千葉工業大学(学長 小宮 一仁)(以下「千葉工大」という)工学部(工学部長 平塚 健一)機械電子創成工学科 菅 洋志 助教は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(理事長 中鉢 良治)(以下「産総研」という)ナノエレクトロニクス研究部門(研究部門長 安田 哲二)、内藤 泰久 主任研究員、および国立研究開発法人 物質・材料研究機構(理事長 橋本 和仁)(以下「物材機構」という)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 塚越 一仁 主任研究者と共同で、白金ナノギャップ構造を利用し、600 ℃でも動作する不揮発性メモリー素子をはじめて開発した。
通常のシリコン半導体を用いたメモリー素子では、バンドギャップに起因する半導体性を高温では保持できなくなり、メモリー機能を維持出来ない。今回、情報記憶部に耐熱性を有する白金ナノ構造を利用する方法によって、非常に高い温度で動作する不揮発性の抵抗変化メモリーの実現に成功した。このメモリー素子は、高温環境下でのメモリーやセンサーへの応用、たとえばフライトレコーダーや惑星探査機への応用が期待される。なお、この技術の詳細は、Springer Natureが発行する学術雑誌Scientific Reportsに論文として掲載される予定であり、10月11日付けで電子版に掲載される。
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600 ℃高温下での動作を確認 |
紙や可燃性の記録媒体に蓄積された情報は、火災などの際に、高温による損壊によって失われてしまう。通常のシリコン半導体を用いたメモリー素子では、高温時に半導体性を発揮するバンドギャップが小さくなり、200 ℃を超える高温では、情報を維持することはできない。つまり、これまでは高温環境下での書き込みや読み込みを行うことはできず、高い温度で記録を守る技術はほとんどなかった。一方で、高温環境下で記録を守る技術は、航空機のフライトレコーダーや自動車のドライブレコーダー、惑星探査機などで希求されており、安全・安心な社会の実現や、知識を確実に次世代へ伝えることで科学の発展に寄与できると考えられる。
産総研は、次世代不揮発性メモリーの研究開発において電子素子の利用拡大を目指しており、その一端として、世界にさきがけて金属原子のナノ構造を用いた不揮発性メモリーの開発に取り組んできた(2007年6月19日 産総研主な研究成果)。今回、千葉工大と産総研、物材機構の研究チームは、千葉工大がもつナノギャップ電極の電極金属の結晶性改善技術を用いることで、高温時にメモリー性に寄与するナノ構造の構造変化のメカニズムを解明した。今回、この現象解明をもとに、電極金属に高温でも構造変化しにくい白金を電極素材として採用することで、高温でのメモリー動作を実現した。
なお、この研究開発の一部は、科研費 JP23760320、平成27~32年度 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1511002)、および、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」(研究総括 桜井 貴康)の研究課題「デジタルデータの長期保管を実現する高信頼メモリシステム」の支援を受けて行った。
災害時などの高温下で守ることができなかったデータを保存できるようになることで、安心・安全な社会の構築に寄与することが期待できる。また、データセンターなどで排熱を気にせず使用することができるため、冷却エネルギーを削減でき、省電力への期待も大きい。しかし、電子素子の高温耐久に関する研究は始まったばかりであり、今後も基礎研究を継続し、実用化に向けた研究および更なる高温に対応できる材料探索を行う。今回、明らかになったナノギャップメモリーの高温耐久性能は、室温で保存すればさらに情報保持時間が長いことを示唆しており、長期記録メモリーの開発も期待できる。