国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】 情報地質研究グループ 尾崎 正紀 上級主任研究員らは、2013年に駿河湾北部沿岸域で地質・活断層調査を行い、沿岸部の陸域から海域にかけて連続的(シームレス)に富士川河口断層帯の地質構造を明らかにした。特に、富士川河口断層帯と駿河トラフは、雁行して配列する位置関係にあり、連続性があることが判明した。
富士川河口断層帯は、南海トラフで大地震が発生した場合に、連動して大きな被害をもたらす可能性がある。中でも入山瀬断層は最も活動度が高いとされる。今回、入山瀬断層と周辺の活断層との位置関係や活動度の差を正確に把握したことにより、富士川河口断層帯のより正確な活断層評価に向けた調査研究の推進や、周辺自治体の減災計画のための詳細な地質情報を提供することで安全な都市づくりへの貢献が期待できる。
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富士川河口断層帯の沿岸域における活断層の分布と駿河トラフとの位置関係 |
フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界である南海トラフでは、マグ二チュード9を超える大地震の発生が予測されている。駿河湾は南海トラフの東端部に位置し、更に駿河湾から富士川沿いの北方には富士川河口断層帯がある(図1)。富士川河口断層帯は、陸上に露出したプレート境界として、日本でも最大級の活動度が分かっている。
富士川河口断層帯は、減災上、重要な断層として多くの活断層調査が実施されてきたが、海域への連続性は明らかになっていなかった。特に、入山瀬断層に関しては、この断層帯で最大の平均変位速度が推定されているにも関わらず、断層が地表に露出していないため、その実態は明らかとはいえなかった。
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図1 富士川河口断層帯の位置と、南海トラフやプレートとの位置関係 |
産総研では、2008年から「沿岸域の地質・活断層調査」プロジェクトとして、沿岸域における重要インフラの地震災害リスク軽減や産業立地の安全に資するため、五つの沿岸域について、活断層や軟弱な地層の分布など、地下地質や地質地盤に関する陸・海の連続性を把握できる総合的な地質情報の整備を進めてきた。
本プロジェクトの一環として、プレート境界の陸側延長部であり、西南日本弧と伊豆-小笠原弧の衝突帯でもある駿河湾北部の海陸沿岸域の地質・活断層情報を整備するため、2013年に反射法地震探査、反射法音波探査、表層堆積物調査、露頭断層調査、ボーリング調査、海底地形調査、地球物理調査などを実施した。
沿岸海域では高分解能の海上反射法音波探査と地形調査を行い、海岸から2 km以内の沖合の海底下に見られる約2万年前に形成された浸食面を広く追跡し、浸食面を変形させる四つの活断層(富士川沖断層A、富士川沖断層B、善福寺沖断層、蒲原沖断層)を確認した(図2、3)。入山瀬断層は西側を隆起させる逆断層だが、海域延長部では西側を隆起させる逆断層は富士川沖断層Aしか見つかっておらず、大きく屈曲して富士川沖断層Aへ連続すると考えられていた。今回の調査で、新たに西側を隆起させる富士川沖断層Bを確認し、以前の調査によって位置が特定されていた吹上ノ浜の入山瀬断層との連続性が判明した。また、陸域の善福寺断層は活断層ではないが、その海域延長部である善福寺沖断層は活断層であることが分かった。善福寺沖断層は、海域の四つの活断層のうちで浸食面を最も大きく変形させている。その位置や延び方向が近いことから駿河トラフに連続する可能性が高い。
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図2 富士川河口から蒲原海岸沿岸域における地質図と活断層の分布 |
一方、陸域沿岸域では、1854年に発生した安政東海地震で出現したとされる蒲原地震山付近で、反射法地震探査とボーリング調査を実施した。その結果、蒲原地震山を挟んで入山瀬断層は雁行または平行した二つの断層からなっている可能性が高いことが判明し、蒲原地震山と入山瀬断層との位置関係が明確になった。
以上のように、駿河湾のプレート境界北方延長部である沿岸域での富士川河口断層帯は、幅5 kmの間に平行または雁行状に発達した少なくとも四つの活断層からなり、それぞれの断層の活動度は、陸域と沿岸海域とで異なっていることが分かった。調査によりこれらの地質情報が得られたことで、特に沿岸地域での活断層の分布を考慮した地震災害軽減対策や施設の建設計画などへ貢献することが期待できる。
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図3 海上音波探査(図2の704測線)で得られた反射断面(上)とその解釈図(下)
浸食面の変形から四つの断層が認められる。富士川沖断層AとBが入山瀬断層の延長部である。 |
今回の「沿岸域の地質・活断層調査」プロジェクトによる駿河湾沿岸域の調査結果は、2016年6月に海陸シームレス地質情報集「駿河湾北部沿岸域」として、公開を予定している。
また、このプロジェクトは、経済産業省の新たな知的基盤整備計画の一環として、2014年からは新たに南関東沿岸域の地質・活断層調査を開始するとともに、2017年以降は、東海、近畿・四国の太平洋側を中心とした大都市・中核都市の沿岸域を対象に地質調査を行うことを計画している。今後、これらの調査を進め、沿岸域の総合的な地質情報を整備していく。