NECと国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下 産総研)は、産総研などが推進するオープンイノベーション拠点TIA(注1)を活用し、宇宙でのLSI利用に向けて、優れた放射線耐性をもつNEC独自の金属原子移動型スイッチ"NanoBridge(R)"技術を搭載したFPGA(NB-FPGA)(注2)を開発しました。
現在のFPGA(SRAM型FPGA、注3)は、人工衛星など宇宙環境で利用する際、放射線の影響でSRAMに書き込まれた回路情報が変化し誤作動が生じる課題がありました。一方、NanoBridgeは従来のFPGAの電力効率を10倍向上することに加え、優れた放射線耐性を備えています。
今回、NECは開発したNB-FPGAを用いて、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下 JAXA)と共同で地上の過酷な放射線環境下で動作実証を行いました。その結果、NanoBridgeのオン・オフが放射線の照射前後で変わらないことを確認しました。これによりNECは、SRAMと比較してNanoBridgeが放射線によるエラー発生頻度を1/100以下にできると予測し、高放射線耐性と超低消費電力を両立するLSIを実現できると考えています。
NB-FPGAは、NEDO「低炭素社会を実現する超低電圧デバイスプロジェクト」の成果を活用し、固体電解質材料を含めたNanoBridgeの各構成材料(図1)をTIAの半導体製造装置を用いて、NECと産総研が共同で開発しました。NB-FPGAはTIAのオープンイノベーションの成果の一つです。
今後NECとJAXAは、平成30年度に打ち上げる「革新的衛星技術実証1号機」にNB-FPGAを搭載し、実用性と信頼性を検証する予定です。
人工衛星で利用される機器では、高信頼性が要求されますが、宇宙での強い放射線の影響により、シングルイベント現象といわれる回路の不具合が引き起こされます。また、地上の通信機器においても、同様に放射線による不具合の発生が課題となっています。例えば、放射線がLSIに入射すると半導体基板中で電荷が発生し、電荷の有無で情報を記憶しているSRAMに不具合が発生し、回路情報の書き換えが起こります。
NanoBridgeは、固体電解質中に形成される金属(銅)原子の架橋の有無を信号のオン・オフに利用しています(図1)。オン・オフ状態は電圧を切っても保持されます。NanoBridgeの金属原子の架橋は放射線の入射で発生した電荷の影響を受けないため、放射線が飛び交う宇宙環境においても、NB-FPGAの回路の書き換えが起こる可能性が極めて低く、高い信頼性を実現します。
JAXAの実証テーマ「革新的FPGAの耐宇宙環境性能軌道上評価」(注4)において、平成30年度に打ち上げる革新的衛星技術実証1号機にNB-FPGAを搭載し、実用性と信頼性を検証します。宇宙の過酷な環境下で、カメラで撮影した画像をNB-FPGAで圧縮処理し送信する実証実験を行う予定です。
上記宇宙での実証実験に向けて、今回地上で評価を行った結果、NB-FPGAは宇宙で高い放射線耐性が得られる見通しを得ました。
今回の評価に利用したNB-FPGAの特長は、以下のとおりです。
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回路方式に従来のFPGAで使われている4入力LUT(注5)を採用することで、互換性や使いやすさを向上。64×64セルのチップに8、000個のLUTを実装。(宇宙での実証実験では、画像圧縮処理に必要な3.7万個のLUTをNB-FPGAに実装。)
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NanoBridgeのスイッチを3端子構造(注6)にすることで、オフ状態にあるスイッチの信頼性を向上。1つのNB-FPGAに、最大5、100万個の スイッチを含み、信号の切り替えやLUTのメモリーに使用。
NECは、今後、宇宙での実証実験の結果を基に、信頼性の高いFPGAの実用化を目指していきます。まず、車載機器、ロボット、通信機器(注7)などへの適用に向けて実用化を進め、その実績をふまえて、人工衛星への搭載に向けた研究開発を進めていきます。