当社(株式会社 MORESCO)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研) ナノ材料研究部門【研究部門長 佐々木 毅】、工学計測標準研究部門【研究部門長 高辻 利之】は、フィルム状試料のガス・水蒸気透過率を測定する従来の等圧法、差圧法とは異なる新たな方法(MA法: Modified differential pressure method with an Attached support)を共同で開発しました。さらに、MA法に基づいた測定装置も開発しました(図1)。今回開発したMA法は、水蒸気等の検出器につながるスペース(検出側空間)と測定試料の間に支持体の層を設けたところに特徴があります(図2)。支持体層を設け、その構造を工夫することにより、試料交換、ガス・水蒸気の透過中に関わらず常時支持体層を設けたままにすることを可能にしました。その結果、測定試料両側の圧力差が測定試料に与えるダメージ(試料表面に形成されたガスバリア層の損壊等)を最小限に抑え、かつ測定時間を大幅に短縮できるようになりました。さらに、装置の構造が簡素化され、そのため感度も向上しました。
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図1 開発したガス・水蒸気透過率測定装置 |
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図2 開発したMA法の概念図 |
これまでの測定方法では、測定試料を装置に取り付ける際に検出側空間に大気中の水蒸気が流れ込んでしまうといった課題があり、この水分子を取り除くために、排気、乾燥ガスの導入、装置加熱等の前処理に数日から数週間の時間を要していました。今回開発したMA法では、測定試料を取り付ける際に検出側の空間を大気に開放させないため、高い真空度が維持され、前処理の時間を省くことができます。
また、MA法では検出側空間の環境が常に良好に維持されることから、上記の前処理等を通じて試料を十分乾燥させることなく測定できます。その結果、フレキシブルな太陽電池やディスプレイで必要となる10-4 g/m2/dayより優れた水蒸気透過率を持つバリアフィルムの測定において、測定時間そのものを短縮する効果もあります。例えば、従来法で測定時間に100時間を要した 10-5 g/m2/day相当のバリアフィルムの水蒸気透過率を、開発した装置では約20時間で測定でき、従来比で約1/5に測定時間を短縮できました。
さらに、開発した装置は10-7 g/m2/dayレベルの水蒸気透過率をも測定する能力を有しています。これは、サッカーグラウンド10面と同じ面積のフィルムに一日あたり1滴の水を落ちたことを測定できる能力に相当します。MA法を取り入れた装置には、産総研が開発した校正器(水蒸気を一定量導入するためのガス導入器:標準コンダクタンスエレメント)が搭載されており、透過率が既知の標準フィルムを用いることなく得られる測定値を保証することが可能です。
また、MA法は、水蒸気に加えて酸素等のガス成分も測定できます。従って、高い水蒸気バリア性が求められる有機デバイスや太陽電池分野のみならず、酸化による品質劣化を防ぐため酸素バリア性が重要な食品・医薬品包装分野、水素を取り扱う燃料電池等の自動車関連分野の研究・開発にも用いることができます。成長が期待されるバリアフィルムの生産現場における品質管理にも大きく役立つものと期待されます。当社では、先に発表した株式会社イデアルスターとの技術提携に関連して、有機薄膜太陽電池製品(OPVモジュール等)の市場形成と量産化に向けて、今回開発した装置を活かしてまいります。
尚、当社では、平成29年4月5日から東京ビッグサイトで開催される展示会(ファインテックジャパン)に開発した装置を展示しますので、ご興味のある方は、ぜひ当社ブースへお越しください。
以上