与するIgA産生誘導メカニズムについてはこれまでマウスでは報告されていたが、ヒト細胞で今回初めて示された。今後、感染抵抗性の増強などへの乳酸菌K15の活用が期待される。
なお、本研究成果は2018年3月15日~18日に開催される日本農芸化学会 2018年度名古屋大会で発表される。
腸内に常在している乳酸菌や食物に含まれるプロバイオティクス乳酸菌は、人々の健康維持・増進に効果があることが知られている。その安全性の高さ、さらには発酵食品への応用の観点から、乳酸菌は食品・医薬品業界から非常に注目されている。特に免疫増強・調節効果については多くの報告があり、さまざまな免疫疾患への効果が期待されている。
キッコーマンと産総研は共同研究を行う中で、健康増進のために免疫機能を活性化する技術の開発を目指し、発酵食品由来の乳酸菌や食品成分の機能性に着目してきた。この中で、キッコーマンはぬか床から分離した乳酸菌K15が高い免疫活性化能を持つことを見出した。そして、K15を中心とした乳酸菌の免疫効果・効能について産総研、千葉大学と共同で、実用化を目指した検証を続けてきた。
7名の被験者からのヒト末梢血単核細胞を用いて、乳酸菌で刺激したときに産生されるIgAの濃度を測定した。すると、乳酸菌K15で刺激したときに、他の乳酸菌に比べて強いIgA産生を示した(図1)。
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図1 各種乳酸菌によるヒト末梢血単核細胞からのIgA産生誘導(L. : Lactobacillus)
*はt検定においてp<0.05で有意な差をもってIgA産生に影響を及ぼすことを示す |
ヒト末梢血単核細胞より樹状細胞とB細胞を分離し、IgA産生増強における樹状細胞の役割を検証した。すると、乳酸菌によるIgA産生誘導効果には樹状細胞が関わっていることが明らかとなった(図2)。
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図2 Pediococcus acidilactici K15のIgA産生増強における樹状細胞の関与
**はt検定においてp<0.01で有意な差をもってIgA産生に影響を及ぼすことを示す |
乳酸菌の刺激により、樹状細胞からはIL-6、IL-10、IL-12などさまざまなサイトカインが産生される。これまでにヒト細胞ではB細胞からのIgA産生にIL-5やIL-6、IL-10が関与することが知られていた。一方で、乳酸菌によるヒトB細胞からのIgA産生増強にどのサイトカインが関与するかは検証されていなかった。そこで、これらのサイトカインの効果を打ち消す中和抗体を上記実験(図2)のヒト細胞培養系に添加したところ、IL-6とIL-10の中和抗体を同時に添加したときに乳酸菌によるIgA産生増強効果が完全に消失した(図3)。IL-6とIL-10は乳酸菌の刺激で誘導されることは知られていたが、IgA産生誘導にも関与することを見出した。
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図3 Pediococcus acidilactici K15のIgA産生増強におけるIL-6、IL-10の関与 |
実際に健常な成人に乳酸菌K15(9.1 mg/日がデキストリンに混合されたもの)もしくは対照食品(デキストリン)を12週間摂取してもらい、唾液中の分泌型IgA濃度を測定したところ、乳酸菌K15摂取群で有意に上昇することが確認された(表1)。一方でプラセボ群(対照群)では有意な上昇は確認されなかった。
表1 唾液中分泌型IgA濃度(mg/dL)の変化(平均値 ± 標準誤差) |
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(##p<0.01 vs 試験前) |
今後は乳酸菌K15のIgA産生増強を含む臨床効果をさらに検証すると共に、ウイルス感染症が流行する中でも健康的な暮らしをサポートできるよう、新たな製品開発に役立てていく予定である。