国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門【研究部門長 中尾 信典】 地圏環境リスク研究グループ 原 淳子 主任研究員、川辺 能成 主任研究員、坂本 靖英 研究グループ付、張 銘 研究グループ長は、「表層土壌評価基本図~高知県地域~」を出版する。地圏環境リスク研究グループは、これまでも国内各地の表層土壌評価基本図を整備しており、今回出版する高知県地域の表層土壌評価基本図は四国地方初となる。この図には、生活に密接した表層土壌について土壌汚染対策法に準じた手法による第2種特定有害物質(重金属類)である有害重金属類の含有量、溶出量などの濃度分布情報、さらにその地域の土地の使途や住民のライフスタイルを考慮したヒトの健康リスク評価結果が示されている。収録されている表層土壌に関する情報は、土地利用の選定、地下水利用の可否、掘削土壌の搬出判断などの基盤情報となるもので、情報不足から発生しうる不用意な環境汚染の拡大防止や地域における適地利用の施策への貢献が期待される。
これらの図はGoogle EarthTM上に表示できるKMZファイルとして地質調査総合センターのウェブサイト(https://www.gsj.jp/Map/JP/soils_assessment.html)よりダウンロードできる。
(背景地図データ: Image Landsat/Copernicus Data SIO, NOAA, U.S. Navy, NGA, GEBCO ©2016 ZENRIN)
鉛に関するヒトの健康リスク評価図
ウェブサイトよりKMZファイルとしてダウンロードできる鉛に関するヒトの健康リスク評価図をGoogle EarthTM上に示した例である。鉛のほか、ヒ素やカドミウムなどの有害重金属類の情報も収録されている。
土壌汚染の状況把握とその汚染による人の健康被害の防止を目的とし、2003年に日本の土壌汚染対策法が施行された。その際、自然由来の有害重金属類は法の対象外としてその処理に法的な規制はなされていなかった。しかし2010年の改正により、人為汚染、自然由来汚染に関わらず、法の規制が及ぶ範囲となり、市街地の再開発や大規模土木工事に伴う適地の選定では、ますます土壌中の有害重金属類のバックグラウンドなどの基盤情報整備の必要性が高まっている。
さらに国際的な動向として、環境先進国のイギリス、オランダを含むEU諸国、米国などでは土壌、特に土壌の化学的成分に関する情報の整備が進んでおり、日本は遅れをとっているとも言える。
表層土壌評価基本図の出版は、2008年の宮城県地域から始まり、これまでに鳥取県地域、富山県地域、茨城県地域の基本図を公表している。当初は国立研究開発法人 科学技術振興機構「産学官共同研究の効果的な推進プログラム/地圏環境インフォマティクスのシステム構築と全国展開」として2005~2008年の3年間にわたり研究を実施し、その研究成果の一部を基本図として公開したものであった。その後も継続的に、かつての公害影響の痕跡の有無や休廃止鉱山下流域の影響などを評価してきており、今回、高知県地域の表層土壌評価基本図の出版に至った。
表層土壌評価基本図作成のために、国土交通省が発行する表層地質図、土壌図、土地利用図を収録する5万分の1土地分類基本調査図や主要河川の分水界、休廃止鉱山跡地、道路の位置情報などをもとに、試料を採取する地域を選定し、5 kmメッシュ区分中に1カ所以上の調査地点を設けた。高知県地域の評価基本図は、366試料をもとに作成した。収録されている図面は、土壌構成成分に関する全含有量分布図(19成分)、土壌汚染対策法の公定法に準じた手法(環境省告示第18号および第19号)で評価した水溶出量分布図(20成分にpH、電気伝導度を追加)、含有量分布図(塩酸溶出量分布図、14成分)、さらにこれらの情報に基づいて土地の利用形態と住民のライフスタイルを考慮したヒトの健康リスク評価図(12成分)の4種の図面からなる。また、土壌採取位置情報を、同様の物理化学特性を示す土壌種の分布領域として示し、データの閲覧も可能としている。
ヒトの健康リスク評価図では、大気に飛散した土壌粒子の直接摂取、間隙水に溶出した成分が生態濃縮された農作物の摂取、帯水層へと浸潤した成分の地下水を介しての摂取に加えて、揮発性の高い成分については皮膚からの吸収を暴露経路として想定して、リスクを算出した。県内中部から北部にかけて東西に帯状に偏在する苦鉄質~超苦鉄質岩を主な母材とする地域の土壌では、クロム、ニッケル、銅、鉄、マンガンといった重金属類が高い含有量を示す傾向にあり、周辺沖積土への移行は顕著ではないことが判明した。したがって、高知県内には環境基準値を超える有害元素が検出された土壌もあるが、現状の土地利用形態と住民のライフスタイルであればヒトへの健康リスクは生じないレベルであると評価された。
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(背景地図データ: Image Landsat/Copernicus Data SIO, NOAA, U.S. Navy, NGA, GEBCO ©2016 ZENRIN) |
図1 調査土壌情報の提示 |
これらの図面はGoogle EarthTM上に表示できるKMZファイルとして地質調査総合センターのウェブサイト(https://www.gsj.jp/Map/JP/soils_assessment.html)よりダウンロードできる。
表層土壌評価基本図は、政府のオープンデータ政策にそって、高知県地域の基本図から有料のCD販売を廃止し、無料のウェブ出版・配信をすることとなった。今後は、日本の土壌汚染に係るリスクコミュニケーションの基盤的・体系的な情報提供のため、県単位ではなく地方単位での公開へと拡大し、短期間で全国版を整備して、利活用の拡大を目指す。