発表・掲載日:2017/06/16

プレート境界断層での温度不均質の原因を解明

-地震動予測への応用に期待-

研究成果のポイント

  • オーストラリアプレートと太平洋プレートの境界断層、アルパイン断層において、断層面上に大きな温度不均質を発見。この温度不均質が、断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環に支配されていることを解明。
  • これまで困難であった断層面上の温度分布の推定が、断層掘削と数値計算により可能に。
  • 断層面上の温度分布は断層強度に影響を与えることから、強度分布の推定に基づく地震動予測への応用に期待。


概要

 大阪大学大学院理学研究科廣野哲朗准 教授グループの同研究科博士前期課程の 加藤尚希(現所属、(株)東芝)らが、日本地球掘削科学コンソーシアムの支援を受けて参画したアルパイン断層掘削プロジェクトでは、オーストラリアプレートと太平洋プレートの境界であるアルパイン断層における断層面上の大きな温度不均質を明らかにし、この不均質が断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環に支配されていることを解明しました。

 本プロジェクトチームは、断層の強度を支配する重要なパラメータである温度分布と流体圧について、光ファイバー温度計により地下温度を、水理試験により流体圧を測定しました。その結果、一般的な大陸地殻の値の4倍の、非常に高い地温勾配が見つかりました。過去の断層掘削に基づくアルパイン断層上盤の地温勾配は、一般的な大陸地殻の値の2倍程度の値であり、アルパイン断層面上には大きな温度不均質があります。本研究では、測定された温度と流体圧を数値計算と比較を行うことで、断層面上の温度不均質が推定され、その原因が断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環であることが明らかになりました。

 断層面上の温度は、鉱物組成を支配し、鉱物組成は断層の強度を支配します。従って、断層面上の温度不均質を推定することで、断層強度の不均質、さらには地震時の滑りの不均質を明らかにし、強度分布の推定に基づく地震動予測への応用が期待されます。

 本研究成果は、英国科学誌「Nature」第546号に、2017年6月1日(木)に掲載されました。日本からは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(活断層・火山研究部門)の重松紀生主任研究員、京都大学大学院工学研究科(兼務、国立研究開発法人海洋研究開発機構)の林為人教授、信州大学理学部の森宏 助教、秋田大学大学院国際資源学研究科の西川治講師、山口大学大学院理工学研究科博士前期課程(現所属、(株)宇部興産コンサルタント)の米谷優佑らも貢献しました。

アルパイン断層の分布と掘削地点の図
図1 アルパイン断層の分布と掘削地点


研究の背景

 ニュージーランド南島西海岸のアルパイン断層は、平均約300年の間隔で大地震を発生させている活動度の高い断層で、最近では1717年に活動しています。アルパイン断層における次の地震発生時期が近いこと、隆起速度が速いことから深部における地震発生過程の理解に都合がよいことから、ニュージーランド南島西海岸のファタロア川(Whataroa River)で、断層掘削計画「アルパイン断層深部掘削プロジェクト(Alpine Fault, Deep Fault Drilling Project: DFDP)」が2014年に行われました。

 本プロジェクトチームでは、今回、断層の強度を支配する重要なパラメータである温度分布と流体圧について、光ファイバー温度計により温度を、水理試験により流体圧を測定し、さらに数値計算結果と温度測定と水理試験の結果の比較を行ったところ、断層面上の温度不均質の原因を解明しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、アルパイン断層のような大きな逆断層成分を持つ断層の場合、断層面上の温度は断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環による熱移動に支配されることが明らかになりました。同時に断層面上の温度分布がある程度推定できるようになりました。断層面上の温度は、断層強度に影響を与えることから、地震時の滑り分布、さらには地震動予測に応用できるものと期待されます。

 また掘削が行われた現地付近は、海抜3000 mを超え氷河と温帯多雨林に覆われたニュージーランド南アルプスが海岸近くにそそり立ち、非火山地帯ながら場所により温泉も湧出しています。このような景観はアルパイン断層の活動がもたらしたもので、本研究成果はその景観形成のメカニズムの1つを明らかにしています。

特記事項

 本研究成果は、2017年6月1日(木)に英国科学誌「Nature」第546号に掲載されました。
 タイトル:“Extreme hydrothermal conditions at an active plate-bounding fault”
 著者名:Rupert Sutherlandほか(日本人研究者として加藤 尚希、米谷 優佑、林 為人、森 宏、西川 治、重松 紀生)
 Digital Object Identifier:doi:10.1038/nature22355
 

