大阪大学大学院理学研究科廣野哲朗准 教授グループの同研究科博士前期課程の 加藤尚希(現所属、(株)東芝)らが、日本地球掘削科学コンソーシアムの支援を受けて参画したアルパイン断層掘削プロジェクトでは、オーストラリアプレートと太平洋プレートの境界であるアルパイン断層における断層面上の大きな温度不均質を明らかにし、この不均質が断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環に支配されていることを解明しました。
本プロジェクトチームは、断層の強度を支配する重要なパラメータである温度分布と流体圧について、光ファイバー温度計により地下温度を、水理試験により流体圧を測定しました。その結果、一般的な大陸地殻の値の4倍の、非常に高い地温勾配が見つかりました。過去の断層掘削に基づくアルパイン断層上盤の地温勾配は、一般的な大陸地殻の値の2倍程度の値であり、アルパイン断層面上には大きな温度不均質があります。本研究では、測定された温度と流体圧を数値計算と比較を行うことで、断層面上の温度不均質が推定され、その原因が断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環であることが明らかになりました。
断層面上の温度は、鉱物組成を支配し、鉱物組成は断層の強度を支配します。従って、断層面上の温度不均質を推定することで、断層強度の不均質、さらには地震時の滑りの不均質を明らかにし、強度分布の推定に基づく地震動予測への応用が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature」第546号に、2017年6月1日(木)に掲載されました。日本からは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(活断層・火山研究部門)の重松紀生主任研究員、京都大学大学院工学研究科(兼務、国立研究開発法人海洋研究開発機構)の林為人教授、信州大学理学部の森宏 助教、秋田大学大学院国際資源学研究科の西川治講師、山口大学大学院理工学研究科博士前期課程(現所属、(株)宇部興産コンサルタント)の米谷優佑らも貢献しました。
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図1 アルパイン断層の分布と掘削地点 |
ニュージーランド南島西海岸のアルパイン断層は、平均約300年の間隔で大地震を発生させている活動度の高い断層で、最近では1717年に活動しています。アルパイン断層における次の地震発生時期が近いこと、隆起速度が速いことから深部における地震発生過程の理解に都合がよいことから、ニュージーランド南島西海岸のファタロア川(Whataroa River)で、断層掘削計画「アルパイン断層深部掘削プロジェクト(Alpine Fault, Deep Fault Drilling Project: DFDP)」が2014年に行われました。
本プロジェクトチームでは、今回、断層の強度を支配する重要なパラメータである温度分布と流体圧について、光ファイバー温度計により温度を、水理試験により流体圧を測定し、さらに数値計算結果と温度測定と水理試験の結果の比較を行ったところ、断層面上の温度不均質の原因を解明しました。
本研究成果により、アルパイン断層のような大きな逆断層成分を持つ断層の場合、断層面上の温度は断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環による熱移動に支配されることが明らかになりました。同時に断層面上の温度分布がある程度推定できるようになりました。断層面上の温度は、断層強度に影響を与えることから、地震時の滑り分布、さらには地震動予測に応用できるものと期待されます。
また掘削が行われた現地付近は、海抜3000 mを超え氷河と温帯多雨林に覆われたニュージーランド南アルプスが海岸近くにそそり立ち、非火山地帯ながら場所により温泉も湧出しています。このような景観はアルパイン断層の活動がもたらしたもので、本研究成果はその景観形成のメカニズムの1つを明らかにしています。
本研究成果は、2017年6月1日(木)に英国科学誌「Nature」第546号に掲載されました。
タイトル:“Extreme hydrothermal conditions at an active plate-bounding fault”
著者名:Rupert Sutherlandほか(日本人研究者として加藤 尚希、米谷 優佑、林 為人、森 宏、西川 治、重松 紀生)
Digital Object Identifier:doi:10.1038/nature22355