国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)無機機能材料研究部門【研究部門長 淡野 正信】物質変換材料グループ 木村 辰雄 研究グループ長は、有機架橋ホスホン酸と金属塩化物から非シリカ系の有機無機ハイブリッド型メソポーラス材料を合成する産総研オリジナルの手法を改良し、原料の反応性を連続的に制御することで多様なメソポーラス材料を合成できる技術を開発した。
メソポーラス材料の産業応用の拡大には、材料表面を親水性にするなど、表面特性の多様化が重要である。そのために有機架橋ホスホン酸化合物と塩化アルミニウムなどさまざまな金属塩化物を反応させた細孔の形成を検討してきたが、従来手法では反応速度を制御できず細孔の形成が不十分であった。これに対して金属塩化物と反応するホスホン酸化合物のエステル基の割合を連続的に制御する技術を開発し、特定の金属塩化物との組み合わせに対して、細孔を形成させるのに最適な反応性を実現した。開発した技術により、メソポーラス材料の細孔表面の性質に関する設計自由度が向上したため、従来の疎水性のメソポーラス材料とは異なるメソスケールの化学反応場をもつ触媒材料やフィルター材料、人工光合成材料など、さまざまな分野での応用が期待される。
なお、この成果の詳細は、2017年9月22日(現地時間)にドイツ化学会誌Angewandte Chemie International Editionに電子版が公開された。
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メソポーラス材料表面の構造と性質
今回開発した技術により、これまで実現できなかった親水表面をもつメソポーラス材料が実現 |
2~50 nmほどの直径の細孔が規則的に並んだメソポーラス材料は、比表面積が大きいことから吸着剤や触媒担体、光学材料などに用いられている。代表的なメソポーラスシリカや、酸化物や炭素などのさまざまなメソポーラス材料がある。また、細孔壁内でシリカと有機基が分子レベルで交互に配列した有機無機ハイブリッド型のメソポーラス材料では、有機基による吸着特性などの制御や、その細孔表面に金属錯体を作り光合成を模倣する触媒反応など、多様な研究が行われている。
近年、植物の葉で進行する光反応系をより正確に再現した人工光合成などを可能にする、親水性の細孔表面と大きな比表面積をもつメソポーラス材料の開発が期待されている。リン酸アルミニウムを骨格とするメソポーラス材料では細孔表面が親水性になるが、湿気程度の水分子でも細孔壁内のアルミニウム-酸素-リンの間の結合が切れてしまいメソポーラス構造の規則性が大きく低下するなどの課題を抱えていた。
産総研中部センターでは、メソポーラス化技術の高度化に向け、組成制御の研究に取り組み、これまでに、両親媒性有機化合物の自己集合を利用し、有機架橋ホスホン酸を用いて、無機部分がシリカではない無機有機ハイブリッド型のメソポーラス材料の合成法を開発した。しかし、有機架橋部分が大きくなると水などの極性溶媒に溶けにくくなる(図1)。しかも、有機架橋部分をベンゼン環にすると、有機架橋ホスホン酸と金属塩化物との反応が十分に進まず、メソポーラス化技術への適用が困難だった。
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図1 有機架橋ホスホン酸の有機架橋部分の大きさと水などの極性溶媒への溶解性 |
今回の改良技術では、金属塩化物との反応が急速に進行する有機架橋ホスホン酸エステルの反応性を調整する新しい方法を考案し、ベンゼン環を骨格内に含むメソポーラス材料の合成に取り組んだ。
なお、この研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費助成事業 基盤研究(B)「分子構造デザインによる非シリカ系ハイブリッドメソ多孔体の精密合成技術の開発」(課題番号:26288110、平成26~28年度)の支援を受けて行った。
従来の合成法は、原料である有機架橋ホスホン酸の有機架橋部分がメチレン[-CH2-]やエチレン[-C2H4-]のような小さな有機基にしか使えなかった。大きなベンゼン環[-C6H4-]で架橋されたホスホン酸(1,4-ベンゼンホスホン酸)では、塩化アルミニウムとの反応が十分に進行しないため、得られるメソポーラス材料の構造規則性は低くなっていた。一方、水酸基(P-OH)が全てエステル基(P-OC2H5)となった1,4-ベンゼンホスホン酸エステルでは、急速に反応が進行(固化)してしまい溶液調製すらできない。
そこで、今回、反応性の高いエステル基を減少させて、ホスホン酸化合物の反応性を制御することとした。酸性水溶液中で1,4-ベンゼンホスホン酸エステルを処理してエステル基の一部を水酸基に変えることで、メソポーラス化に適した反応性に調整し、構造規則性の高いメソポーラス材料を合成できた。
通常、金属源とホスホン酸の種類で反応性が決まるが、1,4-ベンゼンホスホン酸エステルの場合、エステル基の数によって反応性が変わる。つまり、4個のエステル基のうち、1個を非エステル化(水酸基に置換)した1置換体、2個を非エステル化した2置換体、3個を非エステル化した3置換体の割合を調整することで、反応性を連続的に制御できる(図2)。
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図2 部分的に水酸基置換したベンゼン架橋ホスホン酸エステルによるメソポーラス材料の合成 |
また、1,4-ベンゼンホスホン酸エステルの有機架橋部分に、塩基性のアミノ基や酸性のスルホン酸基を付加した有機架橋ホスホン化合物を用いてもメソポーラス材料を合成することができた(図3)。更には、アルミニウム以外の金属塩化物に変わっても、それに合わせてエステルの割合を調整することで金属源との反応性を最適化できる。チタンやバナジウムの塩化物からハイブリッド型の非シリカ系メソポーラス材料が合成できることを確認した。
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図3 塩基性のアミノ基や酸性のスルホン酸基を付加した場合の表面構造 |
今回開発した技術により合成したハイブリッド型メソポーラス材料は、金属がアルミニウムの場合は細孔壁の表面が親水的になり、含酸素化合物など親水部位をもつ化合物を優先的に細孔内に導入でき、選択的な反応場やフィルター材料としての利用が期待される。また、金属の種類によって細孔表面の性質も異なるため、メソスケールの化学反応場の設計自由度が向上する。
今回開発した技術の、他の金属種への適用可能性などを調べる。リン酸アルミニウムを除く、これまでの疎水的なメソポーラス材料とは異なるメソスケールの高機能反応場の開発に向け、酸触媒や塩基触媒として働く有機架橋部分をもつホスホン酸化合物の開発にも取り組む。