 なお、本掘削プロジェクトは、国際陸上科学掘削計画(ICDP: International Continental Scientific Drilling Program)の一環として行われました。本掘削プロジェクトへの参加には、文部科学省の科学研究費補助金事業、新学術領域研究「地殻ダイナミクス-東北沖地震後の内陸変動の統一的理解-」から研究資金の一部の支援を受けました。掘削終了後は本研究成果の内容について、日本学術振興会およびニュージーランド王立学士院による二国間交流事業共同研究「ミクロからマクロスケールにおけるアルパイン断層の力学特性の評価」の中でも議論が重ねられてきました。



用語説明

◆日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC: Japan Drilling Earth Scientific Consortium)
地球掘削科学の推進や各組織・研究者の連携強化を目的として、国内の大学や研究機関が中心となって2003年に設立されたコンソーシアム。現在、53組織が加盟。深海掘削国際共同計画である国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)をサポートするIODP部会と、国際陸上科学掘削計画をはじめとする陸上掘削科学をサポートする陸上掘削部会から構成されている。主な活動は、地球掘削科学に関する科学計画・研究基盤の検討、関係機関への提言、地球掘削科学に関する科学研究などの有機的な連携、研究人材育成、国際プロジェクトへの支援及び協力、情報発信・普及啓発の実施など。[参照元へ戻る]
◆アルパイン断層掘削プロジェクト (DFDP)
ニュージーランド南島西海岸のアルパイン断層をボーリング掘削する断層掘削計画。2011年にファタロア川から約 7 km 離れたゴーントクリーク (Gaunt Creek) において掘削深度約150 mの DFDP-1 が掘削され、2014年にファタロア川において掘削深度 893 m の DFDP-2が掘削された。[参照元へ戻る]
◆光ファイバー温度計
光ファイバーに光をパルス的に入射すると、その光は光ファイバー中で散乱を起こしながら進行する。パルス光を入射してから散乱光が戻るまでの往復時間から散乱した位置を知ることができる。また散乱光の中のラマン散乱光(光が物質に入射して分子と衝突した際に散乱される、入射光と異なった波長の光)には温度依存性があることから、光ファイバー温度計をボーリング掘削孔に設置することで、掘削孔に沿った温度の空間分布を測定することができる。[参照元へ戻る]
◆水理試験
ボーリングの掘削孔に対し、孔内の水位を人為的に変化させ、その後の回復状況を測定することで孔周囲の岩盤の透水性などの水理学的性質を調べる手法。回復状況から周囲の岩盤の地下水位を推定すれば流体圧を知ることができる。[参照元へ戻る]
◆地温勾配
地下深度に対する温度上昇率のことで(地下は一般に、深いところほど温度が高い)、通常 1 km あたりの温度上昇率で表す。一般的な大陸地殻の地温勾配は 31±15 ℃/km 程度の値である。[参照元へ戻る]
◆国際陸上科学掘削計画(ICDP: International Continental Scientific, Drilling Program)
ドイツと米国が主導国となり、1996年(平成8年)2月から始動した多国間国際協力プロジェクト。日本は1998年より加盟。現在、日本のほかには、欧州(16カ国)、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、イスラエル、中国、韓国等の計32カ国と1機関が加盟。地球表層の地殻変動(地震や火山)、地球環境変動、隕石衝突、燃料資源に関する科学掘削研究を推進している。日本では、国立研究開発法人海洋研究開発機構が代表機関を、日本地球掘削科学コンソーシアムの陸上掘削部会が代表窓口を担当している。[参照元へ戻る]
◆新学術領域研究「地殻ダイナミクス-東北沖地震後の内陸変動の統一的理解-」
2014年(平成26年)度より5年間の予定で実施されている新学術領域研究(代表:飯尾能久、京都大学防災研究所・教授)。応力と歪・歪速度と弾性定数や粘性係数等の媒質特性との関係及びその時空間分布を明らかにし、東北沖地震後に日本列島の内陸地殻で生起している諸現象を含め、島弧地殻の変動を統一的に理解することを目的とする。アルパイン断層は、断層近傍の応力・歪場の時空間的変化の把握を行う上で重要な研究対象である。[参照元へ戻る]
◆二国間交流事業共同研究「ミクロからマクロスケールにおけるアルパイン断層の力学特性の評価」
2015年(平成27年)度より2年間実施された二国間交流事業共同研究(日本側代表:重松 紀生、産業技術総合研究所・主任研究員。ニュージーランド側代表:John Townend、ヴィクトリア大学ウェリントン校・教授)。DFDP-2掘削により得られた結果の解析に基づき、ニュージーランドのアルパイン断層についての力学特性を評価することを目的とする。[参照元へ戻る]



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