国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター【総合センター長 佃 栄吉】活断層・火山研究部門【研究部門長 桑原 保人】大規模噴火研究グループ【研究グループ長 下司 信夫】宝田 晋治 主任研究員らは、過去の大規模な地震、火山噴火、それに伴い発生した津波による災害情報をまとめた「東アジア地域地震火山災害情報図」を作成した。
「東アジア地域地震火山災害情報図」は、東アジア地域において過去に発生した大規模な地震、火山噴火、そしてそれに伴って発生した津波による災害情報を1枚の地質図にまとめたものである。災害規模、犠牲者数とその要因などが地質図上にアイコンで表示されているため、一目で対象地域の災害状況を把握できる。海外進出企業や旅行者などのリスク管理意識向上などが期待できるほか、防災計画の策定やハザードマップ作成の際の基礎データとしても利活用できる。画像データは5月20日より地質調査総合センターのウェブサイト(https://www.gsj.jp/Map/JP/asia-area-geoscience.html)で公開するとともに、各国の関係機関や研究者などに提供していく。今後、アジア太平洋地域地震火山ハザード情報システム(http://ccop-geoinfo.org/G-EVERj/)上でも、今回まとめた情報のGISデジタルデータを随時公開していく予定であり、これらのデータを人口分布など他の情報と重ね合わせ、さまざまな解析に用いることが可能となる。
なお、この成果は、2016年5月22日~26日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催される日本地球惑星科学連合の連合大会や、地質科学分野の最重要国際会議であり2016年8月27日~9月4日に南アフリカ共和国ケープタウンで開催される第35回万国地質学会議で発表する。
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東アジア地域地震火山災害情報図の一部 |
日本やインドネシア、フィリピンを含む東アジア地域は、地震、火山噴火、それに伴う津波などの大規模自然災害が多発する世界でも有数の地域である。グローバル社会では、一旦大規模災害が発生し、工場などが被災すれば、被災国だけでなく、世界中に甚大な影響を及ぼす。そのため、生産拠点が多数ありサプライチェーンの崩壊が懸念される東アジアの災害対策には世界各国が強い関心を寄せている。特に、2011年3月11日に発生した東日本大震災は、低頻度であっても、一度起これば、甚大な被害をもたらす大規模災害の脅威と、それに備えることの重要性を社会に強く印象付けた。
しかしこれまで、大規模災害に関する情報は各国が個別に保有しており、東アジア地域全体の災害情報が詳細にわかるものは存在しなかった。
産総研は東日本大震災の後、2012年に、地質調査総合センターにアジア太平洋地域地震火山噴火リスクマネジメント(G-EVER)推進チームを編成し、「東アジア地域地震火山災害情報図」作成プロジェクトを発足させた。このプロジェクトには、地震、火山噴火による災害の低減を目的に、東アジア地域の地質調査機関も参画した。そして、それらの災害情報を持ち寄って、東アジア地域で過去に発生した地震、火山噴火、津波による災害規模、犠牲者数とその要因などを整理し、1枚の地質図上に分りやすく表示することを目指した。
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図1 「東アジア地域地震火山災害情報図」上での日本付近
災害による犠牲者数とその要因を、アイコンを使ってわかりやすく色分け表示。 |
記録として残っている1850年以降の地震に関する情報や1400年以降の火山噴火に関する情報を重点的に新たに収集し、地質図上に表示した。特に、東日本大震災以降、大きな注目を集めることとなった地震や火山噴火に伴う津波の発生範囲と波の高さや活断層の位置のほか、火山灰の分布範囲、さらに、各災害による犠牲者数とその要因を新たに調査し、アイコンを使ってわかりやすく色分け表示した(図1)。
地震に関しては、マグニチュードなど地震の規模と震源域、震源の深さのほか、その地震に伴い発生した津波の情報を記載した。また、地震による犠牲者の要因は、火災、津波、建物の崩壊、地すべり、関連死に細かく分類し、それぞれアイコンで色分け表示した。火山噴火に関しては、火山の位置、火山噴火に伴う大規模な火砕流や、降下火山灰が及んだ範囲を破線などで表示した。要因については、火砕流、噴石、火山泥流、降下火山灰、津波、関連死に分類し、アイコンで色分け表示した。
これらの情報を、1枚の地質図上に表示したため、例えば、古い年代の地質の地域では地震と火山噴火による災害が少ないことなど、地質と災害の関係を読み解くこともでき、災害が起こりやすい地域、災害の規模や種類、津波や降下火山灰などの影響範囲を一目で把握できるようになった。このように、専門家だけではなく、広く一般にも理解しやすい災害情報図であることから、東アジアの災害対策に大きく貢献することが期待される。また、情報図上に表示し切れない詳細なデータについては、情報図の裏面に、日本語と英語で記述してあり、各機関には地震火山災害情報のより詳しい理解のため併せて活用してほしいと考えている。「東アジア地域地震火山災害情報図」の画像データは、5月20日より地質調査総合センターのウェブサイト(https://www.gsj.jp/Map/JP/asia-area-geoscience.html)上の地質図カタログ(アジア地域の地球科学図)のページからダウンロードできる。
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図2 WEB上のハザード情報システム
高解像度のデジタルデータとして作成されているため、地域だけを拡大して、より詳細な情報を入手することも可能。 |
「東アジア地域地震火山災害情報図」の元データは、GISによりデジタルデータとして作成されているため、アジア太平洋地域地震火山ハザード情報システムにアクセスし、日本など、見たい地域だけを拡大して、より詳細な情報を入手できるようにする予定である(図2)。また、地震情報は日々更新されるため、最新の災害情報を閲覧することもできる。さらに、検索機能により、発生した年代や地域、災害規模、犠牲者数などを指定した検索も可能である。
今回、地震、火山噴火、それに伴う津波による災害の影響範囲、被害の内訳を詳細に調査し、GISで、デジタルデータとして提供できることで、次のような効果が期待できる。まず、人口分布や交通網などさまざまな情報と組み合わせることで、将来の地震、火山噴火、津波による災害リスク評価に活用でき、各国の防災を担当する政府機関や地方自治体がハザードマップを作成する際の基礎データとなる。また、大学や研究機関などの防災研究に利用できる。加えて、教育機関の防災教育の教材、海外進出企業・国内外企業の事前の災害対策及び事業継続計画(BCP)、一般旅行者にとっての参考情報などとしての有効利用が期待できる。
現在のところ、「東アジア地域地震火山災害情報図」は英語表記だが、今後、日本語表記など各国の言語への対応も検討していく。また、「東アジア地域地震火山災害情報図」作成プロジェクトを推進した地質調査総合センター 佃 総合センター長は、ユネスコ傘下の世界地質図委員会(CGMW)のアジア代表を務めており、今後、この「東アジア地域地震火山災害情報図」を基に、東アジア地域の地震、火山のハザード情報を広く世界に発信していく予定である。