国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】と、国立大学法人 新潟大学【学長 髙橋 姿】(以下「新潟大学」という)は、新潟県の越後平野を中心とした地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)「新潟及び内野地域の地質」(著者:鴨井幸彦・安井 賢・卜部厚志)を出版した。越後平野は国内最大の面積と容積を持つ沖積層からなる平野であり、この研究報告は学術的にも社会的にも今後の活用が期待される。
この研究報告では、軟弱地盤の沖積層からなる新潟市域の表層(深さ5 mまで)の構成物の分布を「地質図」として表現した。従来は5種類程度に分類して示されていた沖積層の構成物を、今回の地質図では20種類と細かく分類して示したため、地盤の構成物の詳細な情報を一目で認識できる。今回の研究報告は、新潟市街地の産業立地や地震による強震動、津波、液状化などに対する防災・減災に資する基礎資料となる。さらに、今回の地質図のような臨海地域の表層地盤の分類や表現方法は、国内の他の地域の地質図への応用も期待される。今回の地質図幅に付属する説明書には、この地域の表層と地下の地質情報の解説のほか、資源産業の発達、地質災害の歴史や地質との関係も詳細に書かれており、新潟市域の地質データベースとして利活用できる。
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「新潟及び内野」の地質図幅
上部は表層の構成物を図示した地質図、下部は地下の構成物の広がりを図示した断面図。 |
産総研 地質調査総合センターでは、全国各地域の地質を調査・研究し、基本的に5万分の1地形図の区画(「図幅」という)で公開してきた。近年では特に、都市の立地する臨海平野での地震防災や地盤防災に関する基礎資料となる地下地質情報の提示が期待されている。しかし、これまでの地質図幅では、臨海部の地質について、防災に資する地質情報として平野地盤などに特化した取り組みや、それを表現する方法が十分ではなかった。
新潟市域は、1964年(昭和39年)の新潟地震で発生した地震動や液状化により、多くの建造物が倒壊、大規模な精油所火災が発生し、大きな被害を被った。この地震災害以降、全国的に地下地質情報を整備することの重要性が高まり、新潟市域をはじめとする臨海・平野地域における地下地質情報の公開は、地震防災のみならず、都市域の土地利用の観点からも待望されていた。
産総研の発行する地質図幅は、地域の地質環境の解明とその社会還元を目指しており、全国を網羅した刊行と社会ニーズに沿った利活用の方法を探求してきた。今回の「新潟及び内野」地質図幅は、地質情報の基本的な提示に加えて、防災・減災に関する基礎資料としての表現に特化することを目的とした。地元の新潟大学や自治体、民間企業との情報共有や共同研究により、今回、本地質図幅を作成した。産総研は、2004年の中越地震、2007年の中越沖地震以降、越後平野の陸域と海域を併せた沿岸域の地質構造の解明や、それに基づいて、過去の地殻変動の履歴や将来的な防災対策に資する地質データを整備する研究に取り組んで来た。これらの研究成果の多くも「新潟及び内野」地質図幅に含まれている。
今回の「新潟及び内野」図幅では、従来は5種類程度に分類して示されていた沖積層の構成物を、試行的に20種類と細かく分類して示した。これにより、地盤の構成物の詳細な情報を一目で認識できることが特徴である。越後平野の沖積層は世界でも有数の厚さ(160 m以上)であるが、軟弱な沖積層が厚いと地震動の地表への影響が強い。今回、新潟市域での7千本近くのボーリングデータを見直し、地下の構成物の水平・垂直方向への広がりを地下断面図としても作成した。
このように生活環境と密接に関係のある表層地質を、一目で分かるように地質図幅に提示する手法は、先駆的な事例である。都市域の表層地質の実態の公開は、災害環境を踏まえた有効な土地利用に役立ち、自然災害に対する自助能力の向上にもつながると考えられる。
図1に新潟市域の亀田郷の軟弱地盤の分布を示した。越後平野の特徴として、海側には海岸線に平行に砂丘列があり、内陸側や砂丘の間には湿地が分布する。砂丘列を構成する砂の地盤は比較的固く(N値が20以上)、一方湿地を構成するのは腐植土の地盤で柔らかい(N値が0~1)。このような地盤情報の公開は、有効な土地利用につながると考えられる。
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図1 新潟市街部の軟弱地盤(ピンク色)の分布
黄色が砂丘列の砂、ピンク色が湿地の腐植土の地盤を示す。ドットはゼロメートル地帯である。 |
今回、越後平野の西縁にある活断層の「角田・弥彦断層」を、関連調査に基づき5万分の1地質図幅として初めて公開した。図2に「角田・弥彦断層」の分布を示す。この活断層の活動は、新潟市域の強震動、津波、液状化予測に大きな影響を与えている。地質図幅に付属する説明書では断層帯の分布と活動履歴を示しており、これは新潟市域の地域防災に資する基礎資料となる。このような都市域での活断層分布と活動履歴の情報は、防災計画の基礎資料としての地質図幅の新たなニーズにつながると考えられる。
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図2 平野西縁の角田・弥彦断層(南北に延びる破線)
陸域では地下に伏在し、海域へ伸びている。南方へは長岡平野まで連続する。 |
今後も継続して全国での基礎的な地質情報の公開を行う。また、今回の新潟市域の地質図幅の作成をケーススタディーとして、人口が集中する臨海平野部の地質情報の公開を進め、基礎的な防災資料として社会に還元できるように地質図幅の公開を促進していく。